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おもちゃばこ  作者:
5/23

人生は棒倒し。

金持ちの女の人が4才くらいの時に惚れた男を、財力を使って、嬲る話しを書いてくださいと言われたので、書きました。

 父の会社が潰れたのは隣に住む、安田家が銀行に働きかけたのがきっかけだった。目の上のたんこぶということで早めに潰されたようだった。俺の家族は路頭に迷った。

 その時、幼馴染で安田家の一人娘の友美が言った。

 ――お父様、アレ欲しい。

 昨日まで、仲良く遊んでいた友達に、指差されてアレ扱いされたのはショックだった。両親が媚びへつらう顔で、俺を売ったのもショックだった。

 ともかく、その日から、俺は彼女の奴隷として生きることになった。

 最初は俺も、親友がもしかしたら救ってくれたのかもしれないと希望を抱いた。もしくは彼女と結婚して……みたいなサクセス・ストーリーを考えた。けれど、もろくもそれは崩れ去った。

「あなたの会社、潰したのうちなんだ。あたしがパパに頼んだの。隣の貧乏臭い家の息子が目障りだからどうにかして欲しいって」

「……そうですか」

「何、その目。殴りたいなら殴ればいいわ。家族がどうなってもいいっていうならね」

 殴らなかった。正しくは殴れなかった。家族という言葉は俺の弱点だった。


 その日から安田嬢は俺にあらゆる仕打ちをした。金持ちのババアの“相手”をさせて、犬の相手をさせて、馬の相手をさせて、それを豪華な椅子に座ってビデオに収めて笑った。

 平日はビデオを俺の学校付近にばら撒いて、俺の社会的信用を(おとし)めた。ビラもまかれた。友達はいなくなった。近寄る奴がいなくなった。

 “動物好き”の高田くん。もしくは性豪の高田。それが俺の呼び名。

 救いは俺の家族が俺ことを知らなかったことだった。遠くに暮らしていることだった。

「今日は久しぶりにジェントルがお相手よ、それもあなたの会社に融資を断った頭取さん。観客もいるわよ」

 ニヤニヤ笑うハゲた親父に俺は抱かれた。いつものことだ、と諦めた。

 憎い相手に喘いでみせたりする。演技でね。そうしなきゃ、安田嬢は満足しないから。

 豪華なベットで、女物の服を着て、ハゲ頭にシミのあるくっせえ親父に抱かれる。悲しい人生だけど、それもしょうがない。少なくとも家族は養っていける。

 きたねえ体液を拭って、俺はおざなりのお礼を親父にいう。親父はこっそりと名刺を俺に渡したけど、安田嬢はそれを取り上げてライターで燃やした。

「お客様、うちの娼婦は年内まで予約いっぱいなんですのよ。明日はオーストラリアまで、タスマニアンデビルをエスコートしにいくんですから」

 ハゲ親父は冗談だと思って笑ったけど、俺は知ってる。マジなのだ。安田嬢はやるといったら俺にどんなことがあってもやらせる。風邪を引いていようが、危険な病気に感染しようが気にしない。

 時計を見る。そろそろシャワーを浴びて、メイド長のベットに潜り込まなきゃいけない時間だった。彼女に体を売れば、残飯を口にしなくても済むし、他のメイドにイジメられることもないし、温かい布団で寝られる。

 屋敷のメイド達に“洗礼”を受けた時、そうしなければここでは生きられないと俺は知った。主人も主人ならメイドもメイドだ。

「何、仕事が終わったって顔してるの? 観客がいるっていったじゃない」

 ああ、そういうことか。その興奮したジジイ、ババアが次の相手ってことか。分厚いマジックミラーの向こう側にいつものようにいるんだろ。いいよ、早くしてくれれば。

「違うわよ、観客は観客。あんた何年あたしと一緒にいるのよ。それくらい分かりなさい。ほんと馬鹿の相手は疲れるわ。ほら」

 マジックミラーが上にあがっていく。出てきた顔ぶれにめまいがした。

「……お前、こんなことをしていたのか」

 おいおい、そりゃないよ。あの時の媚びうる顔を忘れたとは言わせねえよ、親父。

「あんたなんて産むんじゃなかった」

 でもきっちり金は受け取ってるだろ、母さん。

「お兄ちゃん、最低だよ。ほんと、最低だよ」

 お前は、借金の事も知らなかったもんな。でもさ、考えるだろ。考えただろ。特に頭がいいわけでもない、資格があるわけでもない男が送ってるくにしては多すぎるお小遣いと生活費。疑問を抱かなかったっていうのは無理があるぜ。

 三人は口々に言い訳をした。それでもそんなことをしてるとは思わなかったと。

「じゃあ、仕送りはやめるよ」

 それは……と三人とも口ごもる。口ごもってよく分からない言い訳をして帰っていった。きっと俺はあの三人の中でいない存在になったんだろうな。

「どうだった? 今日のスペシャルゲストは」

「最高ですね」

 最低だよ。流石だよ、安田嬢。あんた、流石だ。俺は今以上のダメージは知らない。これほどキツイ仕打ちは知らない。俺の存在意義と、俺の大義名分が今ここで消え失せた。ああ、認めよう。あんたには完敗だよ、糞野郎。

 彼女は俺に口付けをした。いつものように、誰もいなくなった部屋で唇が触れ合うだけの、それを。

「お前には何もいらないのよ。何も考えるな、何も感じるな。何も思うな、何も思い出すな。あたしがそれをあげるから、あたし以外を見ず、あたし以外を必要とするな。そうしようとする限り、あたしはあたしをお前にあげるわ」

「身に余る光栄です」

「ふん、そうやって上辺だけ媚びていればいいわ。あなたの心が壊れるのと、あなたが服従するの。どちらが早いかしら、楽しみだわ」

 そうかよ。

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