報告会
「んじゃ、とりあえず遥ちゃんの件も莉香の件も解決したのね?」
「ええ」
麻婆豆腐、エビチリ、炒飯、レバニラやその他、様々な中華料理がテーブルの上に並べられている。
繁華街にある中華料理屋の個室にて、何でも屋『Solve』の師弟は料理に舌鼓を打っていた。
「あ、涼護それ寄せて」
「はい」
鳥の唐揚げが乗せられた皿を詩歩のほうへと寄せながら、涼護は一度箸を置いて口を開く。
「遥の件と風間先生の件は同一犯。で、犯人は遥がパシりに使ってた奴でした」
「盗撮写真を買った、って言ってた相手?」
「ええ。まァ結果として嘘っぱちでしたけど」
「買った、イコールつまり盗撮犯じゃない、ってことだもんねェ」
「ですね」
涼護はそう言葉を返し、麻婆豆腐をレンゲで口へと運ぶ。辛味が苦手な詩歩は、旨そうに食べる弟子の姿に少し顔をひきつらせながらも、自らも炒飯を一口食べた。
互いに口の中の食べ物を咀嚼し、飲み込んでから、詩歩が問いかける。
「動機は?」
「遥への恨みですね。まァ、元々あいつ恨み買いやすいですし。つーか日ごろから喧嘩売って歩いてるようなもんですし」
「あー、ねェ。女装姿かわいいもんね」
「否定はしませんが。悪用しすぎでしょうよ」
脳裏に軽薄に笑う遥の姿が浮かんで、それをかき消すように涼護は首を振ってから天津飯を口の中へと掻きこんだ。
一方、涼護とは正反対に詩歩は面白そうににんまりと笑っている。
「たしか昔から女の子に間違われまくっててぶちキレて、ならいっそのこと女装してやるッてなったんだっけ?」
「えェ、そうですよ。まァ、今回の話にはなんの関係もありませんけどね」
それはともかく、と涼護は一気に食いきって空にした天津飯の皿をテーブルへ置き、言葉を続けた。
「奴さん、大方遥の盗撮写真撮って、なんか嫌がらせしようとでも思ったんでしょう。元々常習犯だったみたいですから。女子生徒が結構被害にあってたらしいですよ」
「わー、余罪たくさんねー。女の子盗撮とか死ねばいいのに」
「同感です」
師弟揃ってそう吐き捨てると、お互いお冷を呷って話題を変える。
「で、俺らが捕まえた中年のほうは、もう完全に蜜都狙いでしたね。『Solve』としての仕事に関してはこいつで間違いないでしょう」
「そうね。汐那ちゃんがこっちに引っ越したの知って、わざわざここにきたと」
「どうやって知ったのかとか、その辺りの経緯も調べておきます?」
「人の口に戸は立てられないもの、たぶんその辺りは調べれば調べるだけ怪しいところでまくって切りがないだろうし、今回はいいわ」
「はい」
同意するようにうなずきつつ、涼護は餃子を口へと運んで咀嚼する。詩歩はとりあえず、とエビ天に塩をつけながら結論を出した。
「とりあえず、どっちも捕まえたんしひとまずはひと段落。依頼完了。後は警察に任せましょ。一応、まだ調べたり見回ったりはすべきだけど」
「わかりました」
頷き合い、そのまましばらく師弟は無言でテーブルに並べられている中華料理を食べ進めていく。
そして麻婆豆腐を完食し、なんとはなしにメニュー表を開いて中を見ながら、涼護は言った。
「にしても、蜜都はやっぱ人気なんですね」
「まァ綺麗だからねあの子。気になるの?」
「隠してもしょうがないので言うと、はい。まァ」
「あらあら」
とても楽しそうに詩歩がによによと笑うのを視界の端で捉えつつ、涼護はそれを無視して話を続ける。
「変な奴に好かれるのはなんとかしないと」
「アンタも変な奴だもんね」
「ええ、アンタの弟子ですから」
わざとらしくアンタの、を強調しながら、涼護はメニュー表を閉じると胡乱な眼で詩歩を見つめる。
そんな弟子の反応に、詩歩はあははと表情だけで笑いながら言った。
「ぶつわよバカ弟子」
「やってみろ、麻婆追加して全部食わせんぞ」
「あら、ふーふーして、あーんで食べさせてくれるの? それとも口移しで?」
「口移しで食わせるって結構あれな気しますが。ついさきほど麻婆豆腐を完食しきったこの口でディープキスぶちかましましょうかァ?」
「くっ、迷うわ……! 珍しく積極的な涼護のキスを受け入れてそのままなだれこむか、麻婆の辛さの前に屈するか……!」
「迷うんかいアンタ。……ああ、でももう結構してないですねそういや」
ふと、気付いてそう言った涼護に、意外そうな様子を見せたのは詩歩だ。
「あら、本気で乗り気なの? 珍しいじゃない。この辺り、いいホテルなかったかしら」
「そんな意外そうな反応せんでも。俺だって男ですよ」
「私がこの爆乳押し付けても無反応じゃないの」
「慣れです。あと反応薄くてもクるときはキますよ」
「……ん、おっけー。じゃ、決まりね」
「……はい」
話しながら、二人は個室を出ていく。そして店を出、夕闇に染まっていく繁華街を歩きだし始めた。
涼護の腕を抱きしめ、詩歩は身体を擦り寄せた。腕へと押し付けられているやわらかな爆乳が、淫猥に形を変える。
そのままくらくらするような甘い雰囲気をまとって歩いている中、詩歩があ、と声をあげた。
「ところで涼護。テストまで二週間切ってるけど大丈夫?」
「え」
更新ペースはやめないと(使命感)