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散歩

あの男性が忘れられないまま何日間か過ぎた。でも多分、これは恋ではないのだろう。珍しい物に惹かれる、ただの興味本位の同情だ。


私は、一目惚れなんて信じない。


「フィーオー!また手が止まってるって!」


リリアに、今日何度目かのご忠告をもらった。私は慌てて手を動かし始める。今は二人で、馬小屋の清掃を行っていた。


「どうしたのよ?ボーっとしちゃってさ!」


乾し草をかき集めながら、リリアが拗ねたように聞いてくる。恐らく自分にも害が生じるため、理由が知りたいのだろう。


「何でもないよ」


私はなるべく感情を込めないで答えた。彼女に知られたら、何と言われるか分からない。


「何でもないなら、手を動かしてよ」


「うん、ごめん」


顔をしかめられた。


「この会話、四回目だけど?」


らしい。


どうやらコレは、思っていたよりも重症だ。


+ +

一日の内で、唯一自由に行動出来る時間。

私はその時間、大体本を読むか散歩をしている。なぜ字が読めるのかは、私自身ハッキリと覚えていない。奴隷になる前の私の私生活は、ゴッソリ記憶が抜けていた。


真っ赤な絵の具を適当にぶちまけ、まだ乾いていないかのような夕焼け空。主人の館は、お色直しをしたように輝いていた。


私は一人、主人の庭を歩く。と言っても、表の豪華な方ではない。歓迎会の時に待たされる、裏の質素な方だ。


ブラブラと心のままに歩いていたら、ユエン様と出会った場所についた。


「ん…?」


そのまま通り過ぎようとした、その時。何か変な物が置いてある事に気付いた。昨日は何もなかったハズだ。


恐る恐る近づいて、ソレを手に取る。綺麗に折り畳まれていた。きっと、誰かが落としたのかと思った。貴族階級の人間の、便箋。


興味本位で宛名を見る。するとそこには。


『フィオティール・ラシュファー嬢』


「は…?」


紛れもなく、この名前は私の物だ。しかも本名を教えた人間は、過去に一人しか思い浮ばない。私自身驚くぐらいに手が震えていた。


慌てて辺りを見回す。誰かに見られていたら。


そう思うと、自然に懐へと手紙を隠した。一体、こんな奴隷に何の用事があるのか。差別をしない、優しい騎士様を思い出す。それから私は、自分のしている事を思い出す。


あぁ、最低だな。もしかすると救われると思っているなんて。本当に最低だ。


微かに手紙の感触を堪能しながら、自己嫌悪に陥る。もう部屋に戻ろう。時間もそろそろ終るし。何故か、友人のリリアの顔が思い浮んだ。彼女に申し訳ない気がした。


手紙を懐に隠したまま、私は黙って一日を過ごした。そして一人になった時に、月明りを頼りにゆっくりと一文一文を読んでいく。


貴族様らしい、達筆な文字が並んでいた。


『フィオヘ。


文字が読めなかったら、そこまでだと思っています。あとはタイミングが悪くても、ね。


明日の、14日の18時に時計塔の前で待っています。主人には俺から知らせておくので。どうかな。


    ユエン』


随分簡潔に書かれていた。

私は、それを何度も読み返す。やはり、今日この手紙を置いたのだ。しかも、私を覚えていてくれた。誰かに覚えてもらう、というのは心地がいい事だ。自分の存在価値を見出すことが出来る。


「明日の…」


惜しみなく輝いている月を見つめながら、私は一人で呟いた。思わず首を縮めたくなるくらいの冷たい夜。


この手紙を無視出来るくらい、私は大人でも冷静でもなかった。恋愛なんて興味ない、と言っていても私も女だ。初めての男性からのお誘いに、心がときめいているのを感じた。


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