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風が鳴いてるね  作者: 伊井下 弦
4/15

約束

その日は、どんよりと重い雲を従えた天が、朝から空を支配していた。その空とは裏腹に街は、白光を繰り返し放つ街路樹と、人と車とネオンとで埋め尽くされていた。まだ4時を少しばかり過ぎた所だというのに、ウィンドウの向こう側は、暗くほとんど暮れかけていた。紙カップコーヒを右手に、オフィスのウィンドウ越しに、そんな風景にただぼんやりと目を落とす修治がいた。



数日前に考えていたアイデアも、その後彼を襲った出来事も、もう彼の脳裏には無かった。ただそこに在るきらびやかな風景と、事務的な約束だけが頭の中をゆっくりとしたペースで、回り続けているだけだった。というよりも、―度闇の中へ放り投げた想いを、再び拾い上げベールを解き放つ勇気と自制心とを修治は、持ち合わせていなかった。この数日間修治は、あの出来事を忘れ去ると言うより、唯々恐ろしい事であり考える事さえも避けていた。今の修治には、眼下に車のネオンが流れて行く、只その事象を認知するだけで精一杯だった。


そんな修治とは別に、オフィス内は、話題が豊富な分だけ、いつもより騒がしかった。独り取り残されて居る修治を気遣ってどうか、新入社員の山賀恭子が話しかけてきた。

「先輩、会社のクリスマスパティー、欠席するって本当ですか?」手の仲の紙コップにコーヒーをまわしながら聞く恭子に。

修治は、「うん、まぁーちょっと用事があってね。」コーヒーをすすりながら、腰掛けていた空調機から、体を持ち上げた。

「去年までは、来ていたんでしょ。どうして今年は、来ないいんですか?尾形先輩たち、彼女でも出来たんじゃ無いかって、噂していますけど本当ですか?」と恭子が聞くと

「いいや、そんなんじゃないよ。」と修治が言うと恭子は、

小さな声で、「そうですか、良かった。」と呟いた。



しかし、修治はその言葉を認知する前に、別の言葉に耳を傾けていた。

「おい、関谷電話だぞ。」「はい、今行きます。」修治は島まで戻り電話を、取った

「はい、もしもし関谷ですが。」と答えると

「修治君か、俺だ、雅博だ。この間はどうもすまなかった。大事な話がある、今日時間あるかね?」

それは、数日前の悲劇の加害者である、雅博であった。突然の申し出に、

「えっ、まぁ。」と答えるのがやっとだった。

「そうか、それじゃぁ、今日6時いつものホテルのロビーで待っている。食事でも一緒に、いいね。」「あの、大事な話って?」と修治が聞くと「それは、後でゆっくり、今ちょっと急いでいるから、それじゃ~後で。」 そう言うなり、雅博は電話を切った。



修治にとって、その突然の申し出は、決して手放しで喜べる物ではなかった。闇夜の奥底に、葬り去っていたはずの煩わしい事象に彼は、支配された。また彼の中にもう一つの想いも駆けめぐった。

「逢える、また逢える。」受話器を置くと、暫く彼は自分のディスクに座り込んでしまった。

「でも、どうして、いったい何故、雅博さんは?」その問題について、まだ突き詰める余地はあったが、それ以上考えることは余りにも恐ろしいことのように思えた。



今の彼にとって理解できたことは、ただ太との約束をどうにかしなければ。ということだけだった。彼は、パスケースから、名刺を捜し出すと急ぎダイヤルをプッシュした。

「はい、河原設計事務所です。本日の業務は全て終了致しました。明日電話を下さるか、メッセージを残して下さい。」

「あの、関谷です、修治です。本当ごめんなさい、今日行けなくなりました。ごめんなさい。また電話します。それじゃ。」 修治は、そうとだけ言い残し、電話を切り、小さな溜め息をついた。



約束の時刻より修治は少し早くホテルに着いたが、ロビーでは、雅博が既に待っていた。

「やぁ。」そう言いながら、雅博はすこしの微笑みと共に修治を招き寄せた。

「どうも、わざわざ来てもらったのに待たせたみたいで。」

「いや、そんなことはないよ。今日は役所に用事があったから、こっちに来ていたものでね。気にすることはない。とにかく上のレストランにテーブルを取ってある、行こうか?」

二人は、ロビーのエレベータへと足を向けた。



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伊井下弦 風が鳴いてる

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