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魔法至上世界の最強剣士【連載中止しています】  作者: ぴょん兎
チート無しで異世界転移?いやいやいや........
22/27

閑話 sideレオナ 今度は助けてみせる!

久々の投稿です。

正直ここまで遅れるとはおもってませんでした。

今回は少し重ための内容です。

レオナの過去編です。

「おーい、お姉ちゃーん、帰ろー」


 頭から小さな耳を立てた、銀髪ショートの少女がふわりとした尻尾を振り乱しながら駆け寄ってくる。

 妹のフィオナだ。


「うん、帰ろうか」


 私は私の周りをぐるぐると回っているフィオナに声をかけて、獣道を一路村へ向けて歩き始める。



 その先になにが待っているかも知らぬまま.......




 私はレオナ、銀狼族のレオナだ。

 私は銀狼族の村、レオンルードの長のレオンとイオナの間に産まれた長女だ。



 銀狼族というのは少し変わった種族で、大陸東部のエルミヤ大森林の中でほとんどの獣人が南の獣人、北のエルフというように争っている中、我関せずとばかりに森林西部のリンゼン大峡谷との境界を少し北にいったところにある草原に大小様々な村をつくり、どちらにも干渉することなく暮らしていた。


 その中でもレオンルードは100の銀狼族がつくる中の上くらいの村だ。その長である私たち一家は私とお父さんお母さん、それにフィオナの4人家族だ。フィオナは2歳下の妹で、活発でやんちゃ好きだ。銀狼族というのは極めて仲間意識が強い種族だ。基本的に温厚で、そのため村もとても平和だ。





 .....いや、だった(・・・)





 あの日までは.......








 その日、私とフィオナは村から1キロくらい北にいったところに薬草などを摘みに行っていた。


 季節は春。

 草木の芽吹くこの季節は食用の若草などを食べるため、頻繁に摘みに行く時期だ。


 時刻は夕方。

 西の空がたしかに赤く色づき始めた頃だ。


 私とフィオナは村へ帰っているところだった。



「.....あれ、なに?」


 先に気付いたのはフィオナだった。


 青と赤が混じり合う南の空にモクモクと煙が立ち上っていた。



 私たちはとても嫌な予感がした。

 言葉をかわすこともなく、村へ走り出していた。



 .....だが、あとになって思えば、私たちは逃げるべきだったのかもしれない。あんなことになるとわかっていたなら.......







 2人はレオンルードにたどり着いた。いや、たどり着いてしまった(・・・・・・・・・・)



 そして見てしまった。

 その光景を。



 あちこちから火の手が上がり、煙で視界が悪い、道にはたくさんの村人が見慣れぬ男たちから逃げ惑い溢れかえっており、道の端を見れば動かずに横たわっている村人、村中から炎のゴウゴウという音に負けない悲鳴の罵詈雑言が響き渡り、焼け焦げたにおいとともに、血なまぐさい死のにおいが広がっている。


 なんと言い表せばいいだろうか、阿鼻叫喚?狂瀾怒濤?地獄絵図?

 そんなものでは言い表せない情景が2人の眼前に広がっていた。


 茫然自失としていた私たちだったが、追いついてきた理解で吐き気を覚えてうずくまって餌付いてしまった。


 ....何が起きてるの?

 どうしてこんなことになってるの?

 あの人達は誰?

 わからないわからない.....


 私は混乱していた。


 ただこれだけは漠然と理解していた。



 ああ、ここは地獄だ

 と。


「......!!!おばさん!!」


 フィオナの声にハッとして頭を上げると、フィオナが混乱の渦中にある村の一角に走り出そうとしていたところだった。


「!!!待ちなさい!」


 慌てて声をかけるがフィオナは立ち止まらない。仕方なく追いかけるも、フィオナはすぐに立ち止まった。


「........どうしたの?」


 フィオナは膝を付いていた。


「!!!!」


 フィオナの頭の横からのぞきこむと、そこには....


 女性の銀狼族が横たわっていた。


「バメラおばさん....」


 バメラおばさん


 うちのお隣さんでパン屋を営んでおり、私とフィオナがいくとよく笑ってパンをおまけしてくれて、気のいい笑顔が似合うおばさんだった。


 だがその顔に笑みはない。


 その顔は生気がない。目は虚ろですでに光はなく、目の端と口からは涙と唾液のあとがくっきりと残っていた。身体を見れば両足の健が切られており、片耳が切り落とされていてあちこちで切り裂かれている。衣服は引き裂かれていて、股にはことに及んだとわかる痕跡が残されていた



 見るからに死んでいた。


 私は胸の中に冷たいものが通り過ぎていくのを感じた。


 フィオナが嗚咽を漏らしているのが妙に遠いものに感じる。


 どうしてこんなことするの?

 なにが目的なの?

 彼らは私たちの敵...だよね?

 だとしたら一番狙われるのは....


 そこまで考えてハッとして頭を上げると同じようにフィオナを見ると、向こうも気づいたらしく青ざめている。


 なんで気づかなかったの私!まだお父さんとお母さんに会ってないじゃない!2人が危ない!!


 私たちはアイコンタクトを交わすと、村の外れから喧騒が鳴り響く中央部の家へと駆け出していった。


 だが私は気づいていなかった。長であるお父さんの娘である私自身もまた、捕縛対象であること....





 私たちは2人しか知らない近道をがむしゃらになって駆けていた。


 草が手足を切る。炎が身体を舐める。


 怖かった。どうしようもなく怖かった。


 今この瞬間、お父さんたちが殺されるんじゃないかと思うと恐怖で身体が震えた。


 それが2人を焦らせていた。



 そして、それは最悪のカタチで現実になった。


「あ....あぁ....ああぁぁぁぁ....」


 2人はたどり着いた。いや、たどり着いてしまった。



 燃えている(・・・・・)家に...


 屋根から炎を上げている。火だるまになっているわけではなかったが、既に2階は火に包まれていた。


 私は膝から崩れ落ちた。


 どうしてこんなことに.....


 私の中でお父さんが...お母さんが...家族との幸せな時間が...その思い出が...燃え尽きて消えていく......


 ココロが悲鳴を上げる。視界が暗くなっていく......


 そのなかで、小さいが確かな音が聞こえた。金属音だった。家の方から聞こえる。

 キンッキンッ

 ほらまた。


 不思議に思って頭をあげると、燃えて崩れ落ちた扉の奥で数人の男と1人の銀狼族が戦っているのが見えた。



 お父さんだった。



「お父さん!!」


 そう叫んでしまった私を誰が責められよう。だがそれはしてはならないことだったのだ。



 振り返ったお父さんは驚いた顔をしていた。


「レオナ!来ちゃだめだ!」


 お父さんの後ろで男が右肩に溜めた剣を振り下ろそうとしているのが見えた。私を見ているお父さんは気づかない。


「お父さんダメェェェェェェェェ」


 その声は届かない....


 お父さんは背中を右肩から左下へと切り捨てられた。


 お父さんがゆっくりと崩れ落ちる。動かない。ゆっくりと血溜まりができつつあった。



「ははあ!しぶとかったじゃねえかぁ!ようやく死んだか!....さてぇ?」


 男の目が私たちを捉える。頬に傷のある男だった。


「ははぁ!上物じゃねえかぁ。今日はついてるなぁ。」


 男たちがゲラゲラと下卑た笑い声を上げても、私は動けなかった。後ろで(フィオナ)が何か叫んでいるような気がする。


 足が震える。動かない。


 傷の男が片手にお父さんを切った剣を持って、反対の手を伸ばしてくる。なんだかひどくゆっくりに見える。



 ふいに左から突き飛ばされた。フィオナだった。私は1mほど離れた地面に崩れ落ちた。男は気にした様子もなくフィオナをつかむ。フィオナが必死にもがいているのが見える。




 だが、それでも......



 それでも私は動けなかった。


「あ....ぁ...」


 ただ、うめき声を上げるだけだった。


 男の手が容易く私を捕まえる。私は抵抗さえしなかった。


 視界が薄れていく。


 心に思ったのは一つだけ....




 わたしが.....私がお父さんを殺してしまったんだ....




 私は14歳、フィオナは12歳のことだった。私たちはこうして奴隷になった。










 ガタンゴトンガタンゴトン


 馬車の揺れで浅い眠りから目が覚める。


 正面には黒い鉄格子が見えた。


 横を見ればフィオナが私に寄りかかって寝ているいる。フィオナの首には薄汚れた首輪がかかっている。目には隈があり、身体は痩せこけ、服は村にいたときには考えられないくらい痛んでいる。全身には浅い切り傷があった。


 痛々しい。


 私はそう思った。だが、周りにいた人がもしそれを聴いたなら、間違いなくこう思ったことだろう。

 お前ののほうがよっぽど痛々しいぞ、と。


 私はフィオナ以上に痩せ衰え、目には深い深い隈があった。当然だ、奴隷になってからほとんど食事を口にせず、一度もしっかりと眠っていないのだから。いや、それは正しくない。食べられないし、眠れないのだ。食べてもすぐに戻してしまうし、眠るとあの情景が浮かび上がってきてすぐに起きてしまうのだ。お父さんを殺したあの情景を......


 奴隷になって2ヶ月半。馬車に乗せられマルゼンというところに向かっているらしい。


 あの後、結局お父さんとお母さんがどうなったかはわからない。ただ、お父さんはあの出血量だ。おそらく生きてはいないだろう。そのことが、重く2人にのしかかっていた。あんなに元気だったフィオナでさえ今ではほとんど会話もしなくなっていた。


 だが、私にはそれとは別にもう一つのしかかっている事があった。それは、「お父さんを殺した」という事実だ。フィオナは繰り返し私に「お姉ちゃんが殺したんじゃない。殺したのはあの男だよ!」と言ってくれるがそうじゃない。私が声をかけなければお父さんは死ななかった。私があそこにいなければお父さんは生きていた。私が、私が......



 私が....私が死ねばよかったのに.....


 格子の外では男たちが口汚く騒いでいる。




 だからだろうか、それ(・・)に一番最初に気づいたのは私だった。


 ギチギチ、ガサガサ


 ふとして、そちらを見ると薄暗い森の奥に赤い目が2つ見えた。ようやく男たちも気づいたらしく顔を青ざめていた。


「ひえぇぇ、ポイズンマンティスだ!逃げろ!おい、護衛なんとかしろ!」


 ポイズンマンティス

 それを聞いて、わたしは頭からサッと血の気が引いていくのを感じた。たしか、お父さんが言っていた。両ガマから猛毒を出すカマキリの魔物で出会ったらとにかく走れ、切られたら命はないと。....ああ、そんなに私たちを思っていたお父さんを私は.....


 そうじゃない!今は私たちが生き残る事を考えないと!


「フィオナ!起きてフィオナ!」


 ああ、もう!こんなときに!

 長らくまともに喋っていなかったせいか声が掠れる。


 イライラをそのままに私はフィオナの細い肩を掴んで揺する。


「....うぅん、.....お姉ちゃん、どうしたの?」


「ポイズンマンティスが出たのよ、逃げるよ!」


「で、でもお姉ちゃん、ここ牢屋なんだよ!」


 しまった、ここは草原じゃない。牢屋の中なんだ。

 私は歯噛みする。


 しかしそれを解決してくれたのは奇しくも魔物だった。


「!!伏せて!」


 とっさにフィオナの頭を抱えて倒れ込む。頭上を死の鎌が通り過ぎる。はらりと後ろ髪が切られて落ちる。牢が音をたてて崩れ落ちる。


 ポイズンマンティスが牢屋ごと私たちをたたっ斬ろうとしたのだ。


 断面からシュワァァと音と煙が上がる。魔物の毒で溶かされているんだ。


 私は戦慄した。鎌の切れ味に。毒の強さに。そして敵の強さに。


「!!逃げるわよ!」


 フィオナの手を引いて溶けた格子を飛び越え、森に駆け出す。

 横目にマンティスがさっきまで私たちが居た所を切り刻むのが見えた。


 私たちは逃げる。だが逃走劇はそう長くは続かなかった。


「ぐうぅ....」


 ずっと動いていなかったせいで早くも足が悲鳴を上げて顔をしかめる。


 私はこんな時でも「命令」を忠実に守って首を締め付けてくる奴隷首輪に舌を打った。


 フィオナを振り返る。フィオナも苦しそうにもがいている。


 そして、その後ろには......



 今にも今にもフィオナに鎌を振り下ろさんとするポイズンマンティスの姿があった。




 その瞬間は私の中で酷く遅く感じられた。



 鎌がゆっくりと振り下ろされていく。フィオナの頭に影が落ちる。


 フィオナがそれに気づく。フィオナの顔が絶望に歪む。



 私はまた何もできないのだろうか...また...また失うのか....


 一瞬の思考が頭を駆け巡る。その時、私の中で何かが弾けた。


 私は一瞬、足の痛みも首輪の締付けの痛みさえもを忘れた。体が勝手に動いていた。



 フィオナを押しのける肩に鎌の影が突き刺さる。



 フィオナの顔に浮かんでいたのは、驚愕だった。フィオナの伸ばす手はだが届かない...




 ごめんね....こんな頼りないお姉ちゃんでごめんね....弱くて何もできないお姉ちゃんでごめんね....お父さんを殺してごめんね....ごめんね....せめて、せめてフィオナ、あなただけは生きて......



 覚えているのは肩に迸る悲鳴と.....誰かの悲鳴だった.....








 .......ああ、またこの夢か...


 鈍い頭痛が私を無理やり起こす。目を開けるとあの時と同じような格子が見える。だが、身体を揺らす振動はない。頭は身体とは対象的に回り始める。


 あれからどれくらいたっただろうか。私が目覚めたときにはもう、牢屋に居た。フィオナはおらず、毒に侵されていた私は虐待されてはたらい回しにされる日々をを続けていた。


 ここに来て私は自分の死が近づいてくるのを明確に悟っていた。


 フィオナと離れ離れになってからおそらくは2ヶ月は経っているだろう。始めこそ薬を飲まされていたけれど直ぐに治らないとわかったらしくて、鞭打ちやらで傷つけられ続けられる日々。地獄のようだった。そこから何か入ったのだろう体調は悪くなり続けていた。薬を飲んだからといって、魔物の毒も消えたわけではない。1ヶ月持たつ頃には意識も飛び飛びにになっていた。




 死にそうだから、走馬灯のようなものなのだろうか、それとも頭が死ぬなと訴えているのか、最近はよく以前の夢を思い出す。




 足音がする。どうやらあいつ(奴隷商人)が戻ってきたようだ。



 幾つかの奴隷商を渡り歩いてきたけど正直、ここが一番ひどいと思う。私の他にも奴隷がいるけどなんだかみんな目が死んでいて怖い。別に感情を出すなという命令を受けたわけじゃないんだけど.....

 きっとあまりのストレスで心が壊れてしまったんだろう。


 時々1人奴隷が外に連れて行かれては、傷だらけで帰ってくるし、虐待を受けたのは間違いないだろうな。私はもう捨てることが確定しているだろう、虐待を受けることはなかった。そこだけは嬉しい。ご飯もらえないけど。

 普通の商人ならこんなことはしない。たとえ奴隷でも商品だから。でもここは普通じゃない。普通じゃない店に来る客もどうやら普通じゃないみたい。私聞いちゃったんだ。商人と客が話しているの。


 “使い捨てだからどうしてくれても構わない”って言ってるのを。





 ?



 奴隷商人は後ろに若い男を連れていた。あんな男でも悪人なのかな?


 奴隷商人となにやら話しながら近づいてくる。彼は私の檻の前で立ち止まった。


 驚いた。


 私の前で止まったことじゃない。いやまあ、それも珍しいんだけどそうじゃなくて、彼の目だ。



 彼の目に映っていたのは....



 驚き、そして大きな哀しみと怒りだった。




 どうして?どうしてそんな顔するの?


 純粋な疑問だった。私は獣人、奴隷だ。使われるのが当たり前の存在なのに......


 そして彼は


「買った、いくらだ?」



 ・・・えええええええええええぇぇぇ!!!


 思考がショートした瞬間だった。


 もし命令で喋るのを禁止されていなかったら、ここらへん一帯に叫び声が響き渡ったことだろう。



 そしてそのまま驚くべきことに彼は一瞬たりとも迷うことなく私を買ってしまった。



「いくぞ」


 荒っぽく、でもどこかに優しさを残した、そんな手つきで私を引っ張ると彼は早々に店をでた。



 んぐぉ!


 いきなり何か飲ませられた。甘くて酸っぱい....これは....


 ポーションだ。薬として病気になって間もないころに沢山飲まされたからよく覚えている。


 でもこの方が何倍も濃い。身体がみるみる治っていくのが分かる。


 彼はしばらく私を見ると満足したようで、無言で手を引いて街へと引っ張っていった。


 後から聞いた話によると、途中で意識を失ってしまったらしいけど、あの手の暖かさだけはよくおぼえている。







 次に目覚めたのはベットの上だった。


「...今から...えをなお...す。わか...ら返事く...れ」


 耳鳴りが酷くて何を言っているのかよくわからない。


 すると突如、身体が光に包まれた。温かい、そう思った。



 目を開けると唖然として口を開けている彼と、誰だろうか知らない女性がいた。



 おかしい。身体がおかしい。


 妙に軽いし耳鳴りもいつの間にか収まっていた。


 ふとして自分の体を見ると、至って普通の、だがありえないもの(・・・・・・・)があった。

 それは、健康なあまりにもありふれた身体だった。


 夢だと思った。ありえない、そんなはずがないそう思った。でも夢にしては2人の顔はあまりにもリアルで、私の身体はあまりにもなまなましかった。



 次第にこれが現実なんだと、本当に治ったのだと実感してきた。それと同時に涙を抑えることができなくなった。



 泣いた。


 それはもう泣いた。


 ちゃんと泣いたのはいつぶりだろうか?少なくともここ最近は泣くことさえなかったと思う。


 怒られると思ったけど、2人は私が泣き止むまで穏やかな目で待っていてくれた。



 今更だけれど、2人はアキト様とシオリ様というらしい。


 なんでも上下関係を作るのが嫌らしい。奴隷という時点で上下関係ははっきりしていると思うのだけれど…


「いや、俺は仲間に上下関係とか作りたくないんだ」




 ……あぁ、仲間…


 それがどれだけ欲しかったか…


 奴隷になった私に味方なんていなかった…


 毒に病気まで持っていた私は避けられるのが普通だった…


 近寄る人なんていなかった。いつも1人だった…


 それを彼は、アキト様は仲間だと言ってくれた。ただそれだけでも信用してもいい気さえした。


「わかりました、アキト様。ベットの上でも頑張らせていただきますね!」


 私は彼を受け入れてもいいと思った。いや、どうせ奴隷として誰かに抱かれるなら彼のような人がよかった。



 だが、なぜか2人ともポカンとしていた。



「…いや、いやいや、いやいやいや!そんなつもりないから!」


 私は首を傾げた。


 アキトたちは知らなかったが、実は女性の奴隷はほとんどが性奴隷になるのだ、その他には精々メイドだが、対面を気にする貴族にとって獣人のメイドは汚点で、ほぼないことだった。


「では、なんのために?」


 純粋な疑問だった。


「そういえば、考えてなかったなぁ」


 彼、アキト様はポリポリ頭をかいている。


 呆気に取られた。


 何も考えずに奴隷を買うなんて、普通はないことだからだ。


 なんだか2人がもめている。


 私は急におかしくなって、クスリと笑った。



「だいたい年齢的に無理だろ」


 ….ん?それは違う。


「私、15歳ですよ?」


 私は夏の生まれのはずだから、もう15歳のはずだ。


 2人はこちらを向いてあんぐり口を開けていた。


「て、てっきり12歳位かと…」


 失礼な!確かに私は小柄だけど、それは酷すぎる。


 顔に出てたらしく、2人が焦っていた。





「それでな、2人には話しておきたいんだが、俺の目的はな、奴隷に対する処遇の改善なんだ」


 ?


 意味がわからない。


「レオナ、俺は、いや俺たちはちょっと遠いところから来たんだ」


「ここらへんの常識を知らない俺たちから言わせてもらうと、ここの奴隷は酷すぎる。あんまりだ」


「だから、声を上げられない奴隷の代わりに俺が訴えようと思うんだ」


「具体的には、犯罪奴隷と借金奴隷以外の獣人奴隷の解放、借金奴隷の待遇改善だ」


「まずは、奴隷を片っ端から買って解放しつつ、権威を高めて……」


「ちょ、ちょっと待ってください!全く意味がわかりません!奴隷が…おかしい?」


「そ、そうよ!私もわからないわ!ちゃんと説明して!」


 私とシオリ様がアキト様に抗議しました。


「あぁ、ちょっとはしょりすぎたか。どこから話せばいいか…まずは、ラドムの話からだな」


 そこから、アキト様はそれまでの経緯を話していたけど、正直よくわからなかった。


「…それでな、レオナ、お前は獣人が人間に捕まったら、奴隷になるものだと思っているんだろう?」


 コクリ


「俺からしたら、そんなのちゃんちゃらおかしい。獣人だというだけで奴隷になるなんて変だ。」


「…アキト様はこの尻尾と耳が気持ち悪くないと思わないのですか?」


 これは、怖い質問だった。嫌いと言われれば私の全てを否定されたようなものだ。だから怖かった。



「どこが?こんなに可愛いのに!」


 アキト様はまるで、心外だという顔をしていた。


 私は肩から急に力が抜けるのを感じた。


 認められた。


 そう思った。そして、それと同時にもう1つの考えが浮かんで来た。


 この人に使えていればフィオナに会えるかもしれないと思ったのだ。


 それは、ある意味でアキト様を利用するということ。許されようはずもなかった。



 なのにアキト様はあっさり承諾した。一切迷う事すらせずに。



 それどころか、解放の約束をして新品の高級そうな衣服や高級な首輪をくれたりした。




「…これは俺がする最初で最後の命令だ」


 思わず身体がこわばる。


「『命を大切にしろ』以上だ」




 ……


 あぁ、こんな人だった。


 アキト様はこんな人だ。出会って1日でも分かる。


 自然と涙が溢れてくる。


 この人のために誠心誠意仕えよう、心からそう思った。





 そして今、


 私はアキト様の鍛錬に付き合って訓練をしながらフィオナを探す算段をつけている。


 あれからアキト様と一緒に街中の奴隷商に尋ねたところ、フィオナは何をされても無反応で、無口で、恐れた奴隷商が遠くに売り飛ばしたとのことだった。


 今は助けに行けるように、今度は男たちに捕まったらあの時と違って、自分で立って立ち向かえるように自分を鍛えている。




 フィオナ、いつも私を助けてくれたフィオナ、必ず助けに行くから待っていてね。


 そしたら必ず紹介するから、私は最高のご主人様に出会ったんだよって!

魔物大百科

ポイズンマンティス

推奨冒険者ランクB

毒の両ガマを持つ体長1.5m以上のカマキリ型の魔物

毒が入ると1日で痙攣で動けなくなり、3日以内に死ぬ

ポーションで回復または症状の緩和と延命ができる

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