俺には話せ
年内になんとか更新できたああ
「正座」
「「「はい」」」
盗撮犯が出没したことにより、授業は急遽自習になった。これ幸いと三馬鹿が汐那の様子を見に保健室へ立ち寄ったところ、顔は笑っているが目はまったく笑っていない未央に捕まってしまった。
そして現在、三人は横一列に正座させられていた。仁王立ちしている未央と、その傍で腹を抱えてうずくまっている汐那と絶賛正座中の三馬鹿の五人しか室内にはいない。
「蜜都お前なに腹抱えてうずくまってんだそんなにおかしいかコラァ」
「今話しかけないでおなかいたい呼吸できない苦しい……!」
「呼吸できないんなら人工呼吸してやるぞマウストゥマウスで、ってかパンツ見えてんぞ青色か」
「へ、ぇぇぇぇえええ!?」
「マジ!?」
涼護の言葉を聞いて夏木が下げていた顔をあげる一瞬の間に、汐那は羞恥で頬を染めながらもスカートを押さえつつ立ちあがり後ずさるという行動を完了していた。
「蜜都ちゃんはええ見えなかったクッソ涼護お前場所代われ!」
「死ねバカ」
「血に還れ」
「え、そこまで言われるほどの罪!?」
「三人とも?」
「「「すみませんでした!」」」
普段のノリで騒ぎだしかけていた三馬鹿だったが、未央に睨まれてすぐさま一斉に平身低頭する。
後ろで噴き出した汐那を黙殺しつつ、呆れたように息を吐いてから未央は口を開いた。
「……とりあえず、捕まえたまではいいけど。授業を、さぼるなっ」
「いででででででで」
「ぐっ……!」
「おい待て未央なんで俺だけ踏むいでだだだだだだっ」
夏木の耳を左手、深理の耳を右手で引っ張り上げながら涼護の背中を踏みつけるという三人分の折檻を同時に行いながら、未央は説教を始める。
その様子に、汐那はまだ少し赤い頬のまま、我慢できずに笑い出していた。
*
「で、結局。あの男、雉乃君から聞いた事件と関係あったの?」
「さてなァ」
養護教諭がいないのをいいことに我が物顔で椅子に腰かけ、汐那は折檻が終わった後も正座させられ続けている涼護にそう問いかける。
それに対し、涼護はとぼけたような口調でそう返すと、一拍置いて言葉を続けた。
「身元もわかんねェんだよ。職員室連行する最中に身分証でも見てやろうかと思ったけど持ってやがらねェし。とりあえず今は先公連中が呼んだはずの警察待って、後で話聞こうと思ってる」
「聞けるの?」
「警察に知り合いいるし。それと、詩歩さんにも話聞いておかないとだなァ。変質者がらみの仕事まわってきてるけど、あいつがそうなら仕事終わりだし」
「そういえば来てたね」
遥の事件と依頼の犯人があいつなら話早いんだが、と涼護はひとりごちている。
「あの、ところで笹月ちゃん。もうそろそろ限界なんだけど解いてもいいっすかうぐおおおお……!」
「あー……、そっかもうお昼か」
夏木が呻き声をあげ始めたのを聞いて、壁に時計で時刻を確認すると未央はその場をまとめ始めた。
「とりあえず、もうお昼前だし教室もどろっか。解いていいよ」
「あざっす……ぉぉぉ痺れがが」
「ああ」
立ち上がろうとし、足の痺れで悶絶している夏木を尻目に、深理は平然と立ち上がっている。
「あァ、未央。俺ちょっと蜜都に話あるから先行ってろ」
「え」
「……はいはい」
涼護の言葉に何かを察した未央は、呆れたように頷きながら男二人の背中を押した。
「笹月ちゃん押さないで足がああああ」
「いいから早くしろボケ」
「蹴るな深理ぃぃぃぃあああああああああ?!」
大騒ぎしながら三人がでていき、保健室には涼護と汐那の二人だけになる。
涼護はおもむろに目に付いたベッドのカーテンを閉めて簡易的な密室を作ると、汐那の手をつかみ強引に引き込んだ。
「……うきゃっ、え、なに?」
「蜜都、大丈夫か?」
「え? ……ああ……」
涼護は真剣な眼差しと声音でそう問いかけた。その眼差しと声音の意味を理解した汐那は、目を伏せて口を閉ざす。
「俺には話せ。他の奴には話せないことも、俺には隠すな」
「強引」
「蜜都」
「…………、今は、平気だけど、ちょっと、きつかったかな」
「だろうなァ」
盗撮という行為そのものがトラウマになってしまっている汐那にとって、盗撮犯との遭遇は精神的に酷く堪えたようだった。
涼護が目でベッドに座るように促すと、汐那は素直にベッドに腰掛けて息を吐く。
「……ごめん。弱いね、私」
「謝ることじゃねェ。それに、お前は弱くねェよ」
「……そう?」
汐那の隣に腰掛け、まっすぐに彼女を見つめながら涼護は言った。
「弱音を吐く程度にゃ、俺を信じてくれてんだろ。それは、強さだ」
「……君が言わせたんじゃない」
「確かになァ。でも、本気で言いたくないのなら、お前は絶対言わなかったはずだ」
その言葉を、汐那は否定しなかった。その代わり、涼護を見返して問いかける。
「……でもそれ、強さかな?」
「信じるって結構リスクあることだぜ? もしその信用、信頼が全部自分の勘違いだったら、痛いしっぺ返しくらうしなァ」
「経験あるの?」
「やかましい。ともかく、お前は自分で思ってるよりは強いよ」
言われて、汐那は赤くなった顔を誤魔化すように憎まれ口をたたいた。
「……君って、私をよいしょしすぎじゃない? 私のこと好きなの?」
「お前の場合自己評価が零以下なんだから、多少持ち上げてようやくイーブンだろが」
「うぐっ」
「というかな、好きじゃない奴心配するか阿呆」
「……っ!!?」
しれっと付け足された科白に、汐那の頬の赤みが一気に増していく。
「……何赤くなってんだ?」
「うっさい」
涼護にそう指摘されても、汐那は赤くなった顔を手で覆い隠しながら唇を尖らせるしかできなかった。
ちょっと気が早いですが、来年はもっと短い間隔で投稿していきたいです