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ヴァレルヴォルテックから発する圧のようなもので萎縮するルデアを余所に、俺は組んだ腕を解き、両手を広げ肩を上下させた。
「さあ? 何のことを言ってるのかさっぱりだ」
「惚けないでもらおうか。『神』を殺した時、既にヤツの体からは七つ全ての宝玉が抜き取られた後だった」
「ほお。で? 俺が居なくなったことによって世界中を必死になって探しまくってた、と? なんとご苦労なことだ」
俺の言葉にヴァレルヴォルテックが蔑む目で、露骨に舌打ちしやがった。
「――『……ち、力さえ、力さえあれば貴様等如き……恨むぞ、アッシュ……』――ヤツが死ぬ間際に発した言葉だ。単に自らの力の無さに嘆いてるだけだと思って、気にも留めていなかったが、あまりにも不自然に見つからんのでな。そんな時、貴様の気配を察知した」
「なるほど、で飛んできたと」
俺は顎に手を添え、わざとらしく考える振りをしてみせる。
「ふむ……まあ、確かにその話の通りだと、俺を疑うのが妥当だと頷けるな。しかし、俺はどこにも隠してないからなぁ。あ、ひとつは持ってるがな? ほーら」
そう言って俺は、向けられたら不快になる程の嫌らしい笑みを浮かべて、掌から拳ほどの大きさの宝玉を出して見せるとそのまま言葉を続ける。
「まあ、お前の言うとおりぶっちゃけ『神』の体から全ての宝玉を抜き取ったのは俺だ。ナイス推理、正解、おめでとう、良かったな? ――しかしな? 俺はひとつの宝玉しか持ってない。これは嘘じゃない。そして俺はどこにも隠してない。これも嘘じゃない。さて、残りの六つの宝玉はどこにいった? なあ? お前等、本当に世界中を探したのかぁ?」
ヴァレルヴォルテックの表情に余裕が無くなったのが一目で分かる。誰かをからかうのは本当に楽しいわ。
「……貴様、何が言いたい」
「いんやぁ? もしかして避けてるんじゃねーかと思ってなぁ?」
「避ける? ふっ、私達が一体何から避ける必要があるというのか?」
俺はヴァレルヴォルテックをシカトするような感じでルデアに話を振った。
「おい、ルデア? 俺が封印されてからの……おっと、そうだ。お前、この女の顔覚えてるか?」
突然俺に話を振られたルデアは体をビクンとさせる。
「誰だ? そのような女は知らぬ」ヴァレルヴォルテックの、この発言にルデアは下唇を噛んだ。
「だ、そうだ? まあ実際そんなもんだろうよ。『あわよくば』で、手当たり次第に世界中の人間に『神の剣』を与えてたんだからな」
「え? そ、そうなんですか?」
「そうよ。俺がお前に封印されてやるまでに、コイツから貰った剣を片手に戦いを挑んできたバカ共の多いこと多いこと……おっと、そんなことはどうでもいい。ルデア、俺が封印されてからのことなんだが」
「は、はい。なんですか?」
「コイツらからの攻撃が空から降り注ぎ、世界中の人間が大量に殺されたはずだが、それについて気になったことは無いか? 例えば……被害を受けてない国があったりとか?」
ルデアが「何で!?」といった表情で頷く。俺はニヤつく。笑いたい。腹を抱えて心おきなく笑いたいが我慢だ、今はまだその時ではないと話を進める俺。
「だ、そうだが? お前等、そういった国をちゃんと探したのかぁ? 恐らく、六つはそういった国があるはずなんだがなぁ? お前等、『王』にはちゃんと会ったのかぁ?」