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Solve  作者: 黒藤紫音
これも日常
68/77

自炊

更新ですー

ギャグ回です、はい。

「あ、涼護と蜜都ちゃん」

「悪い」

「ごめん、遅くなっちゃった」


 昼休み。保健室に残っていた涼護と汐那以外の三人は、すでに屋上に着いていた。

 汐那が通ったのを見とめた涼護は、自らも屋上へ入ると後ろ手に取っ手を引いて扉を閉める。


「オイ涼護、お前ドア閉めろよ」

「あ? 閉めてるだろ?」


 深理の言葉にそう言い返しつつ、涼護が後ろを振り返ると、扉が少しだけ開いたままになっていた。

 

「あれ。閉めたつもりだったけど」


 首を傾げながらも、閉め直そうとした涼護が取っ手に触れたタイミングで、向こう側から扉が勢いよく開く。

 反射的に飛び退いた涼護へ追撃するかのように、人間大のそれは飛びついてきた。


「乙梨せんぱーいっ!」

「…………お前なァ」


 突撃してきた遥を難なく受け止めると、涼護はあきれきった声音でそうぼやく。

 そして遥の背後へ移動し、その腰に腕を回して抱えた。


「毎度毎度、抱きつこうとすんのやめろっつってんだろォがァ!」

「うぉっぎゃっぁ!?」


 そのまま涼護はブリッジの要領で大きくのけ反り、容赦なく屋上の床へと遥を叩きつけようとする。

 しかし、寸前で遥は両手を床に着いて受け身をとった。


「おぉっと、涼護得意のジャーマンスープレックスが炸裂ー! しかし遥ちゃん見事な受け身をとっているー!」

「ちなみに、涼護のジャーマンは詩歩さん直伝だそうです」

「実況してんじゃねェそこの馬鹿ども!」


 悪ノリで実況している二人へそう怒鳴ってから、涼護は技を解いて遥を解放する。

 そして腰を屈めて目線を合わせてから、受け身をとった手に息を吹きかけている遥に尋ねた。


「なんでお前いるんだ、遥」

「乙梨先輩の気配を感じて!」

「馬鹿か」

「乙梨先輩馬鹿です! 詩歩さんの同類です本人にも認めてもらいました!」


 堂々と宣言する遥の姿に自らの師匠の姿を重ねてしまい、涼護は心の底から大きな溜息を吐く。


「……仲いいね、本当」

「……ッ、……ッ!」


 一連のやり取りを苦笑いを浮かべながら見届け、未央はそう言ったが、本日二度目の呼吸困難に陥っていた汐那は、その言葉に何も返すことはできなかった。



 汐那の笑いの発作が治まった頃、五人に一人が加わった六人は昼食を食べ始めていた。

 涼護が紙袋からアルミホイルの包みをいくつか取り出すのを汐那が見とめ、声をかける。


「乙梨君のそれなに?」

「ん? あァ、ほれ」


 アルミホイルをはがすと、中から大きなフランスパンを半分に切った塊がでてきた。

 涼護はそれを二つに割ると、断面を汐那へ見せた。パンの切り込みの中には、大きなベーコンと野菜が挟まっている。


「知り合いのパン屋が売れ残りとか廃棄寸前のパンを格安でくれるんでなァ。ちょちょいと手加えただけのお手軽メニュー」

「へぇ……って、手作りなの?」

「あァ」


 汐那の問いに頷きを返して、涼護はパンにかぶりついた。

 余程腹が減っていたのかすぐに食べ切って、次の包みに手をかけた。中からでてきたパンの中にはカツが入っている。


「……乙梨君が料理できるって意外なんだけど」

「だろうなァ。実際、こっち来たばかりのときはレトルトか外食ばっかだったし」

「確か、中学の時に陽羽(こっち)に越してきたんだよな?」


 購買のパンを食べている夏木が話に入ってきた。

 アルミホイルを剥いて中身を取り出しながら涼護は頷きを返す。


「あァ、詩歩さんの下で働くつもりで越してきた」

「それで、涼護と中学で仲良くなった私が、二人の食生活心配になってお節介焼いたの。ごはん作ったり、料理教えたりね」

「本気で感謝してるよ」

「二人とも、すっごい適当だったもんねー」


 懐かしそうにそう言った未央は笑い、それにつられるように涼護もまた微笑を浮かべていた。


「自炊に慣れるまでは本気で未央頼りだったなァ」

「そうなの?」

「意外と自炊するより、外食のほうが安くつくもんなんだよ。楽だしな」

「自炊のほうが安そうな気がするんだけど……」


 汐那が口にした疑問に、涼護は足を組みかえて口を開く。


「カレー作ろうとしたら、玉ねぎ買うだろ? でも、ああいうのってたいがいセットで売ってることのが多いんだ。で、一人分のカレーなんて、玉ねぎ一個で十分だ」

「…………ああ、なるほど。自炊に慣れてなかったら、せっかく買った食材も使いきれないんだね。結局捨てちゃうのか」

「そういうこった。使いきれなくて捨てちまうんなら金の無駄遣いだしなァ。長い目で見りゃ外食のほうが安くつく」

「まあ、それだと栄養偏るからって世話やいたんだけど」

「おかげでメニューに困らない程度には料理できるようになった」


 涼護はそう言って笑うと、改めてパンに齧り付こうとする。そこで、手元をじっと見つめている遥の視線に気づいた。


「……んだよ?」

「乙梨先輩。一口ください。あーん」

「はァ? ……ったく、ほれ」


 餌を待ち望む雛鳥のように口を開いてねだってくる遥に、舌打ちしながら涼護は一口大にパンを千切ってやり、そのまま手ずから食べさせてやる。

 もぐもぐと動かしている口の動きが止まって、遥は破顔した。


「乙梨先輩、めっちゃ旨いっす!」

「そりゃよござんした」

「もう一口ください!」

「却下」

「そこをなんとか!」

「断固拒否」


 背中にくっついて強請ってくる遥を無視し、涼護は自らの昼食を食べ進めていく。

 楽しそうにじゃれつく遥と、鬱陶しそうにしながらも振りほどこうとしない涼護の姿を見た汐那の目つきは鋭くなっていった。 


「…………」

「蜜都、目つき」


 見咎めた深理がそう指摘するが、汐那の目つきは緩まない。

 飽きた遥が涼護の背中から離れて、ようやく汐那の目から、刺すような鋭さはなくなった。


「けちー。あ、笹月先輩のお弁当も相変わらずおいしそうー」

「ありがと、雉乃君」


 未央の弁当を見た遥が、そう感嘆の息をもらす。

 それに気を良くしたらしく、未央は微笑みを浮かべながら言った。


「食べる?」

「ぜひ! あーん」

「はい、どうぞ」


 未央に手ずから食べさせてもらい、遥は満面の笑みを浮かべている。

 それを見ていた深理は、先ほどの汐那と同じように目つきを鋭くし、おもむろに箸を逆手に持ち始めた。


「……」

「枝崎君こそ目つき、というかお箸逆手に握ってどうする気ちょっと男二人止めて」

「「落ち着け」」


 牛乳パックをストローで飲んでいた夏木に羽交い絞めされ、手製のパンを食べ終えた涼護に腕を抑えられる深理。

 しかしそれでも、逆手に持たれた箸はついぞ深理の手から離れることはなかった。



ちなみに自炊と外食に関する考えは自分の経験からです


カレー作るのに買った玉ねぎが冷蔵庫の中で芽だしてました(実話)

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