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六大種族



「おい、『オプファ』、それではまた体調を崩すぞ」


昼下がり、折角のティータイムだというのに相変わらずしかめっ面の"緑"は、全身で不機嫌を主張するかのように腕を組み私を見下ろしていた。あれからもう一週間が経っているのだが、何故か私のもとに毎日来る。一体何の目的で、と思うがこの家の人間が来るとまず姿を消してしまうので、目的はおそらく私なのだろうな、なんて悠長に考えていた。緑の人――……レナトゥーアと名乗った彼は非常に多くの知識と、魔法の力を持っていた。


まるで、おとぎ話に出てくる賢者のような存在。何故だか、何度訂正しても私のことをオプファ、と呼んでくる。そしてついでにレナと呼んでいい、という許可をもらった。オプファって何なんですか、と何度も聞いているのだが、帰ってくる言葉は変わらず、「オプファはオプファだ」の一言。まあ別に、私だとわかるのならどんな呼び方でも構わないけれど……うーん、悪口ではないわよね……


「お前の魔力は常に体外に溢れている。そして宙に散ったそれは、軽度ながらもお前や身の回りの者を蝕む毒にもなる。オプファの魔力は魅力的だ、だからお前は『ネム』に好かれるし妖精も寄ってくる。だから、気をつけろ。全てが良いものではないし、全てがお前に優しいわけではないということも覚えておくことだ」

「毒……え、と……とりあえず、レナは心配してくれているってことでいいですか?」

「リーベの送った人間なのであれば、俺はお前を手助けするし、リーベがお前を祝福している内はお前の味方になろう」


リーベ、リーベと女神様の名前をこれだけ出す彼はきっと女神信者なのだろう。それにしても、私が女神様の元からきたなんて、よくわかったなあ。肯定も否定もしていないのだが、彼はもう私が女神様の元から来た人間だということを把握している。司祭なのか、なんて一時期思ったりもしたけれど、なんとなく彼の雰囲気でそれはないな……なんて思ってしまった。

そして今日は、出会った時から思っていた疑問を、ぶつけてみることにする。


「あの、レナも、転生者ー……だった、り……?」

「お前は馬鹿なのか?そんなわけがないだろう。転生者は決まって女だ。それに、俺はネムだぞ。転生者がヒューム以外に転生することは今までの歴史を見ても稀なことだ。……最も、お前はその稀な一例らしいが」

「え、え!?ネム……って、あの、え!?」


ネムというのは、この世界でも滅多にお目にかかることのない種族だ。なんといっても、女神リーベから絶大な信頼と祝福を受けている種族。彼らの意思は女神の意思とまで言われる程、女神信仰が厚い種族。ただ、昔の大戦で数は半分以下になり、人前にはあまり姿を出さなくなった、と歴史の本で読んだ。そのネムが、私の目の前にいるだなんて。その稀な存在は、窓の縁に緩く腰を掛け外を眺めている。怖いくらい整った、美形と言わざるを得ないその横顔が、今は何というか納得できる美しさだ。だって人外なんだもの、それはそうよね。


この世界には、私の世界で言うところの人間、獣人、ドワーフ、エルフ、魔族、それから妖精の六大種族がいる。ヒューム、ラムダ、ドラム、エルム、アズリム、ネム。その中でも稀なのが、彼、ネムだ。アズリムはもっと人前に姿を現すことはない。ネムが姿を現すのはその人間やその国が女神の祝福を授かる時だといい、アズリムが人前に出てくるときは、全世界が戦いに沈み滅びる時だといわれている。


「何を驚く?俺たちは確かに存在し、生きている。少し姿を見せたくらいでそんなに驚くな。やりずらいだろう」

「いや……とっても珍しいって本で……」

「お前が私をヒュームと見間違えたように、ネムはその辺にいる。お前たちが知らないだけだ。最も、好き好んで姿を見せていないような奴もいるがな」

「へええ……そう、なんですか……あ、ところで、私が稀な一例ってどういう……?」

「なんだ、知らんのか。お前は世にも珍しい四種族の混血児だろうに。血縁者から何も聞いていないのか?」

「四ッ……ええええ!?」

「五月蠅い」


どうやら私はヒューム、ラムダ、ドラム、エルムの血が混じっているらしい。あのネムが言うのだから、きっと間違いではないんだろう。お父様は、ドラムかな……あの大きさに、あの風貌だし……とすると、お母様がエルムかしら。きっとそうだ、あれほど綺麗な人なのだから、エルムでも不思議はない。しかし、私の記憶が正しければ、ドワーフとエルフって物凄く仲が悪かったような……?この世界には、そういうのはないんだろうか。早速私の知っている知識と違うことが出てくる。やっぱり、少し知っていることが多いくらいじゃ、何の役にも立たないか……


「おい」


妖精が寄ってくるって言ってたけど、ネムはあくまでも精霊族であって、妖精ではないのかな。


「おい……」


でも、前世で読んだ本には、目に見えないものが精霊で、その大きな括りの中にいる目に見える人型のものが妖精とかなんとかって読んだ気がするんだけどなあ……


「おいオプファ!」

「ッはい!?」

「ぼんやりするな、今度は何を考えていた」

「あ、えーと、レナのことについて……?」

「なんだ、わからんことがあるなら直接聞けばいいだろう」

「ああ……いやまあ、そうなんですけど……えーと、じゃあ聞きますね。ネムって精霊のことですよね?妖精は、ネムとはまた違うものなんですか?」


そう疑問を投げかけると、レナは思い切り顔を顰めた。何かマズい質問をしてしまっただろうか。ため息を吐きながらレナが口を開く。小声で「なぜそんなことを気にするんだこの娘は」と聞こえたが、気になるものは仕方がない。好奇心旺盛なのだと逆に褒められていいくらいだと思う。

少し考える様なそぶりを見せた後、レナは再び口を開いた。


「そうであるしそうでない。ネムは完全な精霊だ、肉体としてそこに実在はしていないがこうして姿を見せる力もある。全ての自然は全てのネムの姿であり、力であり、本来の姿であると言っても良い。そこの木も広く見ればネムだ」

「ひええ……壮大な話になってしまった……」

「そして、妖精というのは精霊の成り損ない。生まれ持った中途半端な力のせいで下級の魔法がやっと使える程度、そして小さな人の形にしかなれないものの姿だ。こういう妖精は、契約や力を蓄えれば精霊になることもできるが、妖精が精霊に格上げされることは、まずない」

「それは、どうして」

「妖精から精霊になるには、精霊王に認められる必要があるからだ。精霊王は弱いものを受け付けない。逆に、精霊王に認められた妖精は、非常に強い精霊になる傾向にある」


精霊はなんとなく、優しいイメージだったけれど、そんな弱肉強食みたいな世界だったなんて知らなかった。と、いうか私の世界に妖精や精霊が目に見えて存在していなかったんだから、知らなくて当たり前なんだろうけれど。それにしたって、なんてシビアな世界なんだろうか。優雅なイメージが一瞬で覆った。精霊王は意外とスパルタのようだ。


「なんていうか……精霊王、厳しい人なんですね」

「……王本人も、元は妖精だからな」

「え!?そうなんですか!?」

「リーベとの契約で力を蓄え、精霊になった」

「女神様と……?女神様ってもしかして、元はこの世界の――」


人間だったんですか?

そう聞こうとした瞬間、ばたばたという足音と共に勢いよく扉が開く音が背後に響く。振り返ると、そこには驚いた表情を浮かべたアレッサが立っていた。何やら肩で息をし額に汗をかいているのを見ると、相当急いでここに来たらしい。レナはいつものように消えただろうかと視線を少し向けてみると、これまた驚いた表情でアレッサの方を見ているレナが視界の端に映った。


あれ?とうとうバレた?

ひょっとして、マズい状況……?



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