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おもちゃばこ  作者:
15/23

ラブゲーム。

前半のリアルはわりと本当のリアル。

 好きな相手がいて、自分が女子で、自ら行動を起こせないのなら、その人がすべきことは決まってくる。

 政治だ。

 ニュースに疎い世の女子たちが政治とは意外かと思われるかもしれないけれど、実は女ほど政治的な生き物はいないと私は思う。男子はよく勘違いしているけど、実は容姿はそれほど私達の中では重要じゃない。どんなに可愛くても、美人でもクラスの女子の反感を買えば、学園生活を平凡に生きていくのは難しいというのが現実。

 女子社会で重要なのは譲らない部分を守れる力と、機転、そしてそれらを統括する発言力の他にない。十人並みの顔立ちでも政治力があれば、結構幸せに生きられる。そういう社会が私達の女子社会だ。

 当然、政治というからには派閥争いもあるし、談合や裏切りなんてものもある。先輩OBの後ろ盾も強力だし、世襲制だって存在してる。男子が思うほど女子は仲良くないし、緩くしないし、陰険さはそこまで“軽くない”。

 争い事を避け、平々凡々と生きていくには適度に敵を作らず(敵を作らないというのは息をするなということと同じくらい難しい)、発言力の強い派閥の中で真ん中くらいのポストを得ることだと私は思う。

 下や外からは常にその位置を狙っている輩が天使のようなほほ笑みで、足を引っ張ってこようとするが、それを守り続けることができれば、この上ない幸せと待遇が自分を待っている。

 周りの人間があらゆることを自分にしてくれる。優先してくれるし、世話を焼いてくれるし、協力してくれる。勉学、テスト範囲、言い訳、そして恋とか。

 そう、恋。

 私は今、風邪を引いている。家には誰もおらず、そんなところにプリントを届けてくれる男子は私の好きな相手だ。そして今日という日ばバレンタイン。

 私はこの日のためにこの位置を守ってきたのだ。この日のために好きな相手をカミングアウトして周りを牽制し、面白系女子に頼んで彼と私が話しやすいような空気を作ってきた。普通に会話をしあえるくらいには、仲がいい間柄にはなっていると思う。

 あとは敷いたレールの上だ。シナリオ通りだ。授業の重要なプリントが出ることを知った私は頃合いを見計らって二、三日休みを取る。プリントは誰かが運ばなければならない。本来は教師の仕事だけれど、教師だってそんなことしたくはない。誰か届けてくれる人がいないかと周りに聞く。そこで私の派閥の仲間がいうのだ。

「○○、あの子と仲いいし届けてあげれば? 家も知ってるよね、確か」

 彼は困惑して、他の女子に頼むだろうが、周りの女子は図ったよう――事実、図っているのだけど――に首を横にふる。教師もこれは幸いと無理やり押し付ける。クラスの男子に囃し立てられるだろうけど、そこは私の派閥が「ただプリント届けるだけでじゃん」と一喝する。しながらも、プリントを届けるだけじゃなくて様子をちゃんと見るように念押しされて。うふふふ、完璧だわ。

 しょうがなくやってきた彼を私は家に上げて、お茶を出す。出しながら他愛のない話しをして、普段から感謝しているということをしおらしく語り、今日はバレンタインであることと、渡すはずだったチョコを受け取って欲しいと上目遣いで言う。おまけに今日は両親がいないことを告げてもいい。伏し目がちに好きな人はいるのかと続け、どんどん逃げられない空気を作る。彼に好きな相手がいたとしたら、その人は他の男子が好きなんだよ、あなたが別の女子を好きなままでもいいから私と付き合ってと健気に訴える。そこまで言われて断れば、周りが許さない。断ったとしても、私側で圧力を掛けて強制的に付き合うことになるけど。

 女とは(ごう)の深い生き物だなあと思う。生粋の狩人なのだ。油断が死を招き、経験と知能がモノをいう狩人。

 家のチャイムが音を鳴らす。私は自分の部屋の手鏡を見つめて、薄く塗った化粧のチェックをする。次に束ねた髪を解いて、如何にも油断していましたよという顔を作る。第二ボタンくらいまでは外していいわね。うん、よし、可愛いよ私最高ベリービュティフォー。

 いけないけない。モタモタ歩いてたら彼はポストにプリントを突っ込んで、さっさと帰ってしまうかもしれない。それだけは避けなきゃ。ヘンゼルとグレーテルの魔女はタダ食いさせるためにお菓子の家を作ったわけではない。ささっと一階まで降りて、ドアノブに手をかけた。

「あれ、笹本……くん?」

「えっと、あの、プリント届けにきたんだけど」

「ありがとう」

「これな、どっちを選択するか事前に丸つけて提出しとけって。期限は明後日までだから余裕はあるだろうけど、もしアレなら俺が明日持って行くけど」

 つまり私がサインするまで待つよということらしい。よしよし、より家に上げやすくなったわ。

 私はぼうっとした顔のまま、少しだけ目を開いて驚いて見せる。

「ええ、本当? あっ、でも、悪いよ。わざわざプリントまで届けてもらったのに」

 どうよ、この清純派っぷり。わたし、凄くない? 軽く言ってもアイドル級よこれ。

「ふうん。じゃ、帰るわ。明後日が期限だからちゃんと守れよ」

 そうそう、いいって俺に任せておけ……うん? うんうんうん?

「え?」

「じゃあな! お大事に」

「あ、ちょっと待ってやっぱり持って行ってほしいかも」

 びっくりして、彼の服を掴んでしまった。ちょっと待って、君、そんなに薄情だったっけ?

 え、なんで自分の嫌いな料理がこのあと出てくるって分かってる芸人みたいな顔してるの。過剰すぎてすっごい家に上がって言いづらいんだけど。

「分かったよ。じゃあ、ここで待っててやるから、書けよ」

 あ、こいつ上がらねえ気だなこれ。こいつ、完璧に告白されるのノーセンキューで、うやむやにしたい感じだ。

 そうですかそうです、私のことは好きってほどじゃないですか。いいですよ、それでも。まあチョコ受け取ってもらって、明日みんなの前で美味しかった? からの他女子のなになに二人ともそういう関係なのー付き合っちゃいないよコールで落とすから。

「えっと、ペン忘れ――」

「しょうがねえな、ほらこれ使えよ」

 ぐっ……。お前が次に何言うか分かってました的などや顔がムカつく。

 くそめ、乙女舐めるなよ。この日のために色々犠牲を払ってきてるんだよ。これで空振りだったら、恥ずかしすぎるわ!

「あたたたたたた、腕が! 腕がこのペンじゃ腱鞘炎になっちゃう! あーあーあー、いつものペンだったらなー、痛くないんだけどーなー。ああ、なんだか熱も上がってきたし、ゆっくり椅子にでも座って、バーホーテンのココアでも飲みたいなー」

「くそっ、わざわざ大声で。しかもバーホーテンとかめちゃ手間かかるじゃねえか」

「え? 笹本くん何?」

「いや、別に? いいよ、上がってくよ」

「本当? ごめんね、ああ、熱がなければ笹本くんをささっと帰らせてあげられたのに! ああ、この熱め! 私の熱め! もう! 季節外れの熱って嫌になっちゃうね! てへぺろ! あ、今日両親いないからゆっくりしていってね?」

 言いながら私は扉の鍵をロックして、チェーンをかけた。笹本くんが小さくしまったともらしたを私は聞いた。

 うふふふふ、馬鹿め! もう一度言っとこ! 馬鹿め!

 お風呂はすでに沸かしてあるし、お父さんのパジャマは用意してあるし、それが断られた用の親戚の人が来た時に使う予定の新しいパジャマもあるわ。デザインに難癖付けられた時のために三種類用意してあるわよ。うふふふふ。

 家に上がった時から君は負けているのよ、笹本くん。

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