ドワーフはかく語りき
ーーーーーーーーーー
ラドムはハルキヤ山脈のドワーフの町に住む、鍛治師だった
その日、彼はインゴットを取りにハルキヤ山脈中腹にある鉱山に潜っていた
夕暮れ、彼は採集を終え、山道を歩いていた
「今日は豊作だったな!」
大量のインゴットやら鉱石やらをストレージに入れて、彼は山道を下っていた
そして、彼はあってしまった
そいつに
「!!ニンゲン!」
「おっ、今日はドワーフがいるぞ
運がいいな!」
ニンゲンにとってドワーフはただの獲物でしかなかった、奴隷として売るための....
そこからは地獄の様な時間だった
逃げる逃げる
後ろから追いかけてくる
ドワーフは腕力が強いが、足が遅い
さらに、小柄な肉体がそれに拍車をかける
一足の大きさが違い過ぎるのだ
敗北の確定していた鬼ごっこ
幾ら地の利があっても、勝てやしない
「チッ、男かよ」
ニンゲンの冒険者に捉えられたラドムは奴隷に身を落とした
奴隷となって各地を転々と巡る日々、彼は徐々に希望を失っていった
そんな彼に転機が訪れる
マルゼンへ向かう途中のこと、奴隷商が盗賊に襲われたのだ
普通の戦いならば、彼の運命が変わることはなかっただろう
勝ったやつが主人となる
それだけだ
それだけのはずだったのに....
戦いは彼を除き全滅だった
とっさに死んだふりをした彼だけが生き残ったのだ
彼は思った今なら逃げられるかも知れないと
彼はバッと起き上がり、手早く金を集め、マルゼンへ駆け出していった
マルゼン関所、彼は門番に捕まった
「おい、奴隷が1人で何をしている!」
この世界、奴隷が1人でいることはあまりない
逃げられない様に命令で縛られてしまうからだ
あまりない...あまりないが、少しはあるのだ!
「ご主人様に先に行って宿をとってくるように言われました」
予め用意していた嘘をつく
努めて無機質な声で...
悟られぬように....
「....そうか、なら通れ」
通行税を払って街に入る
彼は宿を探すふりをして、脇道で奴隷商から剥ぎ取っておいた服に着替え、首回りに布切れを巻いた...
そうして、彼は街のはずれに隠れ住んだ
奇しくも、あの奴隷になったあの日手に入れていたインゴットなどを武器にしたりしながら日銭を稼いだ...
ドワーフの町へと戻る目処は一向に立たずに....
ーーーーーーーーーー
「....なるほどな...」
想像以上に悲惨な過去だった
奴隷というのはみんなこうなのかも知れない
だが...だが俺は....
あんまり、だと思う
同じ人間がそんなことをしていたのかと思うと憤りのあまり、そいつらを探して殺してしまいそうだ...
「なあ、お前、ホントにニンゲンなのか?
ドワーフじゃないのか?鍛治師はドワーフにしかいないはずなんだ...」
それを聞いて俺は理解した。すべてが繋がった気がした
どうして、俺を入れたのか...
どうして、こんな過去の話をしたのか…
すべては、俺がドワーフかも知れないからだ
俺は王宮の衣装をしている
つまりはドワーフであることを隠している可能性が高い
だから、ラドムは俺が鍛治師であることを見せてきたのは、自分にドワーフであることを伝えるためだと思ったのだ
隠している相手と話すため、路上で言い合うわけにはいかなかった
俺がニンゲンだといったときも、隠しているのだからしょうがない
自分は信用されていないからだと思ったのだ
だから、自分の過去を明かした
信用してもらうために...
だが、ラドムにも分かっていたはずだ
俺がドワーフではないことは
俺は身長174cmの肌白の男子だ
大柄とは言えないが、小柄ではない
きっとラドムは分かった上で、藁にも縋る思いで話したのだ
それほどまでにラドムは追い詰められていた
すべてを理解した俺は...
自然と涙を流していた……
期待に添えないことが悔しくて…
なにもできない自分がどうしようもなく虚しくて....
「なあ、ドワーフの町へ帰りたいか?」
ひとしきり、泣いたあと、俺は自分のすべてを伝えた、勇者のことも、能力のことも
ラドムの誠意に応えるために...
国王の話をした時彼は渋い顔をして言った
「あぁ、国王はな、兵力補強とか言ってるがあれは、多すぎだ。しかも、奴隷を大量に買い叩いて兵力の足しにしているそうだ」
国の中でも一部の人間しか知らない情報らしい。帝国と戦争でも、始めるつもりじゃないかとラドムは言っていた
俺は憤りを覚えた
それに使われるとしたら、まず間違いなく俺たちなのだ
というか、そのために呼ばれた可能性すらある
すべてを話し終えたあと、俺は赤いまぶたを持ち上げて俺は問うた
すなわち、帰りたいか、と...
「あぁ、帰りたいよ....
町に響く金属音、荒くれ者共の喧騒、すべてが懐かしい……」
「だがこれをつけたままでは、帰れない、ドワーフは一応ニンゲンと貿易をして情報を仕入れているんだ」
ドワーフが住んでいるのは山奥だ
だからどうしても情報に疎くなる
だが、人間領と魔族領の間にあるハルキヤ山脈は人間と魔族の戦いにおいて、真っ先に戦火が開かれるところでもある
必然的に、情報収集は必須
情報はドワーフたちの生命線なのだ
だから、ドワーフたちは、例え二束三文になろうとも武器を売り、情報を手に入れる
だが、ラドムが帰ればそれは変わる
ドワーフたちは奴隷を匿ったことになるのだ
みんなの足かせになりたくない
ラドムが言っているのはそういうことだ
奴隷は自分では首輪を外せない
自傷行為は禁じられているし、外してもらっても主人以外では死んでしまう
外せるのは主人だけ...
そう、主人だけが...
その瞬間頭に電流が走った様な気がした
「そうだ、そうだよ!俺が主人になって、首輪を外せばいいじやないか!!」
「......だかなぁ、奴隷にとって奴隷契約は命を預けるのと同義、そこまで、お前を信用しては.....」
「なんだってする!だから俺を信じてくれ!」
ラドムの言葉を遮って、頭を下げながら俺は叫んだ
「………」
一瞬の沈黙
「.....分かった、お前を信じよう」
半ばやけっぱちに見えた
ラドムの背後に回り、わずかに首輪に触れる
「奴隷契約」
その瞬間、納屋を光が包んだ
それは奴隷契約の暗い光ではなく....
奴隷解放の暖かい輝きだった....