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仮面の王

 私はこの国の王に仕える従者です。五年ほど前からこの宮殿で王の側近として、身の回りのお世話から、外出の際の警護まで、時には話し合いのお相手になることもございました。

 王はお食事を召し上がりません。水もお飲みになりません。そもそも口というものがないのです。

 それから、目も、耳も、鼻もございません。

 人には七つの穴があると言われています。王にはそれが一つもないのです。

 目は本来そこにあるべき場所になく、ただ深く暗いくぼみがあるばかり。

 口はその存在感すら感じさせず、ただ平坦な肌が続いていくばかり。

 耳と鼻は、えぐり取られたようにわずかな痕跡を残して、そこからいなくなったかのようでした。

 王のお世話には、恐ろしいほど手がかかりません。私が唯一気にかけなければいけないことと言えば、彼のその異形の姿を隠し通すことでした。

 私は毎朝、王の寝室へ赴き、その顔に仮面をかぶせ、大きく長いマントを羽織らせるのです。

 彼が職人に命じて作らせた仮面は、穏やかに微笑む、美青年の顔でした。

 王は毎日、支度が整うと「すまないな」と言って、私の名を呼ぶのです。その声がどこから発せられるものなのか、私には見当もつきませんが、毎朝耳にするその声は、どこか不思議な哀しみをもって私のもとへ届くのでした。


 王の正体には皆が気付いており、王自身、そのことを認識しておられました。

 国民が王を気味悪がり、恐れを抱いていることも、最近の国の乱れが王への不安から来るものだということも、聡明な彼はすべて知っていました。

 それでも、王は美しい仮面に微笑みを浮かべたまま、真鍮の玉座に座り、国策を練るのです。


 ある日、隣国の王が二人、この国にやってきました。久しぶりの来客です。

 王は大変喜んで、この二人の賓客にありったけのもてなしをしました。

 腕のいい料理人を呼び寄せ、自分は決して食べることのない豪勢な料理をふるまいました。

 国の珍しい酒を惜しげもなく差し出しました。

 王の機知に富んだ話の内容に、二人の客人は関心を示しました。時折織り交ぜるユーモアに大いに笑いました。晩餐会は深夜まで続き、お互い大変楽しい時を過ごしたようでした。

 隣国の王たちは帰り際、口々に感謝の言葉を告げ、「この礼は後日必ず」と言ってそれぞれの国に帰っていきました。


 その夜、王は就寝の準備をする私の名を呼んで言いました。

「こんなに楽しい日は困ってしまうよ。」

 その日、王の様子をそばで見ていた私は少し戸惑いました。

「どうしてです? 王はあんなに喜んでおられたのに。」

 そうたずねると、王は私に背中を向けて、自分で仮面を外しました。

「こんな風に楽しい時を過ごすと、自分が異形の者であることを忘れてしまいそうになるのだよ。」

 そう言ってこちらを振り返るのです。私ははっとして、慌てて王のそばへ駆け寄りました。

「そのようなことをおっしゃらないでください。王は他の者と何も変わりはございません。ご自分の姿形など気にする必要はないのです。楽しいときは心から楽しんで良いのです。あのお二方の満足した顔をお思い出しください。すべて、王のお人柄によるものなのですよ。そうでしょう?」

 王はゆっくりと寝台に腰掛け、私に暗いくぼみを向けました。

「おまえは優しいな。」

 小さな声は、やはり不思議な哀しみをもって、私の中に響くのです。

「おやすみ」と言って、王が寝台に横になりました。その背中に何と声をかけたらいいのか、私にはわかりませんでした。

 部屋の明かりを落とし、

「・・・おやすみなさいませ。」

 私は静かに寝室を後にしました。


 それから数日後のある日、私はいつものように朝の支度をしに王の寝室へ向かいました。そこで、王の顔に穴が開いていることに気付いたのです。

 王の右側の目のくぼみに、小さく深い穴が開いていました。

 どうしたのだろうと不審に思いましたが、その場で問いただすことはせず、そのまま仮面をかぶせてしまいました。

 しかしその翌日、今度は左側のくぼみに穴が開きました。同じ位置に、同じ大きさの穴が開いたのです。

 やはりおかしいと思った私は王に尋ねました。

「王、目に違和感などはございませんか。痛みはないですか。」

「違和感? そのようなものはないが。なんだ、どうかしたのか。」

 王は何事もないようで、特に気にすることもないと思い、私はこの日も深く掘り下げようとはしなかったのです。

 次の日、鼻に穴が開きました。

「王、これはいったいどういうことでしょう。目や鼻に穴が開いていらっしゃいます。お気付きでしたか。」

 私はついに穴の存在を王に知らせました。

 しかし、王はあっけらかんと「気付いていた」と言うのです。

「では、どうしてそのまま放っておかれるのです。まさか、ご自分で開けられたのですか。」

「そんなことを私がすると、おまえは本気で思っているのか。」

 王のいらついたような口調に、私は口を閉じました。

「悪いが今日は体調が優れない。少し休みたいから出て行ってくれないか。」

 そう言う彼は本当に調子が悪いようで、ふらふらと不確かな足取りで寝台へ戻っていきました。

 王の調子が気がかりではありましたが、私は何も言わずに部屋を出たのでした。

 翌日、鼻にもう一つの穴が開いた王は、明らかに前日より顔色が悪くなっていました。

「王、熱がおありのようです。今日も一日休まれた方が良いでしょう。」

 私はあえて穴のことには触れずに、医者を呼んで王の看病にあたらせたのでした。

 そしてその夜、王がお休みになってから、私は王の寝室に忍び込み、物陰から様子をうかがうことにしました。

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