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「なんじゃこりゃ。これ本当に外か?」


暗闇の底から螺旋状の階段を上りきって出た先の……久しぶりに見た外の光景に、オレは目を疑った。空に昇った太陽の光は、霧のような靄のせいで地上にまで完全には届ききっておらず、そのせいかどんよりと暗い。見渡す限りに木々緑は無く。冷たく荒れた風に煽られ、砂埃が舞いに舞っていた。そして、瓦礫らしきものが広範囲にわたって散在しているのがオレの目に入った。


あー、そういや、この場所って――オレは後ろを向くと自分が出てきた場所に目を向けた。地下へと続く階段がぽつんとあるだけだ。オレは頭を掻いた――オレの城があった場所だわ。よくもまぁここまで。感心の溜め息が漏れた。


オレは担いだ女のケツをパシーンと叩くと地面に下ろす。


そしてオレは地面にビッと指差しながら女に言った。


「とりあえず正座」


オレの言ったことに素直に従い正座する女。改めて見ると、至る所に出来た傷もそうだが、本当にボロボロだった。かつてオレに、それ程強くもないし、しかも女のくせして戦いを挑んできた勇ましさだけは一丁前の者の姿は微塵もなかった。ただただ見窄らしかった。だからオレは超絶絶大なる魔王の力を使って女の傷を癒してやると新たな衣装を用意してやった。


ふふふ。女め。驚いてるな。それもそのはずよ。何せ、黒艶光った衣装に、人間には無い尻尾に、天を指す角が生えたのだからな。


「……こ、これは……?」


「見て分からんか? 黒うさぎちゃんだ。お前は今日を以て勇者ではなく、一生を掛けて魔王に仕える魔獣バニーとして生まれ変わったのだ。良いな?」


「え……でも、そんな……こんな、格好……恥ずかしぃ……」


そう言って体をモジモジモジモジと捩らせる女。


「ああぁん? 恥ずかしいだぁ?」


オレは女の真正面でウンコ座りになると、大気が震えるほどのドスの利かせた声で言った。


「当たり前だ。罰としてお前を辱めてるんだよ、オレは」


「ば、罰……?」


「そうだ、罰だ。オレの世界をこんな滅茶苦茶にしやがってなぁ」


「……それは……」


何も言い返してこないところを見ると。この女なりに罪の意識は有ると言うことだろう。


「で? 女。お前はなんでここに戻ってきた? そしてなぜオレの封印を解いた? 神とやらの力を借りてまでして封印したオレをだ。オレがいなくなった世界はさぞかし平和だったろうになぁ? お前に力を与えた神もさぞかし喜んでくれたろうになぁ!?」


女は体を震わせ無言になる。オレは俯き気味の女の髪を掴むと顔を上げさせる。


「あぅ……っ」


「黙るな。言え。なんでオレの封印を解いた?」


「…す…けて……」


「あ? 聞こえん。ハッキリ喋れ」


「た、助けて……下さい。もう無理、なんです……」


女はそう言うと涙を流した。オレは女の髪から手を離し、落ち着くまで空を眺めながら待ってやった。空には得体の知れないけったいな鳥と言うのか、何と言えば良いのかに悩む生き物が群れを成して飛んでた。


――やがて落ち着いてきた女が口を開くと、静かに話し始めた。


「……世界を支配する魔王を倒し世界に平和を取り戻す。ただその一心の思いで私達は旅を続けていました。その私達の前に、神は……神と名乗る者が天から舞い降りてきました。そして神は名乗りました。『私の名は――』」


「ヴァレルヴォルテックだろ」


女が言うよりも先にオレが口にしたヴァレルヴォルテック。驚いたのか、女の目が一瞬だけ大きくなった。


「……知ってるのですね……」


「続けろ」


「……はい――ヴァレルヴォルテックと名乗った神は、私達の前に降り立つなりにこう言いました。『魔王を打ち負かす力を望むか? 望むというのなら……この剣を手に取るが良い。この剣の一撃は神の一撃そのもの。いかに強大な力を持った魔王とて神の一撃を喰らえば只では済まぬであろう』と。そして私達の目の前には神に召喚された一本の剣がありました。」


「で、お前はその剣を手に取ったわけか。あのな? お前、少しもおかしいとか思わなかったのか? そんなまどろっこしいことするくらいなら、神が直接手を下せばいいだけだろうよ」


「それは……」


「まあいい。で、その先は?」


「その先は……魔王であるあなたが良くお分かりだと思います。神に与えられた剣の力によってあなたを倒すことに、そして封印することが出来ました」


「ワザと封印されてやったんだけどな」


「え? ワザとって……どういう意味ですか?」


「そのまんまの意味に決まってんだろが。お前如きの力でオレを封印出来ると思ったのか? 封印もお前に解いてもらわずともいつでも自分で解けたしな」


「な、なぜ、そのようなことを……」


「なぜ、だと? この世界が誰のモノなのかを貴様等人間共に分からせてやる為に決まってんだろが。よし、ここから先の話。魔王という存在が消えた世界がどうなったのかをオレが予想で話してやるから黙って聞いてろよ。驚くほど当たってる筈だ」


女が固唾を呑んだ。


「まずオレが封印されて約一週間。世界には何も動きはなく平和なモノだ。しかし、一週間を過ぎた辺りから一変する。まあ恐らく世界中に光の粒みたいなもんが雨のように降り注いできた筈だ。見た目がすっげー綺麗だからな、人間共には神の祝福とかと思ったんじゃねーか。はい残念、大、量、虐、殺、だ。ん? なぜそんなことが分かるのかって顔してやがるな? 簡単なことよ、世界に施したオレの超高性能魔法防御壁の効果が消えるのが約一週間ほどだからな。まあ、これを人間共はまた魔王の、オレの仕業と思ったんだろうな。魔王は封印されていないのか!? ってな。お前も思ったんじゃねーのか? んで、次。空からは夥しい数の、芸術的に美しい翼を生やした天使が降臨しただろ? オレからの反撃が全くないから。よっしゃ、いったれいったれ! よな。ここでも大、量、虐、殺、だ。人間共は天使を見て最初は救世主! みたいな感じで歓喜したんだろうよ。でも残念。希望から絶望に叩き落とされた気分だったろうよ。それはそれは信じていたモノだ。その絶望度は如何ほどか? な?」


この時点で既に、オレの話に黙って耳を傾ける女の顔は蒼白になっていた。しかし、オレから言わせてもらえばここからが本題だ。


「んで、次だ。次――空からは、お前等人間が俗に言う神が七人降臨した筈だ。違うか?」

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