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果ての都市に集うモノ  作者: ユイノミヤ
第1章 見出す者
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「ラビア、新人君のことお願いね……?第一優先は響さんだろうけれど、どうせあの人達に連れて行かれるんでしょう……」


 忌々しいことに「響に危害が及んでは都市の存続に関わる」だとか何とかと適当な理由をつけて、澪から彼を遠ざけるという地味ではあるが一番気に入らない嫌がらせもしてくる。

 使命の力を制御出来ずにいた幼い頃ならば納得して、むしろ「早く避難して!」と響に願い出ていた記憶があるが、今は違う。

 コントロールもしっかり出来ているし、何より大切な人に力を向けるだなんてあり得ない。ーーにも関わらず、響をわざわざ安全地帯に連れて行くのは澪へ向けた全力の嫌がらせでしかない。

 非常に腹立たしいことに、澪の響への気持ちを完全に熟知した上で利用しているのだ。実に大人気ない。

 相手の策だと分かっていても、毎回挑発に乗ってしまう澪も澪で同罪なのかもしれないが。


「うーん……というか、たぶん彼の開花も促したいみたいよ?だから何とも言えないわ。ああいうタイプの子って、実戦で開花すること多いじゃない?」

「あー、もうっ!最悪な予感しかしない……」


 喜々として暇潰しを提案したに違いない人物に、激しい怒りを覚える。

 正直、彼らの暇潰しに付き合うのは嫌だが、新人のためであると公表されてしまえば澪に拒否権はない。むしろ進んで参加しなければならない。参加を拒否したらどうなってしまうのかーーなんて、考えたくもなかった。それに、この都市に来て間もないのにいきなり彼らの無茶振りに付き合わされる新人をフォローしなくてはならなかった。

 果ての都市には、始祖の会と呼ばれる機関がある。通常の都市でいう市議会のような役割を果たすための組織であるが、会議を開いて真面目に議論するなんてことはごく稀。普段は何をしているのか、詳細は一切不明である。

 それもそのはず、会に所属する者はクセの強い人達ばかりで、自由人が多い。

 研究者達に碌でもない提案をして実行させたり、澪や一部の都市の人間に暇潰しと称して厄介ごとを押し付けたりとしてくるのは、基本的に彼らである。都市を引っ掻き回して混乱に陥れるという点においては、種族問わず天才的な才能を発揮する。

 都市の発展に彼ら異世界人の存在と奇抜な発想は欠かせないが、限度というものがある。

 彼らが平然と巻き起こす事態を対処する身としては、もう少し落ち着いてもらいたくもあるーーが、彼らには人間の苦悩なんて理解出来ないだろう。期待するだけ無駄だ。残念なことに。

 (じん)の代表と呼ばれる都市の人間以外は、基本的に人外と呼ぶに相応しい程度には地球の常識から逸脱しているが、報復が怖いのか誰も何も口にはしない。

 まあ実際のところ、人の形はしているがほぼ人外だ。そもそも、地球上の生命体ではない。彼らの総称は、異世界人である。

 ちなみに今現在の始祖の会には人の他に、魔と天と呼ばれる代表者が存在する。

 この都市では、魔法を操る生物すべてを魔に属する者と呼び、それ以外が天に属する者といった呼び方をする。ほとんどが人の形をしている。一部例外がいるのだが、その数はごく僅かなものだ。

 単純に魔族や天族という呼び方をしようとした時代もあるらしいのだが、世界によって魔族や天族の在り方にかなりの差異が出てしまうので、取り止めになった。

 呼び方一つで暴動騒ぎを起こされたのでは、止める側にまわらなければならない人間の身体がいくつあっても足りない。意外と異世界人である者達は、好戦的な者が多いのだ。それこそ魔と天、両者同等くらいには喧嘩っ早いというか、血の気が多くて困る連中ばかりである。

 自由で破天荒な始祖の会のメンバーの中で比較的まともと言えるのは、魔に属する者達だろうか。

 正直なところ人も魔も似たようなものではあるが、何かと問題を起こしたがる天の奴らとは違う。

 人のように無関心でもないし、市内で何かトラブルが起きた際に手を貸してくれる可能性が最も高いのはやはり、魔の者達だ。人は大事にならない限り自分は無関係とばかりに口も手も出すことはない。同じ組織に属しているのだから、ストッパーになってくれて構わないというのに。

 それぞれの世界の出身者ーーとは言っても代表的な世界の、という限定的なものではあるがーーから選ばれた数人の代表者によって構成され、不定期に集まっては都市の運営に精を出す。それが始祖の会と呼ばれる組織に属する、実質的な都市の上層部である。

 

「澪、お疲れ様。ラビア、貴女ももう休んでしまいなさい」

「おばあちゃん!」

「あら、千夜じゃない」


 ラビアと二人で話し込んでいると、声をかけられる。

 家の奥から出てきたのは、神田千夜(ちよ)。真っ白な髪に赤色の瞳を持っており、「おばあちゃん」とは到底思えないほどの肌艶がある。見た目は恐ろしく若いが、これでも正真正銘、澪の祖母である。何も知らない人相手なら、母だと紹介しても不審には思われないに違いない。


「相変わらずのようね、シトリー。千夜にべったりじゃない」


 千夜の若さを保っているのが、シトリーと呼ばれる生き物である。気に入ったモノに取り憑き、力を与える不思議な存在だ。その姿は個体差があり、基本的には透明な生き物だが気まぐれに姿を見せてくれることもある。


「……千夜にしか反応しないところも相変わらずね」


 ラビアが呆れた様子で呟いた。彼女はシトリーの気配を感じる度に何度も接触を試みているのだが、シトリーは見向きもしない。それどころか、姿を現わすこともない。気配は確かにしているのに、今日も相変わらず千夜以外の生物には無関心らしい。


「あまり詳しくは言えないけれど。貴女が気にしていることはもう少し先の話だから、その間に彼にいろいろと教えてあげなさい」


 シトリーとラビアの攻防を面白おかしく見学していると、千夜が声をかけてきた。シトリーが千夜にもたらしたもう一つの恩恵ーー、未来予知で何かを見たようだ。

 千夜が口を出してくるのは珍しかった。彼女は始祖の会で、人の代表者の一人として在籍している。身内と言えども、何かに介入してくることはほぼ皆無に等しい。つい、訝しむような視線を送ってしまった。


「毎回彼らに振り回されている孫を見ていると、たまには助けたくなるのよ。それに、こんなアドバイスじゃ会の誰も気にしないわよ」


 単なる気まぐれか、始祖の会らしい発想故かは今の段階では判断出来ないが、用心に越したことはない。澪の祖母とはいえ、彼女もまた始祖の会の一員なのだ。周囲を巻き込んで引っ掻き回すという能力は異世界人と同等レベルを有している。


「本当、澪は厄介ごとを呼び寄せるの得意ね。そういうシトリーにでも取り憑かれてるのかしら?」

「ちょっと!変なこと言わないで……まあ、確かにおばあちゃんが口出ししてくるって不吉でしかないけれど」


 これから出かけるという千夜を見送りながら、先程の忠告について考える。

 本当は考えたくはない。だが、すんなりと受け止める勇気もない。

 良い意味での予知だと考えたいが、そればかりも考えていられない。悪い意味でのものだと仮定して対策を練った方が、各方面に被害が少なくて済むだろう。


「まあ、私も出来る限りサポートしてあげるから頑張りなさいな」

「ありがとう、ラビア……。そう言ってくれるだけでも嬉しい」


 確実に何かは起こる。

 そんな嫌な予感を抱えつつ、澪はげっそりとしながら一日の疲れを癒したのだった。

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