オネガイ
結局、王宮に帰って来たのは鐘10つ(およそ午後10時)だった
あれから、レオナのための服やらを買いに行ってまわって、間に合わそうなので食事も買って来た
残金は金貨1枚と大銀貨2枚、あと少々
最後にはレオナは気を失って、肩車して来た
王宮が丘の上にあることをこれほど恨んだ日はない
はぁはぁ
部屋のベッドにレオナを下す
「少し待っててくれよ」
俺は急いで自室を出て行った
王宮の廊下には寝巻きに着替えた生徒達がいた
男子の何人かは心なし肌がツヤツヤしている気がする
そのほとんどが傍らに美女を侍らせている
彼女達は無表情だ
恐らく感情の一部が命令で制限されているのだろう
可哀想に.......
俺は男子たちに対し、ふつふつと憎しみが湧き上がってきた
顔に出ないように慌てて隠す
いいか、こいつらは奴隷商人に高額ふっかけられて、それすらも知らずに飲んじまったバカヤロウどもだ
言うなれば、田舎から出てきたお上りさんが騙されてるのも知らずにランジェリーショップの押し売りに引っかかると同じだ
憐れには見えても、敵には見えないだろう?そうだ、あいつらゴミだ
ゴミなんだ!
......ふぅ
必死に頭の中で貶しまくって溜飲を下げる
辺りを見渡す
「あっ、いた!シオリ!ちょっと頼みがある!きてくれないか?」
「えっ、何?」
クラスの奴らが微妙な顔をしている
「とにかく急いでいるんだ!移動しながら話す!」
「わ、わかったわ」
とにかく今はレオナが心配だった
「シオリ、回復魔法の準備を頼む!」
「わかったわ!」
「レオナ!」
慎重にレオナの上体を起こす
「いまから、お前を治す。わかったら、返事をしてくれ!」
「......な......お.....す...?」
微妙に焦点が合っていないが、一応意識はあるようだ
「シオリ頼む!」
「『クリアハイヒール』」
その瞬間、部屋を暖かい光が覆った
クリアハイヒール
回復魔法Lv.7で取得できる
ハイヒールの上位技だ
単体の一部の身体の欠損も治すことができる
回復魔法は他の魔法とは少し異なる立ち位置にある
普通、人間の使える魔法は
火、風、水、土、光、闇の
六属性だ
これを俗に六大魔法という
また、これらの魔法には上位魔法もあり、
火炎、暴風、豪流、砂塵、聖、暗黒になる
回復魔法は光属性魔法の派生魔法なのだが、適正に大きなばらつきがあり、基本的には
回復師、薬師、聖剣士くらいしか使うことが出来ない
中でも最も適正があるのが回復師なのだ
少し適正の話をしよう
人間は基本的に全てのスキルが取得可能だ
だが、個人の持つ適正(才能)によって取得のしやすさとレベルの上昇しやすさが異なる
適正は天職の影響を最も受ける
中でも最も影響を受けるのが武芸スキルと魔法スキルだ
こうして考えると、クラスメイトたちの持つ「女神の加護」の「六大魔法適正」がいかにチートかわかるだろう
1人1、2属性のはずの魔法を全て使えるのだ
まぁ、魔物は他に雷属性魔法や木属性魔法も使えるらしいが...
そこらへんのことは、詳しくわかっていないらしい
なんでも魔力の質とかに違いがあるらしいが....
そんなことを考えていると
次第に光が治まってきた
「......うっ、うん....」
少女が身じろぎする
少女はこちら見た後、自分の身体をペタペタと触りだした
まるで、あることが信じられないかのように
消えてしまうんじゃないかと危惧するように
そして、真実だと分かると
今度は目にみるみる涙を溜めて....
「.....わ、....わた、....わ...た....ぢ、...いき...て...いぎ....で...る...よぅ..」
さめざめと泣きだした
そりゃもう泣いた
どこにそんなに水分隠し持ってたんだってくらいに泣いた
涙と鼻水で顔をぐしょぐしょにして...
「ありがどうございまずぅ」
って泣きついてくるもんだから
さあ、大変だ
.....なんだろう
今日はよく泣いているのを見ている気がする
どれも嬉し涙なので、いいことなのだと思うのだが....
ひぐっひぐっ、すんすん
ようやく泣き止んできたようだ
頭を撫でながら慰めること数10分
流石に俺の腕も痺れてきていた
少女の顔をタオルで拭いてやる
「えっと、レオナでいいんだよな?」
疑問文なのは目の前の少女が全くそうは見えないからだ
目の前の少女はぶっちゃけ物凄い美少女だ
緩やかな銀髪にぴょこんと立った可愛い耳、ふさふさとしていて柔らかそうな尻尾、白い肌、胸の僅かだが確かな膨らみ....
.....って!何を見てるんだ俺は!
「はい、私がレオナです」
「俺は.....まぁ、君の主人の霧峰瑛斗、アキトでいい
こっちは俺の仲間で回復師のシオリだ
これからよろしくな」
「はい、ご主人様!」
「いや、アキトって呼んでくれ」
「そういうわけには参りません、私は奴隷ですから」
「いや、俺は仲間に上下関係とか作りたくないんだ、頼む」
「私が....仲間...ですか?」
「あぁ、詳しくは後で話すが、まぁ無理やりではあるが、仲間になって欲しいと思ってる」
「仲間....私が仲間.....」
なんだかまた泣きだしそうである
よっぽど辛い経験をしてきたようだ
しばらくして、心の整理が付いたのだろう、
頬を僅かに染めて.....
「わかりました、アキト様!ベッドの上でも頑張らせてもらいますね!」
爆弾を投下した
「いやいやいや!違うから!そんなことしないから!そんなために仲間にしたんじゃないから!ベッドとか違うからから!
シオリもそんな目で見ないでくれ!」
シオリから絶対零度の視線を感じる
そんなつもりないから!
勘違いだから!
その視線やめて!
「では、なんのために?」
「......あぁ、そういえば目的考えてなかったなぁ」
「...やっぱり、隠れてベッドの上で.....」
「それは違う!」
シオリはこちらを睨みつけている
レオナはポカンとしている
「だいたい、年齢的にむりだろうが」
「それもそうね」
この世界では奴隷について、性行為を縛るものはないが、元の世界の法に俺たちは基本的に従うことにしている
「?....私、15才ですよ?」
「「ええっ!」」
信じられない!
身長とかから、11歳くらいかなと思っていたのに!
「ゴホン、......えー、まぁ、そんなつもりはないから安心しろ」
それから俺は語った
自分の目標を
自らの決意を
奴隷の安全を
「「.........」」
2人は沈黙していた
ただその表情は大きく違う
シオリは呆気に取られていた
無理もない、唐突な話だからな
さっき、部屋に来るまでにはレオナのことしか話せなかった
だから、こうなった経緯も話していない
レオナは.....
なんか物凄く感動していた
目をうるうるさせて、今にも飛びかかってきそうだ
やはり、奴隷だと何か違うのだろうか?
「.....そういうわけで、レオナ、俺はいずれお前を解放しようと思ってる」
「....いえ、このままでもいいです!わたしにもお手伝いさせて下さい!」
「だめだ、危険すぎる」
奴隷で成り立っている国は多い
俺は別に奴隷制度をなくそうってわけではないのだが、そういった国からは反感を食らうだろう
「...それでも、それでも手伝いたいんです!」
「......どうしてそこまでする?」
「.....フィオナも....私の妹も奴隷なんです....
一緒に捕まってしまって....でも、お手伝いしていたら会えるかもしれないんです!」
........なるほど、まだ家族に奴隷が...
それならわからなくもない
奴隷制度緩和の手伝いをしていれば、奴隷と会うことも多くなる
確かに探しやすいだろう
「..........わかった。ただし、解放はする。それから対等な立場で協力してくれ」
レオナは驚いたようだったが
「わかりました!」
快諾してくれた
「じぁあ、そろそろ着替えてくれ、ぶっちゃけ目のやり場に困る」
そう!レオナの着ている貫頭衣はボロボロでしかも丈が短い
奴隷が下着を着ているわけもなく....
ぶっちゃけ、かなりアブナイ格好だ
「.....でも、服が…」
「服なら一緒に買ったじゃないか」
そういってストレージから次々と服を出していく
いや〜、下着買うときはキツかったぜ
「これ、私のだったんですか!?」
「当たり前だろ?ほかに誰がいるんだよ!」
「でも、こんな高価なもの....」
「何いってんだ?仲間だろ?あと、その首輪も交換な」
「!!それは!めっちゃ高い、首輪じゃないですか!?どうして.....」
「仲間なんだから当然だ!それに、奴隷のものは主人が調達する。当然だろ?」
俺からしたら、至極当然のことだ
「あと、お前は可愛いんだから、いい服着てほしいだろ?」
レオナが真っ赤になる
あれ、変なこと言ったか?
シオリが微妙な顔をしている
「....ありがとう....ございます....」
それが限界だったらしく、そのまま、ベッドに倒れてしまった
「いいか?これがおそらく、お前にする最初で最後の命令だ」
復活したレオナが頷く
「『命を大切にしろ』以上だ」
レオナは一瞬呆気に取られたようだったが、
「はい!」
と言って笑った
それは年相応の可愛らしい笑みだった.....