拉致
1-3拉致
「うぅ・・・驚かないで、くださいね」
俺が驚くような内容なのかは、正直わからないが、少女の目には涙が溜まっていた。
「いや、別に無理に話さなくてもいいんだぞ?」
「いえ、もともとこうなる予定でしたから・・・」
まるで俺が、ここに来るのだとわかっていたかのような、いいぶりだな。
「話す前に一つ確認しても、いいですか?」
「構わない」
なんの確認なのかはさっぱりだが、なんか嫌な予感がするぞ。
「あなたは神慶士さんのご子息、神慶介さんですか?」
はあ、嫌な予感が見事的中した・・・
神慶士は俺の父、回想に登場した普通じゃない人だ。
なんかヤバそうな、捜査をしたりして世界を飛び回り、その職に似合い過ぎている、厳つい顔。の、割には寂しがりなあの父だ。
そして、父の出す任務の中で、『慶士』。その名が出るというのは、その任務がメンドくなる証だ。
「ああ、そうだよ」
呆れ気味になりながらも、一応返答しておく。
「やっぱりっ、親子よく似てますねっ!」
ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!
余りの驚きに、何も口にしていないのだが、むせこんでしまう。
父と俺が似てるなど、母でさえ言ったことはないぞっ!
「気質が」
・・・
なんだよ、引っ掛けクイズじゃぁ、あるまいし・・・
あの漢って感じの、オッサンと一緒にされたくはないからな。
だがまあ、気質、というか性格なんかは、似てるとこ多いけど。
「というか、その言いよう俺の父に会ったことがあるのか?」
「いえ、電話越しに何度か話をしただけですが」
少女はそう言うと、どこからともなく、なにげな~くスマホを取り出す。
やめない?そういうの。
ここまでタイムスリップしたみたいに、古っぽい雰囲気出していたんだからさ。 最後まで通そうよ・・・
てか、ここ電気通ってたのか。
「本当の予定なら貴方が来るのは、来月位のはずだったんですが、早く来られたので、驚きましたよ。」
あのジジィ、妙なところで抜けてんだよな、まあ俺もだけど。
「突然、幻術内に人が入ってきたので、行ってみて正解でしたっ。」
「幻術?」
「あっ、話す順序間違えましたね、口で言うより見た方が早いでしょうし。見ててくださいよ、百聞は一見にしかずです」
そういう少女は、あろうことか着物の帯を外し始めた。
「ちょっ、まっ!」
「フフッ、大丈夫です。この下にちゃんとお洋服を来てますから。」
緩んだ着物の胸元からは、セーラー服のような襟が見えホッとする。
てか、今時そんなセーラーの学校はないんじゃないか?
青の襟って、水兵かよ。
俺の趣味にドストライクな、とこ考えると父だろな、これ渡したの。と、考えると不思議なくらい、自然だ。
パサリ
と、着物を脱ぎ、頭の三角巾を外す。
その頭には耳、腰の辺りには尻尾がついていた。
ま、マジかよっ・・・!
その目の前の光景に、今俺は目が丸くなっているかもしれない。
なんと、尻尾がセーラーの短いスカートを持ち上げていたのだっっっ!!!
あまりにあからさまな、驚いた顔をしていたのか、少女も首をかしげる。
「あの・・・そこまで驚きましたか?」
「いっいやっ、むしろ美味しかったですっっ」
ますます、少女は怪訝な顔をするが、「気にするな」と、言うと本当に気にしていなかったように、ニコッと笑って話を続ける。
「見ての通り、私には本物の耳と尻尾があります。」
やっぱり本物だったんだな、それ。
「そして、何故私に耳と尻尾がついているのかですが。私、狼の神様なんです。」
「そうか。」
「反応薄くないですか?それっ」
「ん?ああ、いや今回の父からの任務『ある動物を見つけそれを飼育せよ』だからな、どう拉致するか考えてたとこだ。ちょっと目、閉じててくれ。」
「あ、はい」
うん、この娘も少し抜けてるとこがあるな。目の前で拉致の話をされて、目を大人しく閉じるやつがいるかよ。
そう心のなかで呟くと、荷物から長いロープを取り出す。
そして少女のもとへ行き、ロープで少女を縛る。
訓練で習った、縛りを高速で。
「ちょっ!何をなさるんですかっ?」
ようやく気づいた、少女は声をあげる。
「私これから、貴方に着いていくつもりでっ」
「ああ、知ってる。これは俺の趣味だ。そう言えば、自己紹介がまだだったな。知ってるだろうが、俺は神慶介だ。君は?」
「ふ、風牙ですっ!それよりほどいてくださいっ!」
「あー、先に言っとくが、その縛りほどこうともがくほど、縛りが強くなるから。フーガ」
一通り家の中を片付け、外へ出る。
街灯もなく暗かったので、スマホのライトで足元を照らしながら歩く。少し離れたところに、小さな明かりが見えるので、取り敢えずそこを目指すことになった。
「フーガは他に持っていきたい物とかあるか?」
「い、いえっ」
最初は縛られてる、自分に代わって俺が片付けを始める様子にフーガも驚いていた。
勘違いしてほしくはないが、俺はそれなりに優しいのだ。
家の隣には、大神神社と書いた案内板がある。恐らくはこいつを祀ってたんだろう。
「てか、樹海は?」
「縄をほどいてくれたら教えます」
「わかった、幻術とかいうやつで、樹海を見せていたのか。」
もともと気づいていたことを、話のネタにでもするつもりで聞いただけだった。
フーガは明らかにガーンと、音のしそうな顔をして落ち込む。
暗くてよく見えなかったが、辺りには平屋のような建造物がいくつかあるように見える。
村かなんか、かと思ったが全くといっていいほど人気がない。
聞いても無駄だろうし、聞かないがやはり気になるな。
にしても、フーガの歩く速度が遅い。
足を縛っているから、当然っちゃあ当然だが。
足だけほどいて、蹴り(しないとは思うが)でもされては、痛いからな。
「少し止まるぞ。」
そう言うと、フーガがポカンとした顔でこちらを見つめる。
ほんと表情豊かだなお前。
そんなことを考えつつ、フーガの横に立ち、先ずは肩を抱き寄せる。「ひゃぅっ!」等と喘ぐがそれを無視し、内股になった膝を裏からすくう。
動作で言えばこんな感じだが、これは俗に言う、『お姫様だっこ』ってやつだ。
けっこう軽いな、こいつ
胸の大きさからしてもう少しあるかと思っていたが、割と軽かった。
「走るから暴れんなよ」
と、だけ言い街の光りらしき、小さな光りに向かって走った。
学校のテストも終わり、楽しい三連休。
もう楽園気分です。
日記みたいでスミマセン