働かざる者食うべからず!
今回かなり長いです
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母親オミナは小さな貴族の娘だった
オミナは冒険者のマークに恋をしていた
だが、マークは冒険者ランクCだった
当然、親に認められることはなかった
そんなある日、事件が起きた
オミナがマークの子を身ごもったのだ
それにより、マークとオミナが肉体関係を結んだことがわかり、
オミナの母はしぶしぶ承諾、父は勘当して、オミナたちを追い出してしまった
いわゆる、「できちゃった結婚」というやつだ
オミナとマークはマルゼンに移住
マークは家計を安定させるため、夢であった冒険者を退職し、大工になった
しばらくすると、オミナは少年、カインを出産
家族は笑顔に包まれていたという....
しかし、そんな日々も長くは続かなかった
マークが暴走を始めたのだ
夢を諦め、大工になったマークは、
そう簡単に割り切れなかった、やけ酒を繰り返す様になり、
次第に酒に溺れ、オミナやカインにまで手を出すようになった
つまりは、DV、家庭内暴力だ
これには耐えたオミナたち2人だったが、
マークが浮気していたのを知り
自分はもう愛されていないのだと理解させられ、
離婚を申し出た
マークもオミナを重荷に感じていたらしく、
あっさり承諾
専用の魔道具で離婚したらしい
当時、オミナは26才、カインは10才だった
それから、マルゼンで購入していた家(今いる家)をカインがいるんだからと無理やり奪い取り、
オミナは昼働き、夜はカインの世話に勤しんでいた
2年がたち、
次第に家の貯蓄も減り、マークに求めるのは無理だとわかっていたので、勘当された家に泣きつかないといけないだろうかと考えていたころ
オミナは病気にかかってしまった
すぐに死ぬような病気ではなかったようだが、とても働いたり、実家に帰れるような状態ではなくなってしまった
それでも家具を売りながら生活していたが、とうとうそれも尽きたらしい
すると、突然、カインが
「僕が働く!」といって出ていってしまったらしい.....
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「でもまさか、こんなことをしてたなんて!」
まぁ、12才ができる仕事なんてそうそうないわな
しかも、小貴族の娘程度で教えられることといえば、読み書きと軽い計算、あとは料理ぐらいだろう
ちなみにこの世界の識字率はそんなに悪くない
それでも30〜40%なので、読めるのは結構大事なことだ
その辺りを使えば仕事がないわけではないが…
カインは悔しそうに俯いている
「許されないこととはわかっていますが、どうか、どうかご容赦下さい」
「あ〜あ、わかったから、わかったから
面を上げてくれ」
何だろう、
相手に頭を下げさせていると、まるで自分がイジメているように胸糞悪くなる
まるで大野たちみたくなったような....
「いいか?まず第一に俺はお前たちを衛兵に連れていくつもりなんて、サラサラない、誰があんな胸糞悪いところに行かせるか!」
まぁ、さっきの話で嘘でも吐いていたなら考えないことはなかったけれども....
あの目は真実を言っている目だった
「元々、俺は盗まれたもんを返してもらいにきたんだ」
「そ、それじゃあ....」
「事情は聞いた、何もしないわけには行くまい?」
サッと、オミナが青ざめる
「この子だけは、カインだけはどうか....」
......ん?なんか勘違いしてないか?
まぁいいか
「とりあいず、少し触らせてくれ」
オミナは真っ赤になると、「はい....」静かになってしまった
なんだか、知らんがとりあいず触らせてもらう
オミナの首筋辺りに慎重に触れる
「もういいぞ..........やっぱり、風魔病か....」
「えっ、もういいんですか!?」
「.....なにを勘違いしたんだ?」
「...いや、その…触らせてっていうから……あの、抱くってことなんだと……」
言いづらそうにオミナが答える
今度は俺が、カ〜って、爪先から耳の先まで真っ赤に染めて、
「いや、その、だって、病人だよ!?
そんなことするわけないじゃん!」
「いや、それはそういう趣味なんだと.....」
俺は慌てふためく
「いや、いやいや、いやいやいや!
そんな趣味ないって!ねぇ、いや、綺麗だとは思ったけど....って、なにいってんだ俺!」
挙動不信になる
「ふふっ、少しかわった....いや、変な人ですね...」
変かぁ
俺変かぁ
そっかぁ、俺変なんだな....
かあちゃん、俺初対面の女性に変っていわれちまったよ......
俺はがっくりと肩を落とす
「すいません!気にさわりましたか!?」
「いや、大丈夫だよ....変...か…」
落ち着いたところで、話を戻す
「それでさっきはなにをしていたんですか?」
「いや、何の病気何だろうと思ってね」
「病気がわかるんですか!?」
「いや、ちょっとね」
アキトはかなり、いや、すごく熱心に病気について調べていた
それは、アキトが近い将来一人旅をするからだ
異世界からきたアキトにとって、1番怖かったのは伝染病だ
ぶっちゃけ、魔物も敵の奴らも逃げ回れば関係ない
だが、病気だけはそうはいかない
だから彼はこの世界特有の病気については特に熱心に調べたのだ
それはもう、隅から隅まで、読んでない本がないくらいに....
「それで、わたしの病気は何だったんですか!?」
オミナもカインも身を乗り出して聞いてくる
聞きたいような、聞きたくないような...
でもやっぱり、聞きたいような...
そんな顔をしている
当然だ、1ヶ月以上患っている病気が何なのかわかるのだから
だか不治の病とかだったら怖い
だから、微妙な顔になっているのだ
「......あぁ、風魔病だよ」
「風魔....病...?」
風魔病ー
原因と症状は、
ストレスからくる魔力制御障害
ストレスにより、魔出孔が開きっぱなしになってしまう病気だ
魔出孔ー体じゅうにある魔力が出る穴、常時僅かに魔力が漏れており、それが俗に気配と言われる、魔法を使う際にはそれが一部分だけ開き、大出力の魔力を放出し、それを変換することにより魔法が発動する
だから、気配遮断を使っている間は魔出孔を塞いでいるので、魔法が使えなかったりする
風魔病はこれが開きっぱなしのまま閉じなくなってしまう病気だ
これにより、魔力がドバドバと流れだし続ける
由来は、風のように突然発症すること、それから、風属性魔法に適正のある人が発症しやすいということだ
主な症状は、発熱、それから慢性的な魔力欠乏症による、頭痛、嘔吐、目眩などだ
直ちに命に関わる病気ではないが、2ヶ月と経たずに衰弱死すると言われている
特徴は発熱の他に、首回りに発疹ができることだーだから、アキトはオミナに触れていたのだ
その辺りをかいつまんで2人に伝える
そして治癒方法はーーー
「治療方法は何なんですか!」
カインが問い詰めてくる
「落ち着け、治癒方法は回復師によるハイヒール以上の魔法、それから、HPポーションとマナポーションを2つとも、クラスB以上で二本同時に飲ませることだ」
「クラス…B.....以上…」
2人とも絶望したような表情をいている
そうなるのも無理はない、クラスB以上のポーションは国王が軍事のために押収しており、闇市に出回ったとしても、法外な価格で取引される
金貨10枚(10万円)とか、そんなレベルだ
当然、家具のほとんど売りに出して、スリまでしている家にそんな金貨レベルの金があるわけない
それどころか、銀貨だってあるのか怪しいもんだ
回復師だって、ハイヒールが使えるとなると国直属の回復師しかいない、呼び出すには、やはり法外な価格か、相当のツテが必要になる
そんなツテがあるのなら、とっくに使っているだろう
新しく金を用意するのも、ツテを作るのも相当な時間がかかる
オミナはもう、1ヶ月以上患っている
そんなに持たないだろう
というか、すでにもう、いつ死んでもおかしくないくらいだ
「あー、俺の仲間にすごい回復師がいるんだが、そいつも俺も今日を除いたらしばらく、王宮から出られないんだよなぁ」
オミナもカインも目に見えて落胆している、どうやら「もしかしたら、この人なら...」と思っていたようだ
ちなみに思い浮かんでいたのは、シオリだ
シオリは本当に回復魔法に適正があったらしく、スキルレベル7だったりする
そのせいで、治療室の天使とか言われているんだとか…
「と、いうわけで、今回はもう1つの方法の方を使う」
と言って、アイテムストレージから2つのポーションを取り出す
実は、訓練初日つまりは異世界生活3日目に勇者全員にマナとHPそれぞれ、クラスB10本、クラスA3本、クラスS1本支給されている
大盤振る舞いだ
どうやら、国としては何としても勇者たちに出て行って欲しくなかったらしい
そんなことを言っても、ポーションの価値もろくに知らない俺たちにしてみれば、クラスFもクラスSも大差ないというのに...
とりあいず、その時は、まだ、勇者待遇だった俺も貰えたのだ
今行ったらひっぱたかられるだろうが...
泣けるね...
減った分は後で兵舎からくすねてくるしかあるまい
これはスリじゃない!人命を救うためだ!だいたい、俺はこの国が嫌いなんだ!
後日、アキトのスキルには「盗賊」と「強奪」が追加されていたらしい......
ちなみにポーションだが、ポーションは薬剤師が「調合」のスキルで作るもので、ランクFからランクSSまである
ランクSで欠損部位まで直せるレベルだ
ちなみに余談だがランクSSSの別名エリクサーとよばれるポーションもあるらしいが、神話などに描かれる程の神薬だったりする
各待遇を見てみると
ランクSSS 伝説級
ランクSS 国宝級
ランクS 国家指定財産級
ランクA 軍事ポーション上級
ランクB 軍事ポーション
ランクC以下 市販レベル(ランクCで大銀貨1枚程度)
ランクS27個って王サマどんだけ太っ腹なんだよっ!
「........何でそこまでしてくれるんですか?」
驚いたあと、感謝と疑念が競い合い、疑念が勝利したようだ
「ただの偽善だよ、後はそうだな....明日は我が身ってやつかな?」
苦笑して答える
それから、今までの経緯を説明した
王宮のことも、これから出て行こうと考えていることも、ラドムのことも
もちろん、ラドムが密入国している奴隷であることや、俺が異世界の勇者で鍛治師であることなどは、誤魔化したり省いたりしているが....
何だろう、最近事情説明ばかりしている気がする....
どうやら、ラドムの話辺りで信用してくれたらしい、頬を緩めていた
「じゃあ、、飲ませてもらうわね?」
「あぁ」
「.....んっ、んっ!」
ゴクゴク
かなりキツそうだ
それもそのはず、ポーションは一本500mlのペットボトルくらいあるのだ。それを二本同時にがぶ飲みするのだから大変だ
「うぅ!」
「お母さん!」
飲みきると、全身に痛みが襲ってきたのか、ベットにうずくまる
それにカインが駆け寄る
「頑張れ、頑張れ!」
俺もカインと一緒になってオミナの手を取って、必死に応援する
10分程して、痛みがなくなったらしい
「頭が...痛く、ない!やった!やったわ!治ったわ!!」
泣きながらはしゃいでいた
それから、
「ありがとう、ホントにありがとう」
といって、オミナもカインも俺の手を掴んで感謝してくる
ぶっちゃけ.....いや、正直なところ、俺も泣きそうだ
しばらくして、2人も落ち着いたらしい
「でもこれどうしましょう....」
空の空き瓶を渡してくる
さっきまでポーションが入っていた瓶だ
「うちにこれの代わりになるようなものはないわ....」
「いや、何もいらないよ。でもそうだな、じゃあ、もしも俺がピンチになったら助けてくれ」
人間関係は大事だ
信頼できる人は1人でも多い方がいい
オミナが、ホントににそんなことでいいの?と聞いてくるがその度に俺は頷いた
「.....分かったわ、じゃあ、貴方がどんな場合でも助けるわね」
オミナが俺を見上げる
心なしか頬が赤い気がする
泣いた後だからだろうか?
「あぁ、あとこれ。しばらく食費の足ししてくれ」
と言って、金貨1枚を握らせる
オミナの目が点になる
「へっ?これ金貨よ?」
「あぁそうだな」
「高いのよ?」
「あぁ」
「あぁ、じゃないわよ!ホントにいいの?」
「もちろんだ、どうせロクなもん食べてないんだろ?」
「.....分かったわよ....」
これ以上貸しを作りたくないのに、という呟きが聴こえた気がした
オミナはうずくまっている
首筋や耳が僅かに赤い
まだ、病気が抜けきっていないのだろうか?
「そうだな、じゃあ、少しカインを借りていいか?」
「えっ、いいわよ?」
最初みたく警戒されることは全くなかった
どうやら完全に信用されたようだ
カインを連れて外に出る
ーーーーーーーーーー
「大通りに行ってくれないか?」
カインを連れて来た理由はこの道案内とあと1つ.......
大通りに出たあと、もう一度あの半スラム通りに戻る
目的地はもちろん
「おーう、ラドムいるかぁ」
ラドムの武器屋だ
「あぁ?なんだ、アキトじゃないか、どうした?」
「いや、ちょっと相談したいことがあってね」
ここまでの経緯を包み隠さず伝えた
スリのときには怒ってカインに飛びかかりそうだったが、オミナの話をすると、同情するような目線を向けていた
スラムにいたもの同士なにか通じるものがあるのだろうか?
「話は分かった。それで?何を頼みたいんだ?」
「実は、こいつをここで働かせてくれないか?給料はこっちが払う。お前だって今日明日で出られるわけじゃないんだろ?出るときまででいい。お前もあんまり人前に顔だしたくないだろ?店番としておいてやってくれ!」
「俺はいいが....なんで直接渡さないんだ?
......あぁ、いや、そういうことか」
どうやら、察してくれたらしい
こんなことしなくても俺は普通にカインに金を渡せる
どうしてそれをしないのか
それはカインのためだ
カインは今までスリをしてきた
大して苦労もせず金を手に入れてしまっていたのだ
こういう場合、スリで味をしめてしまって普通の仕事をしなくなるかもしれない
カインに限ってそれはないだろうが、カインはスリでかなりの恨みを買っている、そうすると安全な信用できる仕事場がないかもしれない
そこで俺が|信用できる職場(ラドムの武器屋)を紹介しよう、ということだ
ラドムも顔見せられなくて店番にこまってたし
まぁ、アフターケアってやつだ
「報酬はこれで頼む」
金貨1枚を渡す
「おいおい正気か?」
「あぁ、最初は高報酬の方がやる気出るだろ」
「俺が盗むって場合は?」
「それに関しては.....信用してるぜ」
「おいおい大丈夫か?まぁ、盗るつもり
はないがな」
ガハハッッと豪快に笑う
「と、いうわけだ。カイン、お前ここで働け」
「ええっ!どういうことですか?いや、話は聞いてましたけど....」
どうやら思考停止していたらしい
「まぁ、なんだ、頑張れ」
「......うっ...うっ....」
「ちょっ!なんで泣いてんの!?」
聞いたところ、カインはちゃんとスリになる前、いくつかのところへ働かせてもらえるように頼んでいたらしい
しかし、年齢のこともあり、全て撃沈
仕方なくスリになったそうだ
「.......なるほど、そりゃ泣くなぁ」
ずっと就活していた大学生が、ついに採用されたようなもんだ
そして、今の話を聞いていてピーンときた
「なぁ、お前働きたいか?」
「うん....」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
カウンターに歩いていき、アイテムストレージを呼び出す
取り出すのは、
安物の紙に
鉛筆
それに、図書館でまとめた資料
資料から常識的な内容を抜き出して、まとめてから紙に写していく
この世界の地理に
この国の成り立ち
他国との関係
お金のめぐり方に
礼儀作法
物の相場に
食べられるもの、食べられないもの
簡単な薬草、医学に
初歩的な交渉術
基本な考え方、倫理観
果ては、結婚の情報まで
ありとあらゆる
この世界における常識のごく一般的な部分を抜き取って行く
「こりゃ、すげぇ」
となりから覗いていたラドムが唸りを上げる
「.....カイン、オミナさんが元貴族の娘ならお前も字、読めんだろ」
カインがこくりと頷く
「.....いいか、これはこの国の、いや、この世界の一般常識がまとめてある」
「どうせ、店番はヒマだろうから、これ読んでろ、全部理解できれば普通のやつか、それ以上の知識が手に入る。そうすれば、仕事も見つかるはずだ」
ラドムが「ヒマは余計だ!」と殴りかかっているが無視する
「まず最初は冒険者ギルドで冒険者相手に依頼書を読んでやる仕事をしてみろ、かなり儲かるし、交渉の練習にもなるはずだ」
「ありがとう、アキトお兄ちゃん!」
「「お、お兄ちゃん!?」」
「ダメかなぁ」
うっ、可愛い
カインは美男子だ
ぶっちゃけかなり可愛い
俺にそっちの趣味はなかったが
「お兄ちゃん」と言われて悪い気はしなかった
「.........しょうがない、いいぞ」
「ありがとう!」
きゃっきゃっ、と騒いでいる
今日1番の苦渋の決断だった
ピロリン
ーーーーーーーーーー
スキル「筆写師」を手に入れた
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相変わらず空気読まねぇな!
「それで、今日から働くのか?」
「いや、明日からだ、今日は俺の買い物に付き合ってもらう」
そう言って、カインと2人でラドムの店を出た
その姿はまさしく兄弟だった....
カインは出会ったときには想像できない幸せそうな笑みを浮かべていた......