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記憶チート(物理)で返り討ち〜フリーホラーゲーム世界へ転生しました〜序章

作者: 森野カエル

 この反撃ポイントなら殺されないはず。

 高城カナはそう考えながら教室に置いてあった花瓶を持ち、教室の扉をタレ目の大きな瞳で勇ましく睨み付けていた。

「大丈夫大丈夫大丈夫。絶対に大丈夫」

 小さな声で大丈夫と何度も唱えるが、カナの手は震えている。

 派手さはないものの、地味でもないカナの顔は、これからやってくる者のせいで真っ青になっていた。

「大丈夫大丈夫。ここは反撃ポイントだもの」

 そうやって何度も呟いて心を落ち着かせていると、廊下からヒヒヒヒヒと不気味な甲高い声が聞こえて来た。

「あいつだ……」

 カナは持っている花瓶をしっかりと持ち直す。

 勝負は一回。

 絶対に外すな。

 自分に言い聞かせながら教室の扉の横に立ち、カナは花瓶を頭上に振り上げた。

 教室の扉が開く。

 そこから現れたのは、白衣を頭まですっぽり被り、袖から生え出た枯れ枝のような手に、子供の身長ぐらいはあろうかという大きなメスを持った二足歩行の化け物だった。

「ヒヒヒヒヒィ」

 白衣の中から笑い声を響かせながら、化け物はカナに気付くことなく教室に入ってくる。

 今だ!

 花瓶に力をのせるために歯を食いしばったカナは、化け物の頭がある辺りに、花瓶を思いきり叩き付けた。

 花瓶は化け物の上で砕け割れ、その衝撃に耐えられなかったのか、化け物が倒れ伏した。

 不気味な笑い声も途絶える。

「成功した! やっぱり反撃ポイントは最強だ!」

 歓喜の声を上げながら、カナは教室を出て後ろ手に教室の扉を閉めた。

 そして、カナは振り返り、すぐに扉を開ける。

 そこには、倒れているはずの化け物はいなかった。

「よし。ゲーム通りだ。しばらくあの化け物は出てこないから、今のうちに探索しなきゃ」

 カナは教室に入ると、真っ直ぐに掃除用具入れに向かった。

「たしかここに鍵があるはず……」

 掃除用具入れを開き、カナはホウキやバケツが乱雑に入っている掃除用具入れの中を探った。

「あった」

 鍵はバケツの下にあった。

 鍵には三年二組と書かれたプレートが付いている。

「次は三年二組……、の前に家庭科室か」

 カナには行くべき場所、取るべき物が全て分かっていた。

 さらには、何故こんな化け物が出てきたのか、そして、化け物を出した犯人が誰なのかも分かっていた。

「こういうのを不幸中の幸いって言うのかな」

 掃除用具入れを閉じながら、カナは深いため息を吐く。

「それとも泣きっ面に蜂って言うのかな……」

 カナには前世の記憶があった。

 前世のカナはゲーム好きで、うまくはなくとも色々なゲームに手を出していた。

 死ぬ前にはまっていたのがフリーゲームというネットで配布しているゲームで、死ぬ前の日もフリーホラーゲームで遊んでいた。

「普通に輪廻転生して前世の記憶があるだけだと思っていたのに……」

 前世の記憶があることじたい普通ではないけれど、カナはそれを普通と言えてしまうような状況に陥っていた。

「まさかフリーホラーゲームの世界に転生してるなんて、本当に最悪……」

 この世界はカナが死ぬ前日にやっていた『囁き』というゲームの世界そのままだった。

 ゲームは学校に閉じ込められた主人公が、化け物に襲われながらも謎を解いて、脱出するというテンプレもので、主人公たちは閉じ込められるまで普通の日常を送っていた。

 だから、学校に閉じ込められるまで、カナはここがフリーホラーゲームの世界だと気が付くことが出来なかった。

「分かってたら全力で避けたのに」

 この学校に入学しない。

 放課後の校舎に留まらない。

 化け物が出る原因をなくす。

 避ける方法はいくらでもあったはずだった。

 しかし、カナはすでに学校に閉じ込められていて、助かるには謎を解いて脱出する他ない。

「まあ、愚痴っていても仕方がないよね。こうなったら全力でクリアするまでだ。知ってるゲームで良かったと思おう」

 カナはこのゲームをクリアしたことがある。

 つまりそれは、このホラーな展開の全ての未来が、カナの頭の中にあるということだった。

 即死ポイントを避け、反撃ポイントで化け物を撃退し、最短ルートで謎解きが出来る。

 記憶チートとも言えるべきそれは、カナの最強の武器となっていた。

「さあ、次は家庭科室に行くぞ! オー!」

 一人掛け声で自分を鼓舞し、カナは勇ましく教室を出ていった。

 一歩間違えば死んでしまう死と隣り合わせのこの状況で、カナは生き残るために突き進んでいく。



To Be Continued……


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