告 白
太は、車に乗ると、温かい缶コーヒーを渡してくれた。修治は、ハンカチを取り出し太の額の汗を拭った。修治は、悴んだ掌を缶コーヒーで温めながら、動き出した車の中で、ぽつりと自分の過去を語り始めた。
「俺はねぇ、今まで妻子持ちとしか付き合ったこと無かったから歳越しは、いつも独りきりだったんだ。」
「僅かな休暇のために、寿司詰めの電車で帰るのも如何なものだしねぇ。」
ここまで言うと、曇った助手席の窓を手で拭いたので、修治の袖口が濡れてしまった、車の外のテールランプの交差を目で追いながら、黙り込んでしまった。しばらくの沈黙がつづいた。
太が「俺んちに来るかい?」と聞こうとした途端、修治が話の続きを始めた。
「最後の思い出に、太さんに会えたこと。本当に良かった。ありがとうね。」修治が此処まで話をすると太は、車を側道に止め、ハザードランプを点滅した。修治はつづけた。
「もう卒業、卒業するんだ、こんな世界。好き好きだけで始まって、建設的なもの何一つもない、ただ悪戯に傷つけあうだけの関係なんてまっぴら御免でね。」と修治がコーヒー缶を見つめながら言った。太がこう続けた。
「そんなことないよ、まぁ20代は仕方ないけど、30代になると大半がパートナー見つけて、上手くやっているよ。遊ぶったって、男女のそれとあまり変わらないと思うよ?」と言ってはみたが、修治の意思は固かった。
「仕事初めの五日午前中で仕事はける予定だから、西公園へ架る高架橋に、彼女を呼び出したんだ。お付き合いを申し込もうと思っている。」
此処まで聞くと、太は仕方なく、ゆっくりと車をスタートさせた。修治も一言もかたらなかったので、車中は白けたものとなった。太は、ひたすらに前を向き、修治の街へと車を走らせた。街に付いても太は、何も行動をとらなかったので、修治は自分で扉を開けた。修治が車を降りると。太は、「じゃ。」とだけ言って、車を走らせた。ルームミラーの中で小さくなっていく修治を見ながら、涙が次次と溢れ出し、太はそれを拭った。
仕事初めの日が、やってきた。オフィス街の往来も、いつもとは違い少し華やかになっていた、晴れ着姿の女子が見て取れたし、男子は新調のスーツ姿だった。この日ばかりは、出社も遅く会社では出社した順番に社員同士が、「あけましておめでとうございます」を、繰り返した。11時ぐらいになるやっとオフィスルームの全員が揃い、デーブルが片付けられ、そこにビールやら、日本酒やらが並びだし、テーブルの中央にはオードブルがセッティングされた。係長から、部長、常務の順番で、新年の挨拶と今年の目標を語り始めた。常務の「あとは無礼講と言う事で。」のあと全員で乾杯をした。
乾杯を済ませると恭子は、早々に帰り支度を始めた。
「下の高架で待っていて、話したいことがある。」と修治に言われた性である。修治のポケットには、「NewYearコンサートのペアーチケット」が入っていて、先に出て行った恭子の後を追った。エレベータを2階で降りた。ビルの2階から公園に続く高架橋の中央で山賀恭子が待っているが見て取れた。恭子に近づきながら、修治はポケットのチケットを確かめた、笑顔で近寄りながら、ふと高架橋の下を見ると、高架橋の2階から1階の歩道までの階段を降りた先にある公衆電話のガラスの壁に、もたれ掛かった太が立っていた。太は、修治と眼があったのを確認したうえで公衆電話を、後にして公園の中へと消えていった。公園へ消えていった太を、眼で追いながら。
恭子に「用事が、出来たので行けなくなった、代わりに行ってくれないか」とペアーチケットを渡した。そして公園に消えた太を追った。
修治が、後を追ってくるのに気がつくと、太はその速度をゆるめた。太に、歩調を合わせて歩く修治。もう太に、声をかける勇気を持ち得なかった、ただ太の後ろ付いて歩くうちに、修治の瞳から涙がぽろぽろ毀れてきた。公園の出口に差し掛かった時、初めて太が歩みを止め、修治を振り返った。そしてこう言った。
「俺は、君が大好きだ、そのことを君は知っている。そして、君も俺を、好きになっている。けれど君は、その両方から逃げようとしている。それ故、関係の無い女性をひとり傷つけた。」
此処まで聞くと、修治は、声を上げて泣いた。
「もっと自分に素直になりなさい。」修治は更に泣き崩れながら
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」と詫びを入れた。
「詫びるのは僕にじゃない。」ここで太は、小さなため息をついた。
「このままじゃみっともないから、俺の部屋に来るか?」と太が尋ねると、修治は、泣きじゃくりながら「はい」とだけ返事をして、とぼとぼと太の後を付いていった。
公園の近くの部屋に付き、先に部屋に入って修治を待った、修治が部屋に入って来ると、突然、太は修治の両手を頭の上で組ませて扉へと押し付けて、修治の自由を束縛した。そしてしゃくり上げながら泣く修治の頬に頬を付け、唇に唇を重ね、そして首筋を弄りながら、
「俺はお前が好きだ。」
「愛している。」と懇願した。もう太も泣いていた。
「ほら、俺の事、好きなんだろ、愛していると言え。」と太がと言うと、修治は脱力し、しゃがみ込んでしまい、泣きじゃくった。そんな修治を再び抱き上げ、
「ほら、どうなんだ。俺の事愛しているのか?」と再度太が聞くと。
修治は「はい」とだけ言って、またしゃがんでしまった。
今度は、修治の胸をつかんで、立ち上らせた。その時、上部のボタンが幾つか、ちぎれてとんだ。それを見た太は、修治の上着のボタンを全て引き千切り、Tシャツも引き千切り、首筋に唇を這わせた。
そして「良いんだな、俺で、良いんだな。」と太は聞いた。修治はただうんと頷くと太は、修治の手を引いてベッドルームへと修治を導いた。
太は、修治の首筋を愛撫し、修治の上着を全て脱がせて、胸やらうなじやらを、愛撫した。太は、修治の身体に集中し、修治は、太の動作に集中した。
どれ位の時間が経ったのだろう。何度目かのシャワーを終えた後、修治の身体から離れた太は、
「飯でも食いにいこうか?」と修治に聞いた。修治は、床に脱ぎ捨てられたシャツを拾いあげ、ぼろぼろにひきちぎられたボタンをみせて
「これじゃーね、ちょっとねぇ。」と言った。太は、新品のTシャツとダウンを持って来て、
「では、とりあえず洋服でも見にまいりましょうか、お坊ちゃま。」といった。
修治は、ニコニコしながら太を引きよせ、額にキスをした。




