風雪
しょうがない人
それが自分が初めて真矢と出会った時の感想
強いくせにカッコいいくせに
ヘタレ属性を神様から頂いたとしか言えない奥手
好きになった人とは目も会わせられず
相手が嫌われてると勘違いし去って行くほどの
まだ幼い子供であった自分にとってそんな真矢は
嫌な奴、ウザい、ふざけんなや
と世界は理不尽だらけだと僻んだ
もう真矢に出会ったことが自分にとって不幸の始まりだったとしか言えない
ああ、爆発しないかな、こいつ
そう何度真矢に言いたかったか
何度力さえあれば真矢をぶん殴れたか
そして何百万回、真矢の取り巻きに殺すと叫んだか(まぁ、心の中でだが)
とにかく真矢と言う奴は
平凡の敵
モテない紳士の天敵
自らの取り巻き(美少女、美女)を自分に天然な言動で差し向ける刺客なのだ
何故に平凡な容姿の、頭の良さしか取り柄のない自分と未だに幼なじみなのか
一度頭の中を割って見たいと思う程だ。
まぁ、でもそれも今日で終わりだ。
今日の中学の卒業式と同時に真矢と自分はお別れ出来るのだ。
理由は簡単な事だ、進学する高校が違うからである。
真矢にバレないように受験し、尚且つ誰にも話さなかったため知るのは不可能
だから浮かれていた。
女子からのちょっと可哀想な子を見る冷たい眼差しにも、男子からの同情を越えた憐れみの生温い眼差しにも全然苦にならなかった。
故に忘れていた。
真矢はどうやら運の神様をも惚れさせてるに違いないと言う強運の持ち主であった事に
そして自分が呪いに違いないばかりの不幸に愛されてたことに
何故気付かなかった。
気付いていれば、こんな事に巻き添えを食うこともなかったはずだ。
「俺に出来る事でしたらやらせて下さい。
困ってる方を見過ごせないもんな、そうだろう?」
またやってるよ。
やるなら一人ですればいいものを
此方を巻き込むように言い出したし
そっちの真矢の新しい取り巻きになったに違いない女よ
お前こちらを睨むとはかなり教育的指導を入れて欲しいと見える。
とにかく言わせて貰おう
「人を巻き込むんじゃねぇ
召喚されたのはお前一人だろうが
(このアホ王道勇者が、一辺死んでこい)」
「たとえご友人の方でも容赦いたしませんわよ、カイリ様に無礼を働くおつもりならば」
なんだと、この事態を引き起こしたくせに、恋に走り自分を責めるとは
「帰りたいんですが」
「では、お帰り下さい。」
可愛い笑顔だが、目は笑っていない。
なんか嫌な予感がするのだけど
浮遊感と共に投げ出された。
「痛っ」
思いきり固い地面に尻餅を着いてしまった。
痛いってもんじゃない。
暫し、蹲っていると聞こえてくるのは小鳥の囀り
それに、なんて見たこともない植物だらけ
痛みを引いたのを確認し、改めて辺りを見回して項垂れた。
あの色ボケ女、元の世界じゃなくてどっかの森に放り投げたな。
「間違いない、抹殺する気だ」
そうですか、イケメン、それも勇者以外はいらないと
巻き込んでおきながらその態度良い度胸だ。
腹いせに世界壊してやろうか
不気味に笑い、偶然通り過ぎようとした兎が怯え震えていたのだった。
こうして、自分こと七瀬瑛の異世界生活は始まったのだ。