閑話 sideシオリ 勇者たちの1日
チュンチュン
パチリ
うぅん、いい目覚めだ。
あぁ昨日は楽しかったなぁ。
夕方まで異世界の街で遊んで、夜はアキトと…
左耳に付けた紅いイヤリングを優しく撫でる。
異世界の街を歩くなんて一生に一度あるかってものだし。まあ、普通は一回もないんだけどね。
「おはようございます」
広場に出ると、もうほとんどの仲間が集まっていた。
うん?何か男子が、集まって話してる。
……なぜかこちらを見ているような。
何だろう?
「全員集まったな、今日もいくぞ。」
隊長の掛け声で、森の中へ入って行く。結局何なのかよくわからなかったな。
バゴーン、ズドーン。
森のあちこちで爆音が鳴り響く。
「コウスケ行くよ『ライト』!」」
ドッカーン。
リズミカルに魔物が吹っ飛んでいく。鋭い閃光とともに木っ端微塵になる。
理不尽な程の戦力差だ。ゾウがアリを潰すようなものだ。
「一匹残らず駆逐してやる!」
若干調子に乗っている人もいる。あとそれ逆だからね、立場が。
でもまあ、わからなくはないかな。勇者たちが強すぎるんだ。異世界に来て二ヶ月、正直毎日ラクな戦いみんな拍子抜けしていた。遠くから不意打ちで一発打てば終了。二撃目すら必要ない。ほとんど作業だ。たまに隊長が近くのダンジョンに連れて行ってくれたこともあったけどやっぱりそこも弱かった。隊長いわくもっと強いところもあるらしいけど、みんなの士気は下がりっぱなしだった。
でも。私は油断なんてしない。いくらなんでも魔王がLv.10とかの勇者より弱いわけないし、私には強くならなくちゃいけない理由があるから。
そう。「アキトを守る」っていう理由が。
このときシオリは信じて疑わなかった。
アキトは元の世界では強いのだけれど、こっちでは偶然弱くなってしまったのだと。だから自分がアキトを守らなくてはならないのだと。
後日それを聞いたアキトがショックを受けるのはまた別の話。
「よーし、今日の狩りはここまで!」
夕時、6時の鐘が遠くに聞こえる頃、隊長が撤収を呼びかける。
「シーオリ~、どーだった?レベル上がった?」
カエデが抱きついてくる。
「うん、今日は光魔法が1あがったかな」
「お、よかったじゃん」
「カエデは?」
「わたしは魔力放射が1つ上がった」
「へ〜」
他愛もないかな会話を交わしていると突然。
「こら、男子こっち見ない!」
…やっぱり見てるよね。朝もそうだったけど、訓練中も今も。それも何だかチラチラ様子を見るように。
本当に何なんだろう?
「あっ、シオリ今日イヤリングつけてる!かわいいね」
「そうでしょ!もらったんだ」
「へ〜、……誰に?」
「えっ……とぉ……」
「まさかアキト?」
「……」
「はぁ、あいつはやめときなって」
「なんでよ!」
毎度毎度思うけどどうして、カエデはアキトを目の敵にするんだろう…
「なんで、カエデはアキトが嫌いなの?」
「だって、あいつ弱いじゃん」
「アキト君は弱くないよ!」
「シオリはいっつもそういうけど、イジメられててもやり返さないし、絶対弱いんだよ」
「…それは、アキト君は優しいから…」
「またそういう!一度もかっこいいところ見たことないじゃない。シオリならもっといい奴いるよ」
「はぁ〜」
どうしても分かってくれないんだよなぁ。アキト君が一度でいいからいいとこ見せれば変わると思うのに。
いつか、絶対カエデにも理解させて見せるんだから!
夕飯を食べて、各自部屋に引き上げていく。
私はいつものように、棒術の訓練をしていく。正直、近接戦闘用の棒術を使うことはまずないけど、何が必要になるか分からないからね。
すると、誰かが近づいてくる気配がした。
「やあ、シオリかい?」
「あぁ、コウスケかぁ。どうしたの?」
「いや、どうもしないけどさ。毎日こうやって訓練してるの?」
「そうだよ」
強くならなくちゃいけないからね。
「へぇ〜」
どうしたんだろう、コウスケ。私が訓練してることくらい知っているだろうに。もじもじして、何か話したそうにしてる。
「…あのさ、シオリってアキトと付き合ってるの?」
「へっ、いや、あの、そんな…まだそんなことは…」
なんでコウスケがそのことを!
でも、今付き合ってるわけじゃないし…
「……そうか、まだか…」
それじゃあな、といってそそくさと立ち去るコウスケ。
本当にどうしたんだろう…
ピロリン
ーーーーーーーーー
「棒術」レベルが上がりました
ーーーーーーーーー
おぉ、レベルが上がったらしい。
「必ず、元の世界に戻してあげるからね。アキト」
シオリは誓うのだった。それが全くの見当違いともまだ知らないで…
暗部はゆっくりと、だが確実に忍び寄っていた…