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Solve  作者: 黒藤紫音
これも日常
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いってらっしゃい

うおおおう


『んー? どうしたの涼護。授業は?』

「自習だったんでさぼりました」


 涼護は屋上の壁にもたれ、携帯で詩歩に連絡をとっていた。どうやら向こうは運転中らしく、電話越しに車の走行音が聞こえる。

 詩歩の問いかけに涼護が悪びれもせずにそう答えると、あちらからは笑い声が返ってきた。


『また未央ちゃんに怒られるわよー、おばか』

「わかってますよ言わんで下さい」

『はいはい。アンタが捕まえたっていうやつについてのごたごたで、自習になっちゃったのね?』

「ええ」


 言葉を返して頷いてから、涼護は一度佇まいを直していた。一呼吸おいて神妙な顔つきになると、そのまま真剣な声色で話し始める。


「気になってることあるんで、聞いてもらってもいいですか?」

『はいはい?』

「…・…今日、遥と風間先生から依頼が来たんです。どっちも内容は盗撮事件の解決です」

『ふむふむ』

「そんで、さっき話した俺が捕まえた男も、たぶん目的は盗撮です」

『まァ、そうでしょうねェ』


 そこで一度言葉を切ると、涼護は目を閉じ、ゆっくりと自らの考えを言葉にし始めた。


「俺はどうしても、二件の依頼と捕まえた男をイコールで結ぶことができません。たぶん、別に誰かいる」

『それが涼護の結論なのね。でもそれならそれで、ひとまずはいいじゃない。何が気になってるの?』

「そもそも、俺は遥の依頼と風間先生の依頼は同一人物がやってるんだと思ってました。でも、昼間の男がきて、けれどおそらく依頼とは無関係だ。となると遥と風間先生の件、犯人は誰なんだろうと。もしあれ以外にいるなら数多いですし。あと今回のうちの依頼との関係とか」

『……涼護』


 ずっとこちらの話に耳を傾けていてくれた詩歩が、話の途中で短く名前を呼んだ。反射的に、涼護は言葉を止める。


『一言いっていい?』

「……はい」

『難しく考えすぎ。やることは他にあるでしょ?』

「……はい?」


 師匠からの指摘に、涼護は間の抜けた声をあげた。


『ヒントはあげるわ。何事もね、小さなことの積み重ねなの』

「は、はァ……」

『ちゃんと考えなさい。それじゃね』

「あちょっ」


 詩歩の声に、咄嗟に涼護は携帯電話の画面を見るが、すでに通話は切られていた。はあ、と息を吐いてから学生服のポケットへ電話をしまう。

 しまい終えたのと同じタイミングで、チャイムの音が鳴り始めた。


「……あ、授業終わった」



「……何のことだァ?」


 詩歩の言葉に悩みながら、涼護が教室への廊下を歩いていると、正面から汐那が歩いてきていたのが見えた。


「あ、いたいた。授業さぼってなにしてたの?」

「蜜都か。一人か?」

「私はもう帰るから、三人とは方向違うよ」


 そういいつつ、汐那はその場で足を止めた。涼護もその隣に立ち、二人はその場で話し出し始める。


「勇谷君は部活のことで三年の教室行ってて、枝崎君は図書室っていってた。笹月さんと一緒に。そうそう、彼女、君に怒ってたよ」

「……だろうなァ」


 未央の怒り具合を想像し、涼護は顔を青ざめていた。

 それはそうと、と涼護を見上げて汐那は問いかける。

 

「なにかあったの?」

「いや、詩歩さんにちょっとふられてな」

「……なにしたの?」

「なんもしてねェよ。話してたら急に『仕事手伝う前にやることあるでしょ』とか言われて、そのやることがなんなのかわからねェから今悩んでる」

「考えてもむだじゃない? 君バカなんだし」

「……あん?」


 涼護がだした低い声に、汐那は怯えて一歩後ずさっていた。

 汐那と距離をつめ、その顔の横に手をつきながら、涼護はじっと目を見ながら言いつける。


「もっかい言え」

「え、怒って」

「怒ってるわけじゃねーから。リピート」

「えーと……君バカだし?」


 汐那の確かめるような視線と言葉に、涼護は頷きを返してから離れた。


「……あァー、そういうことかァ」

「え、ちょっと、なに?」


 戸惑っている汐那を無視して、涼護は顎に指をやって思案し始める。


「そうだよなァ。散々言われてきたことだよなァ」

「いや、だから」

「ありがとな、蜜都。助かった」

「え? ええと、どういたしまして?」


 理由わけもわからず礼を言われ、混乱している汐那を尻目に涼護はその横を通って歩き始めた。


「あ、ねえ! ちょっと何!?」

「お前のおかげで、詩歩さんに言われたことの意味がわかった」

「……そうなの?」

「あァ。今度教えてやるよ」


 汐那に呼び止められ、足を止めた涼護は心から楽しそうに笑いながら話している。


「んじゃ、行ってくる」

「あ、うん。行ってらっしゃい」


 いまだ首を傾げている汐那に見送られながら、涼護は走りだした。


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