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降り積もっていた雪が溶け始めたある日の事だった。


「は?お父様もう一度言ってちょうだい?」


信じられない事を聞いたんじゃないかと


目の前に座る父親にもう一度尋ねる。


「だから、来月婚約式開くからマリン、き・み・の・ね☆」


その発言にニッコリと笑い


「キモい、一辺生まれ直して来い」


キツイ一言を叩き付けた。


だが父親は少したじろいだだけで


「何故ダメなんだ?」


「主語が抜け落ちてますわよ?


何故この口調がいけないのか、と聞いてますの?


それとも私の婚約の話ですの?」


すでに目が吊り上がり、答えようにはただじゃおかないオーラが漂っている。


「も、もちろん婚約の話だ」


気圧され、父親がタジタジで聞き返してきた。


「当たり前ではなくて?


私はまだ11になったばかりの子供なのよ。


それをいきなり婚約ですってふざけるにも大概になさって」


本当に子供なのだろうか


疑いたくなるような態度のでかさ


しかし、父親が肯定するように無言のため、事実なのだろう。


「貴族、王族の娘は生まれた頃から婚約するものも多いんだぞ」


「それはあくまで他の方でしょう?


私はまぁ、政略なのは諦めてやりますけど


婚約、結婚は大人になってからにしていただきますわ」


凛と言い切り、まだ何か言いたげな父親を完璧に無視し、部屋を出て行こうとした。


「相手は、イシュワール公爵で良い縁談なんだぞ」


ボソリと呟かれた言葉に


振り返り、笑顔で父親に走り寄った。


「お父様、それを早く言って下さらないと」


それは満面の笑みだった。


一見して婚約する人物が望ましいだと聞かされて


照れながら父親に走り寄っているように見えただろう。


だが、期待を裏切らないのがこのマリンだ。


父親の近くまで走り寄ったところでジャンプし、体を回転させ父親の腹に飛び回し蹴りを入れた。


「なおの事、悪い話しではないですか」


額に深いシワが寄り、余りの痛みに悶え苦しむ父親の胸倉を掴み、揺さぶる。


「公爵が現在おいくつか分かってらっしゃるの?」


「マリン、く、くるし」


しかし、揺さぶるのを止ない


「現在、公爵は23歳の立派な大人


そんな方のところに12も下の私が嫁入りしろと?

ふざけた考えに公爵も涙してると思われますわ。


お父様、今すぐに謝って来て下さい。」


行かないと、揺すり続けるが、弱々しく揺られ続けている父親に苛立ち


「お父様が行かないなら、私が行ってまいりますから」


そう言い残し、足早に今度こそ出て行った。


マリンは侍女に素早く着替えを手伝わせ、馬車に飛び乗った。


自宅から公爵の屋敷までは少し距離が離れているので、気を静めるため目を閉じた。


まずは公爵にお会いして謝って婚約はなしの方向に持っていかないと


まだ婚約式はあげてないし、知る人物は少ないわ


それに公爵自身が納得されているはずがない


完全に政略以外の何物でもない、子供の自分との婚約


まだ11の子供とは思えない考え方のマリン


人は彼女を「天才姫」と密かに呼んでいる。


彼女は生まれつき知能が高く、この歳ですでに帝王学を修了していた。


まぁ、それと同時にちょっとばかり性格に難があるのだが


「確か公爵のお母様が発言力が強いと聞いた事があったような」


どうすれば良いか、作戦を考え込んでいる内に


公爵の領地に入り、公爵の屋敷『アズワール』にたどり着いていた。


「お嬢様、到着致しました。」


掛けられた声に、顔を上げて返事を返す。


すると静かに馬車の扉が開き、マリン付きの執事が恭しく手を伸ばして来た。


その手に自分の手を預け、馬車から降りる。


「さぁ、正念場ね」


自信満々に笑い、出迎える公爵側の使用人が作る道の真ん中を堂々とした態度で屋敷へと誘われる。


令嬢らしく静かに歩く先は公爵の母君、セナ様が居るはずだった


しかし、マリンが案内されたのは


この屋敷の主たる、イシュワール公爵の執務室であった。


「ごきげんよう、公爵様」


礼儀正しく挨拶の口上をあげるが、威圧感がただ者ではない公爵に一蹴される。


「マリン嬢、婚約を取やめにいらっしゃったんですか?


残念ですが、無理かと思いますが?」


何を言ってくれちゃってるんだろうか


意味が分からない。


首を傾げると、公爵が心底楽しげに笑う。


「貴女がいくら努力されても家督は女性では継げない


嫁に出てこそ、その真価がある」


その言葉はマリンの心を傷付ける。


「だから公爵様に嫁入りせよ、と


その理屈ですと、嫁に入る家は何も公爵の家でなくてもよろしい、とぞんじますが」


だから傷付いた心を隠すため強気に言い返した。


「ですが、貴女の家と釣り合う身分、年頃、関係他諸々合わせたら、我が家が一番かと」


確かに公爵の言う通りだ。


身分でいけば、他にもあるが公爵より尚年頃が合わない。


マリンより大分年上もしくは赤子になってしまう


かと言って年頃で決めようとすると


身分が釣り合わない、または家同士が仲がよろしくない場合が出る。


仲がある程度良く、身分が釣り合い、若干年が開いてしまうが


この公爵はマリンの結婚相手として適役であった。


だが、それはあくまで自国の中での話だ。


他国には条件を満たす者は少なからずいるのだ。

だが、その結婚はまず父親の反対に合うだろう


けっこう娘大好きな人物なのだ父親は


すでに生まれた時から、そうであったらしい


まぁ、今のところ唯一の娘だから仕方がないと言えば仕方ないが


しかも、公言してやまない人物なので


公爵の耳にも入っているのだろう


結婚しても、自国の者に限ると言う条件がついているのを


「お父上は許されないのでは?」


ほら、言い出した。


さて、どう帰せばいいだろうか


下手な事を言えば公爵の思うがままになる


別にこの公爵が嫌な訳ではない


あまり話したことがないので、好きや嫌いの感情はないのだ


まぁ、言わば対抗意識なものは働いているが


「マリン姫様、なにも今すぐの結婚をと言ってる訳ではない


貴女が14になるまで待つつもりですよ、私は」


何をすでに結婚を前提にしているのだ


ムカッ腹が立つ。


大きく深呼吸をし、それからニッコリと笑う。


「お断りです。


貴方様と結婚する気は毛頭ございません。


貴方様なら年頃の令嬢の方々から選び放題なんです


その方達の何人とでも結婚でもなんでもなさって下さりませんか?


私は私の道を歩きますので」


全てを言い切ったとばかりに優雅にお辞儀をし、さっさと辞去して行った。


引き止める暇乞いもない、素早い行動であった。


「本人に言いましたし、あとは」


小さく笑い


次に向かうのは、最初に決めていた公爵の母君のところ


近くを通ったメイドさんに頼み、案内をお願いする。


念には念を入れておかないと


公爵はどうやらしつこい性格をしているようだから


「絶対に私の行く道を邪魔させないわ」


「面白い、どんな手を使っても手に入れたくなった」


「「覚悟しておいて(おけ)」」


戦いの火蓋は切って落とされた。




END

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