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Solve  作者: 黒藤紫音
Boy Meets Girl
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Boy Meets Girl

寝つけるかどうかの心配は無意味だった。

いつもと同じように爆睡していた涼護は、いつもと同じように二度寝した。

家を出てて登校している時もいつもと同じ。

学園に入っても相変わらず好奇の視線で見られ、教室に入ってようやく途切れた。

しかし教室の様子だけが、いつもと少し違っていた。

何やら皆そわそわしているような気がする。


「おはよう、涼護」

「おう、おはよう未央。……なあ、なんか妙な雰囲気だけど、何かあったのか?」

「ああ、それはね」

「それは俺が解説しよう!」


 ドバンという効果音が出そうな勢いで割り込んできたのは夏木だった。

 いつもよりテンションが高い。


「……なんだよ、何があった?」

「聞いて驚け。実はな……」

「実は?」


 涼護が訊き返すと、夏木はもったいぶって溜めた。


「……おい、何があるんだ」

「ふふふ……それはな」


 何故かすごく勝ち誇ったような顔をしていた。

 むかついたので蹴る。


「はよ教えろや」

「ぐふあ!」


 顔面にぶち込むと、夏木はその場でたたらを踏んだ。

 しかし、倒れるのはこらえた。


「ふふ……それはな……」

「おい今度は股間に食らいたいか」

「すぐ言いますハイ」


 そう言って夏木はごほん、と咳払いをした。


「今日転校生が来るんだよ、このクラスに」

「はァ?」


 寝耳に水だった。

 思わず訊き返してしまった涼護を、誰が責められようか。


「それでこんなんになってんのか?」

「オウ、イエス! ……つかなんで涼護はテンション低いんだよ」

「テンション上がる理由がわからん」


 そう言うと夏木ははぁ、と呆れたように息を吐いた。

 また蹴りたくなったが、話が進まなさそうなのでやめた。


「転校生だぞ! テンション上がるだろ普通! 美人な女の子かもしれん!」

「男の可能性もあるだろ。フィフティ・フィフティじゃねえか」

「夢を見たいんだよ!」

「……意味わからん」


 実際涼護はさして興味も湧かなかった。

 転校生が来ようがどうしようが生活には大して影響はないと思ったからだ。


「……ついていけねェ」


 呆れ、涼護は自分の席に座った。

 そして一つ前の席が空いているのを見て、転校生が座るとしたらここだろうな、とあくまで他人事のスタンスで思った。

 ちらりと視線を向けると、夏木や他の生徒は相変わらず興奮気味だった。

 それでもチャイムが鳴ると少しは冷静になったのか、自分たちの席に戻る。

 それとほぼ同時に斑目が入ってきた。


「おはよう、お前ら。今日はニュースがあるぞ」

「転校生でしょ?」

「どんな人ですか?」

「男? 女?」


 生徒たちがわいわいと騒いで、斑目に質問を投げかけていた。

 涼護は呆れて何も言えず、それは深理や未央も同じだった。


「なんだ、もう知ってるのか。じゃあ出し惜しみなしだ。入れー」

「はい」


 教室の外にいるであろう噂の転校生がそう返事した。

 そして扉が開く。涼護は自然にそちらに目を向けて――――目を、奪われた。

 まず空の色のように蒼く長い髪。そして髪と同色の蒼い瞳。

 百人中百人が口を揃えて「美人」だと言い切るほどの容姿。

 制服を着ていてもわかるほどのスタイルの良さ。

 ほう、と息を吐いたのは誰だったか、教室中の生徒が見惚れていた。

 そして彼女は教卓の隣に立ち、こう言った。


「皆さん、初めまして。蜜都汐那と言います。一応モデルをしているので、ひょっとしたら、知っている人もいるかもしれませんけど」


 そう言って、彼女――――蜜都汐那は、世界中の男を骨抜きにするような笑顔を浮かべた。

 そして次の瞬間、雄たけびが上がった。


「蜜都汐那ちゃん!? え、本物!?」

「汐那ちゃんが、この街に来たーー!!!」

「うっそ何これ、夢じゃないの!?」


 ぎゃーぎゃーと一気に教室が喧しくなった。

 ほとんど男子が騒いでいるが、女子もたいがいだ。


「え、うそ。マジで蜜都汐那……!?」

「背ぇ高!」

「つか、あのスタイル何? 何食ったらああなるの?」


 男子と女子が騒いでいる中、斑目はあくまでマイペースに告げた。


「蜜都はなあ、まあ、親の事情で、この街に引っ越してきたんだ。仲良くしろよ。……あ、蜜都の席は、窓際の列の、最後の席の一つ前な」

「はい。わかりました」


 そう言って汐那が歩いてきた。

 それを見、涼護はようやく現実に帰ってきた。帰ってきたはいいが、内心はテンパっていた。

 涼護には珍しいことである。


「初めまして、よろしく……?」


 そうこうしている内に、涼護の前の席に汐那が座った。

 そしてこちらを見た汐那も目を丸くしていた。


「あ……、君」

「お前……」


 どうして気付かなかった。

 つい一昨日のこと。昨日ならたった一日前の話だったのに。

 昨日の女性を見てデジャヴを感じた理由(わけ)がわかった。

 当たり前だ、見たことあるに決まってる。


「昨日……助けてくれた人、よね?」


 蜜都汐那だった。

 テレビで見たことあるなと思うほど顔を見かけ、未央との話で覚えていた。

 なのにどうして気付かなかった。


「すごい偶然だね」

「……そうだな」


 ようやく落ち着いてきて、なんとかそれだけ返した。

 汐那はにこりと笑って、言った。


「私、蜜都汐那。君は?」

「……乙梨涼護」


 波乱の予感がした。

 そして涼護の中には確信があった。

 間違いなくその波乱に巻き込まれるという確信が。


 ――――Boy Meets Girl.

 少年と少女は出会った。



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