「えっ?」
別作品書いてたらめっちゃ遅くなりました……!
遅筆なんとかしたい
陽羽学園に限った話ではないが、学校である以上中間テストと期末テストというものがある。
当然、生徒たちはこのテストで及第点をとれなければ後に控えている夏休みなど休日に補習をしなければならなくなる。下手をすれば留年の危機だ。
それ故、テスト期間前になるとほぼすべての学生が試験勉強を始める。嫌々取り組むかはたまた意欲的に取り組むかは生徒の気質によるだろうが。
現在図書室の机のひとつを占領して教科書やノートを広げている、やたらカラフルで目立つ集団も試験勉強をしていた。
「おい涼護、お前の頭の中身は空なのか、なにもはいってないのか。夏木もだが」
「脳みそ入ってるぞ」
「入ってなきゃと生きてねェよ」
「ならなんでこんな問題もわからないんだ授業まともに聞いとけボケ共」
図書室であるためか声は抑えめだったものの、深理の端正な顔つきのこめかみに青筋が浮かぶ。
「お前らの頭の中に入ってる脳みそ、ザルなんじゃないか。するすると知識やらが通りすぎていってしまってるんだろうボケが」
「違うと思いたいけどなァ……」
「涼護、頭の出来自体は悪くないはずなんだけどね。下地はあるはず」
「有効活用できていないけどな。無意味だけどな現時点では」
「うるせェ」
不満げにそう言い捨て、涼護は手元へと視線を戻しシャーペンを走らせる。現在の科目は数学だった。
無言で問題を解いていた涼護の手が途中で止まったのを見た未央が、ノートを覗き見る。
「ああ、ここね。これは、この式を使うの。涼護、この手の問題だとこう考える癖あるよね」
「うるせ-、数学苦手なんだよ。知ってんだろ」
「うん、よく知ってる。この悪癖が中学から直ってない、ってことも」
中学時代から付き合いのある未央には、とこで詰まったのかすぐにわかったようで、涼護の手からシャーペンを奪うと、そのままノートに答えを書き込んだ。
「はい、これで解けた」
「さすがだな、笹月」
「付き合い長いからね」
「あのー、ごめん。笹月ちゃんも深理も涼護に付きっ切りじゃなくてさ、俺のも見てお願い」
同じように手が止まってしまっていた夏木が、話し込む深理と未央にそう助けを求めた。広げられているノートには、まだほとんど何も書き込まれていない状態だ。
「俺とどっこいだろ涼護。苦労大差ないだろ」
「部活馬鹿に教えるよりいくらかましなんだよ。かろうじてだが」
「それはごめんね!? ってか、蜜都ちゃんは?」
「うん? なに?」
自らの名前が話題に昇ったのを聞き、一人黙々と勉強を進めていた汐那は顔をあげた。さらり、と彼女の蒼く綺麗な髪が後ろへと流れていった。
「蜜都さんは頭いいよね」
「その二人は特殊例だと思うの私」
「どういう意味だ蜜都、お前後で泣かす。むしろ啼かす」
「お前は詩歩さんに泣かれる前にテストの点あげろカス」
丸めた教科書で、涼護の後頭部を全力で叩く深理。
「っていうか馬鹿なんだね乙梨君」
「涼護は授業さぼる、夏木は部活バカだからな。たいがいこいつらの頭の中に授業内容は残っていないんだほんとふざけろ」
「まじすんません」
その場で夏木は頭を下げた。座っていた体勢だったせいで、机にごつんと頭をぶつけていた。
そしてふと、未央が腕を組んで思案を始める。
「……時間足りないかなあこれ。涼護、今日は仕事ないよね?」
「テスト前だからってことで詩歩さん気を利かせてくれてるからなァ」
だから今日はない、という涼護の答えを受けて、未央は一つ頷いてから口を開いた。
「なら、また泊まりで勉強会やろう。場所は涼護の部屋ね」
「今日からかァ?」
「うん。ごはんそっちね」
「はいはい。卵残ってたしとりあえず炒飯……あんかけ炒飯にでもするか? カニカマ残ってたし」
「夜食くらいはもってくね」
「いいよ、それも作るし」
「涼護が作ると私には多いんだってば」
「少ないよりはマシだろが小食」
「あんたが大食らいなのよ」
「ちょっと、待って」
テンポのよい会話を続ける二人の間に、汐那が強引に割り込む。
「泊まりがけ? また? どういうこと?」
気づかないのかあえて流しているのか、汐那の据わった目つきと口調には触れず、涼護は答える。
「中学のときはよくやってた」
「涼護馬鹿だから時間足りなくて。わりと楽しいよ、お泊まり」
「スパルタだったけどなァ」
「涼護の頭がもうちょいましだったらねぇ。楽だったんだけど」
「うるせェ」
未央の軽口に、涼護はそういった。さきほど深理に言ったのと同じ台詞であるにも関わらず、その声音はとても親しげなものだった。
「私もいく」
「俺も」
「待て待て待て待てこの阿呆コンビ。この二人は色々おかしいから別にしてもお前ら二人はまずいだろ特に蜜都ちゃん」
真顔でそう言い放った汐那と深理の二人を、血相を変えた様子で夏木が止めていた。その様子を見ていた未央は、さも名案を思い付いたように手を叩いて言う。
「あ、じゃあこの間話してたお泊まりの話、勉強会にしよっか。詩歩さんの家借りて」
「必然的に俺が苦労する件について」
「自業自得」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えッ」
「えっ?」
こうして、泊りがけの勉強会の開催が決定した。