君がチョコレートをたべるとき
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君がチョコレートを食べるとき
その甘さに悶える
君がチョコレートを食べるとき
その苦みに、癒される
君がチョコレートを食べるとき
黒い欲望が胸に巣くう
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社会派だとか、エンタメだとか、アートだとか、そんなことで言い争ってる人達にチョコレートを手渡す。
社会派は言った。
「これは社会だ。甘くて美味しい。しかし注意深い人間だけが、その奥の苦みに気付く。味わい深くて、喉が渇く」
エンタメ派は言った。
「これは名作だ。一見すると黒くてどうしようもないのに、食べてみればその甘ったるさに喉が焼け付く。こういうのを待っていたんだよ」
アート派は言った。
「ほんとうのことをいえば、これは”私たち”なのです。訴えることに臆さず、その上で自身の過去に優しく寄り添うことも忘れていません。ここにあるのは、人間の価値そのものです」
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ひどい戦争の最中で、右腕を失ったばかりの兵士が、残った左腕を使って、不自由そうにズボンの右ポッケから、一欠けらのチョコを取り出した。
ぼんやりとする視界と頭。痛みに侵食される感覚。
チョコを一口齧ったその時、口の中一杯に広がる ねとついた甘味が、彼を癒した。
後に生還した彼は、語った。
「ひどい戦争だった。沢山殺したし、沢山の仲間が殺された。心も体もボロボロだった。だが、その恐怖や悲しみのことはあまりよく覚えていない。私が強烈に覚えていることは、あの日食べたチョコレートが、私の人生で最も美味しかったということだ」
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女「ねえ、今日何の日か分かる?」
男「ん、い、いや、何の日だっけ。なんかの記念日だっけ?」
女「うふふ……とぼけちゃって。可愛いんだから」
男「いや、ほんとに分からないよ。教えてよ、何の日なのさ?」
女「えー、まだとぼける気なの?そんなんじゃ ”チョコ”もうあげないよ!」
男「ん、 ”チョコ”? 今日は2月13日だけど、もしかして、そういうこと?」
女「え、嘘!?私一日間違えちゃったってこと?やば!ちょー恥ずかしい……」
男「あー、カン違いしちゃったの?ま、まあいいよ。ちょーだい」
女「うん。でも爆発するの明日になっちゃうな……」
男「え?」
女「ん?」
男「そのチョコ爆発するの?」
女「うん、する。明日ね」
男「こりゃ、大変だ」
女「安心して。貴方ひとりが吹っ飛ぶくらいに調整したから」
男「わー、ありがとー」
女「だから、明日になったら食べてね。はい、どうぞ」
男「うん、そうするよ。ありがとう(これは、すぐに海に棄てよう)」
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君がチョコレートを食べるとき
幸せが広がる
君がチョコレートを食べるとき
苦しみで息が出来なくなる
君がチョコレートを食べるとき
君は、君自身に問いかけるだろう