遠くて近い距離。
携帯電話のLEDが瞬いて、次の瞬間、暗闇でメロディーが鳴る。眠気眼をこすりながら、男はケイタイを手にとる。画面を開くと好きです、のメールが届いていた。
タケシは相手の名前を確かめようとして、首を傾げた。知らない相手だった。
「スパムか、間違いかな」
アドレスはランダムな英数字の羅列だった。スラング的な組み合わせとも思えなかったので、彼はスパムだと見切りをつけたが、一応、スクロールして内容全てを確かめた。
何かアドレスが張ってあれば、それはスパムに違いない。そういう考えだ。
「画像か」
黒い添付画像がひとつ。拡大しても、縮小しても、黒々とした画像に変化はない。GIFと呼ばれる動的な画像でもなかった。
「無視だ無視」
ケイタイを投げ捨てて、彼はすぐさま眠りにつく。
朝日は必ず登るもの。時間は必ず進むもの。疲れきった体には、一分一秒が惜しいと思えたのだ。
その日から、毎日のように好きだという言葉が届く。素敵だという言葉も届く。一文だけの褒める内容が夜に届き、黒い画像が添付されている。まるでそれは、ひとつの名刺のようで、サインのようで、少し不気味だった。
当初こそ、アドレスを拒否していたものだったが、ランダムな英数字の羅列の主は、ブロックされる度に、アドレスを変更して届けてきた。罵詈雑言の返信をしたことがあったのだが、反応はなかった。
一週間もすれば、慣れたもの。もう気にならなくなった。朝日とともに未読のメールを開いて、内容を見て、削除する。それが日課になりつつあった。
危害はない。フィッシングサイトに誘導されるようなこともなければ、金銭を要求されたこともない。ただ、時々、寝ている途中で、起こされて、少し悔しい気持ちにされるだけ。
「黒い画像はなんなんだろう」
ベットに横になりながら、その日買った間接照明の光に画像を照らしてみたが、透けて文字が浮かぶわけもなく、黒々とした画像に変化はない。
一文はもはやどうでもいい。誰なのかというのも、どうでも良かった。イタズラに違いないからだ。イタズラにせよ、アドレスをスパムめいたものにするというのは、正体がバレたくないという気持ちからで、文章はなにかを伝えたいという気持ちで、人間的な表情を見せる内容であることは間違いない。分からないのは黒い画像だけだった。
名刺だとしたら、何故黒を取ったのかとタケシは思う。赤でもなく、白でもなく、何故黒なのか。色に意味があるならば、そう考えていくうちに段々とまぶたは重くなる。
ふと意識が失われかけた瞬間、ケイタイが音を鳴らした。アイツだ、と彼は意識を覚醒させて、メールを見た。特に内容に変化はない。
「あれ?」
ただ、メールの添付画像。いつもは黒いはずのそれが、ほのかに黄色く色づいていた。
わかるかなわからないかな。




