表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「山の上の魔法使い」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/02

 遠い親戚が魔法使いをやっていると聞かされ、興味半分、あいさつがてら、遊びに行くことにした。

「かまぼこ山のてっぺんか。ずいぶんと、人里から離れたところに住んでるなあ」

 新宿から山手線で2時間。別名、「裏新宿」などと呼ばれ、訪れる者も少ない。

 本当に魔法が使えるというのなら、「表新宿」の一等地にでも居を構えて、堂々と商売でもしたらいいのに。怪しいもの好きが多そうだから、きっと稼げるに違いない。

 そんなことを考えながら、電車に揺られる。

 

 「裏新宿」で電車を降り、寂れたロータリーでタクシーに乗って30分、わたしはようやく、「かまぼこ山」の麓へとたどり着いた。

 ここから先はクルマも入れないような細い道が続く。もっとも、たかだか300メートルほどの山なので、急がずとも30分ほどで登り切れた。

「魔法だとか、たいそうなことを言ってるけど、せいぜいシルクハットからハトが飛び出すくらいなんだろうな。でも、手品と違って、種も仕掛けもないというのなら、それはそれですごいことだけど」急な山道を、はぁはぁと息を弾ませながら足を運ぶ。

 ふいに展望が開け、桜の木立が現れた。木と木に隠されるようにして、小さなロッジが建っている。近づいてみると「山の魔法使い・大垂水みどり」と表札がかかっていた。

「ああ、ここ、ここ。間違いない。大垂水さんだ。でも、名前が『みどり』って、ちょっと意外だなぁ」


 チャイムを鳴らすと、ほどなく玄関に人の立つ気配がした。

「どちら様ですかな」ドアから顔を出したのは、背の低いわたしより、なお小柄な老人だった。真ん丸な顔に白い髭をたくわえ、黒縁眼鏡を掛けている。フライドチキンで有名なあのおじいさんを、そのままぎゅっと縮めたようだ。

「あの、昨日電話をした、むぅにぃですが」わたしは手土産の「東京バナナ」を差し出す。

「おお、わしの遠縁のっ」魔法使いは「東京バナナ」を受け取ると、

わたしを中へと招き入れた。「よく来てくれたね。遠くから疲れただろう。さ、そこのソファーに掛けて休みなさい」


 魔法使いの住みかというので密かに期待をしていたが、三角フラスコもコウモリの干物も見当たらなかった。

 ある物と言えば、100年は使っていそうな柱時計、薪ストーブ、黒光りをしたチェストなど、どれも骨董品のような生活用品ばかり。

「電話では話さんかったがね、わしはお前さんがまだ、こーんなちっこい頃に1度、会ってるんだよ」魔法使いは、両手を物差しに語る。どう見ても、夏みかんが1個、といったところ。どうやら、わたしは未熟児にも及ばなかったらしい。

「そうなんですか。じゃあ、初対面じゃなく、再会なんですね」

「さよう。それにしても、あのちっこかったお前さんが、こんなに大きくなるなんてなあ。これこそ、まさしく魔法と言えよう」魔法使いはわたしをじっくりと観察し、感慨深そうにため息をつく。

 

「大垂水さんって、魔法使いなんですよね?」わたしは聞く。

「うむっ」魔法使いは自信たっぷりにうなずいた。

「あの、いきなりで失礼だとは思うんですが、何か魔法を見せてもらうわけにはいかないでしょうか」

 わたしが頼むと、にっこりと微笑む。

「お安いご用だ。ほら、あそこのテーブルの上をご覧。空っぽのカゴがあるだろう?」魔法使いは、指差した辺りをつまむような仕草をしてみせた。司会者がフリップの伏せ字を剥がすように、ぺりっと空間をはぎ取る。カゴの中に真っ赤なリンゴが山盛り現れた。

「わっ、すごいっ!」わたしは驚いた。「どこから出てきたんですか?」

「もともと存在しておったよ。とかく、この世は目くらましがはびこっていてな。そいつをひん剥いて、真の様を明かしたまでのこと」


「じゃあ、どこもかしこも偽りだらけ、ってことなんですか?」わたしは気味悪くなり、周りを見渡す。

「さよう。小屋の外に出てみようか。麓の町が見えるね? あの真の姿を見せてあげよう」

 魔法使いは両手を伸ばし、ポスターを貼り替えるように、景色を剥がし始めた。

 空や雲は何ら変わらなかったけれど、町の様子は一変する。家もビルも残らず消えてなくなり、銀色の巨大な建造物に取って代わった。

「見なさい。お前さんが町だと思っていた場所を」と魔法使い。

「まるで、SF映画に出てくる宇宙船みたい」わたしは呆然とした。

「まさにその通り。夜、人が寝静まった頃に、遙か銀河の果てまで飛んでいっては、また戻ってくる。誰1人として気づかぬままにな」


たぶん、わたしの町も同じだろう。毎夜、何億光年もの旅をし、帰ってくるのだ。

 朝、ほのかに昂揚感を伴って目覚めることがある。

 それはきっと、夢の断片に残されたかすかな痕跡に違いなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法使いのおじいさんのキャラクターがとても本物らしくて、ベタすぎず薄すぎないところが良いですね。 [一言] 最後の二行が心に響きました。夢の余韻が壮大で、でも説明できない時ってありますよね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ