割烹着姿の少女
1-2 割烹着姿の少女
目を開けると、木漏れ日は見えない代わりに薄く照された木の天井が見えた。
体は森のベッドでなく、布団に包まれていた。
生きているのは熊が気絶した俺を、死んだと認識してくれたからかもしれない。熊と会ったら死んだフリ、しても意味がないと思ってたよ。
「――いたっ・・・」
痛みで、反射的に額に手を当てる。
ヒヤリ
んっ、なんだ?
当てた手は額には当たらず、途中で冷たいなにかにあたる。
布?
屋内にいて、ぶつけた額には濡れた布。
どうやら親切な誰かが俺を助けてくれたらしい。
とりあえず布団からでるか。
しかし、冷えピタでなく、あくまで布、額につけたまま歩き回る訳にはいかない。
ちょうど、枕元に水の入った木の桶があったので、そのふちにかけておく。
辺りは薄暗い、恐らく夜なのだろう。
唯一見える灯りは襖の隙間から洩れる、薄明かりのみ。
トントントンと、心地よい音も襖から漏れていた。
誰かが襖の向こうに、居るのであろう。
――サーッ
襖の溝にはロウのようなものが塗っているようで、これまた心地よい音がする。
襖を開けた先にいた誰か。
も、その音に気づいたらしく、こちらに振り向く。
「あっ、起きたんですねっ今作り始めたんで、もう少し待っててくださいね」
襖の先にいた、割烹着を着た少女がこちらに振り返って笑顔を見せるとふたたび、調理に戻る。
頭に着けた三角巾がピクッと動いた気がしたが、気のせいだろう。
なるほど、トントントンという音は食べものを切る音か・・・
いやいやっ、そうじゃないって・・・
助けてもらったところまでしか、状況が掴めないぞっ
そういえば、振り向きざまの笑顔可愛かったなぁ、高1くらいだろうか?
だめだ・・・
今はイマイチ頭が回らない。どうやらご飯を作ってくれているようだし、そのご厚意に甘えるか。
少女は持ってきた夕食を、俺の座る隣のちゃぶ台に乗せていき、全て置くと割烹着を脱ぎ着物姿になった。なぜか三角巾はつけたままだが。
まあ、割烹着を脱いだのは着物を汚さない自信があるからかな。
出された料理は、魚のすり身の入った吸い物に魚の干物、漬け物に加えてご飯。
美味しそうだが、随分と時代遅れな料理だな。肉がない所なんて、文明開化前の日本のようだ。
「「いただきます」」
少女と声を揃えて言い、夕食となった。
モグモグ・・・
「気になっていたんだが・・・」
少女の口に食べ物が無いときを見計らい、質問をする。
「はい?」
「熊に襲われた俺を助けてくれたのはありがたいんだが、君1人で俺と俺の荷物をここまで運んで来たのか?家の方も留守のようだし」
「えっ、えっと・・・」
まずいことでも聞いたか?俺。
「じ、実は・・・あなたが見たの熊じゃなくて、多分私です。私石頭だから、ぶつかっても大丈夫だったんですけど・・・」
「確かに頭を上げてぶつかったくらいじゃ、気絶はしないよな。石頭ならしかたない。」
頭を上げて本物の石にぶつかっても気絶はしないだろうが、スルーしておこう。
「そぅ、そうですよっ!」
「だなっ!」
ハハハハッ--
--モグモグ
--モグモグ
モグモグ・・・
顔を見合せて笑ったは、いいがこの沈黙はキツいな、正直。
食事中にテレビがついてないと、ここまで静かなのか。
あれ?この家テレビがないのか?食事中にテレビをつけないのならわかるが、家にもテレビがついていないのだろうか?
と、言うよりこの家に電気が通っているようには思えない。
照明もアルコールランプみたい(実際はアルコールでなく何らかの油なのだろう)なのだけだし。
「あ・・・」
「どうされました?」
「さっき聞き忘れたんだが、君はどうやって俺をここに連れてきたんだ?」
どう考えても少女の華奢な体では、俺を持ち上げるどころか、荷物をもてるかも怪しい。
「それに割烹着は脱いだのに、なんで三角巾を着けたままなんだ?」
そう言うと少女の着けた三角巾が、またピクッと動いた。
少しながらも書き溜めておいたので、今回はほぼ同時投稿となりましたが、基本遅筆なのでゆっくりと次話をまって貰えれば幸いです。