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おもちゃばこ  作者:
1/23

近所のお姉さん。

クリスマス企画(?)の私なりのラブコメ。

 学校で近所に痴漢が出るという話を僕は聞いた。家に帰って言葉の意味を調べると、痴漢とは女性を狙う、男性の総称であるとのことだった。被害者は女性であり、男性が被害者であることは社会的にも、法的にも認められないらしい。だから僕は、姉さんが防犯ベルを執拗に持たせようとするのも拒否した。僕が痴漢に遭う理由がないのだと。そもそも僕は賢い。賢い僕がそんな事件に巻き込まれるわけがないと思っていた。けれど今は、姉さんに謝罪したい。賢く、大人な僕は謝罪もできるし、自分の過去の失敗を認めることもできる。だから、今、ここでそれを認めよう。痴漢や変質者は男性だけに限らず、女性も含まれるのだ。

「ボク、一人で何してるの? お姉ちゃんと遊ばない?」

 いつものように彼女はどこからか現れて僕の周りにまとわりついた。

 僕は彼女を直視せず、足を進める。

「遊びません。今、忙しいので」

「クールなところがまた可愛い! 美味しそう!」

 拒絶をクールというのも言いようだなと思った。そもそも美味しそうってなんだ。

 この変質者とのファーストコンタクトは学校からの帰りだった。後ろから抱きついてきた彼女は僕に婚姻届をぶつけて、高らかにサインを求めた。数ヶ月前から僕を影から見守っていたというていのストーカー話しを炸裂させた彼女の手を僕は冷静に捻った。警察は勘弁して下さいと涙ながらに語る彼女の意図を汲んだ優しい僕は、近くのタクシーに彼女を放り込むと精神病院に送るように運転手に頼んだ。

 それからというもの、彼女は僕の前に現れては、痴漢行為を働こうとしてくれる。

「いいですか? ちゃんと病院に行くんですよ。頭の方の。ほら、僕が代金出してあげますから」

「私、病気じゃないよ。ただ半ズボンの男の子を見ると嬉しくて仕方がないお姉さんってだけで」

「それを世間的には病気というんじゃないんですか?」

「えー、世間一般的な性癖だって、この前ニュースで言ってたよ」

「幻聴と幻覚の症状ありと……」

「ちょっと、メモらないでよね! 最近はメモだけでも有罪になったりするんだから! 私が小学生に近づけなくなったらどう責任取ってくれるの? 結婚してくれるの? してくれるなら、喜んでお願いしますっ!」

「…………」

 これから僕はお使いに行かなくてはならないので、こんな危ない人とお話しはできないのだ。完璧な僕はタイムセールスに合わせて行動している。

 お夕飯は何になるのだろうか。多分、材料的には肉じゃがだと思うけど。

「ねえねえ、今日はなんの日か知ってる?」

「じゃあ、また」

 すっと横を通り過ぎようとすると彼女は僕の手を掴んだ。

「とぼけるならまだしも、スルーって酷いね君。今日はクリスマスだよ。恋人の日だよ! 私達の日だよ! 十ヶ月後には子供が生まれて、将来その子が自分の誕生日から逆算して、ああ、自分はクリスマスのノリでなんかできちゃったんだって知って、毎年ブルーになる日なんだよ今日は!」

「離せ、このショタコンが」

「やん」

 きつく睨むと彼女は光悦とした表情で身悶えた。手を離さないあたりがウザさを際立たせる。

「あなたは、どうしたいんですか?」

「だからー、君が私と結婚してくれればいいわけ。もう、何度も説明したでしょ? 私はショタコンなわけ、半ズボンが好きなわけ。あわよくば幼気(いたいけ)な少年と性的な行為をしたいわけ。分かる?」

 腰に手を当てて、説教をするかのようなしたり顔は遠くから見れば、マナー違反を注意する大人とその子どもに見えたことだろう。僕も当事者でなければ、そう思っただろう。でも、その内容が下劣な欲望の吐露だと誰が想像できただろうか。

 というか自分がショタコンって認めるんだ。最低だなこの女。しかも僕は小学生だぞ。

 一瞬、手首をひねってやろうかと思ったけど、この前みたいに「いたたたた! 痛い! けど、クール系の少年に手首をひねられて罵倒されるっていうのもなかなかポイント高いなあ」って言われるのも気持ち悪いし、やだな。

「クリスマスプレゼントもあるんだよ。ほら、手編みのマフラー」

 普通すぎるマフラーに一瞬、僕は身構えた。触ってみるも、ただの毛糸のマフラーで逆に怪しい。この変態のことだからきっと、髪の毛で編んだとかそういう方向にいくのかと思ったのだけど。

「おそろいなんだよ。たまに君のととっかえこして、お互いの体臭を楽しみ合うんだよ。素敵だよね」

「……うん、あなたの頭の中は相当に素敵らしいですね」

「ちょっと何その、可哀想な人を見る哀れみの眼差し! やめてよね、私が頭おかしい人みたいじゃない!」

「頭おかしい人じゃないみたいな反応やめましょうよ。あなたは立派に頭がおかしいです」

「……マジで?」

 え、なんだろう、この反応。今まで自分はまともな人間だとでも思っていたのだろうか。

「はい」

「…………本気で?」

「はい、残念ながら」

「え、そんな、本当に私と結婚してくれるの? やったー!」

「誰も結婚してくれなんて言ってないです! 幻聴も大概にしとけよお前!」

「お父さんと息子と私と親子で爛れた生活ができるだなんて嬉しい! 泣いちゃう!」

「僕も違う意味でいい加減に泣きそうです」

「半ズボンのサッカーチームができるくらい子供を産んであげる!」

「完全に自分のためじゃないですか!」

「昼は子どもたちとサッカーで、夜はあなたとサッカーよ」

「全然うまくないからな!」


 ギャーギャーやってるうちに僕は見事にタイムセールスを逃し、公園でしょぼくれた。

「少年よ、どうしたんだ? 大丈夫、みなまでいうな。わしが占ってしんぜよう。うむ、近所の女子高生と結婚して子供を作れば幸運に、あたたたた、関節はやばいって! 痛い! 痛いけど、小学生の体温が私の体を火照らせていく……! うそ、これが恋!?」

「毎回言うけど、ほんっと最低だな、お前」

「だけど、なんかほっとけないんだよな、コイツ」

「勝手にナレーションすんな!」

 僕は大人になったら、こういう大人を駆逐する法律を作るんだ。

 そのために勉強しよう。

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