待ち合わせ
「あ、乙梨君」
「蜜都」
あれやこれやと勉強会当日。
勉強会の会場は詩歩の住む「ソフィエル鈴白」になっているが、汐那は住所を知らないだろうということで、事前に待ち合わせをして涼護が迎えに行くことになっていた。
「悪い、待たせたか?」
「大丈夫。今来たところ」
そういって汐那は文庫本を閉じ、ショルダーバッグへとしまうと、座っていたベンチから立ち上がる。
立ち上がった汐那の姿を上から下までじっと眺めて、涼護は言った。
「変装かそれ?」
「まあ、軽くね。騒ぎになってもやだし」
その言葉通り、汐那の今の姿は、赤いフレームの伊達眼鏡をかけて、普段はストレートにしている蒼い長髪をうなじ付近でリボンで一つ結びにしている程度のものだ。服を押し上げている形の良い胸と、すらりとした脚。彼女のスタイルの良さは、まったく隠せていない。
「あとお前、なんか荷物多くないか」
「そう? 普通じゃないこのくらい」
「いや、俺が深理の家に泊まり行ったときとか学生鞄で済んだぞ。なに入れてんだよその中」
「女の子は色々必要なの。着替えでしょ、それにスキンケアセットにシャンプーにリンス、トリートメント、ボディソープ。それから……」
「もういいもういい。こだわりがあるのはよくわかった。重いだろ、持つ」
「あ、いいの? ありがと」
預かったショルダーバッグを肩へとかけると、涼護は踵を返して歩き始める。汐那もその後を追うように歩き出した。
隣に並んで歩きつつ、汐那は伊達眼鏡を押し上げながら話し出す。
「それにしても、部屋を勉強会&お泊まりに使わせてほしい、なんてお願いにあっさり許可だしてくれるんだね詩歩さん」
「あの人未央のこと気に入ってるしなァ」
勉強会の提案をした後、未央は図書室を出るやいなや連絡し、提案を聞いた詩歩は二つ返事で了承した。
涼護としては勉強会なんて参加したくもなかったが、師匠である詩歩がOKサインを出している以上弟子の立場ではどうあっても逃げられはしない。
気落ちしそうになる心情を頭を振って追い出し、涼護は目線より少しだけ下にある汐那の瞳を見ながら言った。
「つーか今更だけど、お前外泊とか大丈夫なのかいろいろと」
「大丈夫、だと思う。さすがに高校生にもなったらあれはだめ、これはだめって言われないよ。バレてもそんな注意されないと思う。……たぶん」
「黙って来たのかお前。……まァ、成人済みの保護者もいるし、大丈夫か」
「大丈夫、だと思いたい」
「オイオイ」
曖昧な返答に、眉根をあげて涼護は汐那をじっと見つめる。
見つめられてもまったく視線を合わせようとすらしない汐那の様子に、涼護は舌打ちしそうになる衝動を抑えてながら問いかけた。
「なんか揚げ足とるみたいでこういう言い方はしたくないけどなァ」
「……なーに?」
「さっきさすがに高校生にもなったらって言ってたが、ひょっとしてお前、中学まではあれはだめ、これはだめとか言われてたのか」
「…………」
視線をそらしたまま汐那は何も答えようとしなかったが、何も言わないことが十分すぎるほど答えになってしまっている。
涼護が足を止めると、汐那も同じように足を止めた。
「お前が答えたくないことは無理に答えなくていい。まァ、ただな」
目を伏せてしまっている汐那の髪を、涼護が撫でる。
撫でる手のひらの感触に顔をあげた汐那の蒼い瞳を見据えて、涼護は言った。
「辛くて吐き出したかったらいつでも俺を頼れ。背中くらい貸してやるから」
「……そこは胸じゃないの?」
「お前が、俺に泣きかけの顔見られたいっていうのなら、胸貸してやるぜ?」
「……遠慮しとく」
微笑んだ汐那につられるように涼護も微笑みを浮かべ、二人は並んで歩き始める。
今年最後の投稿です
今年はほんとさぼりっぱなしの一年でした……来年はほんともっと更新頻度あげないと……アバババ
それでは皆さんよいお年を
来年もよろしくお願いします