プロローグ
僕の目の前に神がいる。
肌も髪も、まつげすらも真っ白な、げに美しき女神だ。歳は(もちろん見た目だけだろうが)十五、六くらいか。
しかし。彼女は一糸纏わぬ裸体であった。別に性的な展開ではないことは先に言っておこう。男性諸君は期待させて申し訳ない。
さて、ならば何故素っ裸なのか。
それは、彼女がつい先程、僕の術によってこの世に召喚されたからである。
麗しき女神はその口を開く。
「ふぅむ。およそ千年ぶりか。現し世に降りたのは。いや、正確には降ろされた、かの?」
予想通り無駄に古風な話し方だが、声もやはりきれいだ。
色んな事情でかなり興奮していたが、思い切って僕は彼女との会話を試みる。
「おお、神よ・・・! 深淵の眠りから目覚めさせてしもうたこと、深くお詫び申し上げる・・・」
なんとなく即興で話し方を合わせてみたが、ちょっと痛いか・・・?いや、こういうのアニメとかで見たことあるし、今のは絵ヅラ的にかなりキマったはず。
「・・・む? 何だ貴様は」
・・・どうやら、今まで僕に気づいてすらいなかったらしい。
微妙にショックである。
僕の複雑な心境はさておき、彼女は僕をじっと見つめていた。
静かに燃えるような、煌々と輝く真紅の瞳だ。白い身体によく映える。
そしてその眼は、僕の力量、器を測っているようであった。
「おい、人間。貴様か? 私を呼び出したのは」
「はい。お会いしとうございました・・・」
「ふむ。そうか、貴様のような小童が、か」
20代後半の若造に召喚されたことが、極めて不可思議なようである。
「ふぅむむむ?」
彼女は80度ほど首をかしげている。
「・・・しかし、貴様、不慣れな話し方はするものではないぞ?さっきから実に不自然だ。癪に障る」
「なっ・・・!!」
バッチリ見抜かれていた。
僕の幼稚な厨二的話法は、彼女のお気には召さなかったらしい。
「して貴様、この私に何用だ?」
「はい、神よ。実はあなたに、折り入って頼みがあるのです」
「ほう?頼み、とな!まあ聞くだけ聞いてやろうではないか」
神は嬉々としてそう言った。
神というものは、人間の頼みを聞くのがお好きらしい。
それを叶えることなど、万に一つもないというのに。
しかし僕は言い放つ。
「僕を」
「『神』にしていただきたい」
青年の願い。
それはおそらく、この世界で最も図々しい代物であった。
基本的に短いです。