お前がいても
更新ですの
「体育、男女共学じゃないのが憎い。蜜都ちゃんの体操着みたい」
「共同な。この学園元々共学だからな?」
「馬鹿だ。馬鹿がいんぞ」
「馬鹿とか涼護に言われたくないわ!」
「あァ?」
「オイやめろ。どっちも馬鹿だろうが」
「「んだとコラァ!」」
深理の言葉はただでさえ険悪な雰囲気だった涼護と夏木に火をつけてしまい、その場で取っ組み合いが始まる。
昼前、雲ひとつない晴天の屋上でも、三馬鹿は相変わらずバカだった。
「……そもそも、さぼっておいて何言ってるんだお前は」
「もし男女共同だったらさぼらなかったわ。つーかお前ら俺なしで喧嘩しない自信あんのか」
「お前がいてもたった今喧嘩したじゃねェか」
屋上で殴りあった挙句、その場に寝転がっている涼護、深理、夏木は現在運動場で行われている体育の授業をさぼっていた。ちなみに男子は運動場だが、女子は体育館で授業が行われている。
「てかさー、遥ちゃんだけじゃなくて風間先生からも依頼が来たのかよ?」
「あァ」
「……妙に情報が増えたし、一度整理しておくべきじゃないか」
ふう、と疲れたような息を吐きつつそう言った深理の言葉に、涼護と夏木は頷いた。
涼護がまず、と前置きしてから口を開く。
「遥が盗撮の被害にあった。そして、まだ一年にしか被害がでてない、らしい。……まァ、そのうち二年三年にも被害広がっていくんだろうが」
「盗撮写真買ったやつを、あいつはぶちのめしてた。買ったってことは売るやつがいるということだ。学内で売買しているのなら、まず犯人は学内の人物だろう。生徒か、教師か」
深理があげていく言葉の一つ一つに、涼護は相槌を返した。
二人の会話を聞きながら、夏木が思いだしたように声をあげる。
「そういやさ、そもそもなんで今? いやまあ、変質者に時期なんて関係ないのかもしれないけど」
「確かに、この手のは春先に一番沸くな」
深理が頷き、起き上がると目線で涼護へと問いかけた。
寝転がったまま涼護は一つ息を吐き、それに答える。
「……風間先生曰く、蜜都がいるから、らしいがなァ」
「え、なんで?」
「……いわゆる”高嶺の花”だからだろう。生で会えるとすら思ってなかったのに、急に会える距離にきたから」
「ああ……」
深理の説明に、夏木が納得したように声を上げたのを聞き、涼護は口を閉じた。
そのまま上体だけを起こし、携帯電話を取り出ながら言う。
「とりあえず、俺ブンヤ先輩に話聞いてみらァ。学内のことならあの人に聞けばだいたいわかんだろ」
「……お前、借りが貯まる一方じゃないのか?」
「……今度なにかで返す、ためすぎると後が怖ェし」
若干顔を青ざめさせつつ、涼護はそう言って携帯電話を操作して電話帳を起動させる。目的のページを呼び出し、画面に文字を打ち込み始めた。
「とりあえず、俺昼休みにブンヤ先輩のとこいくわ。あと詩歩さんに連絡する。変質者でてるらしいし」
「こっちと関係あるかもしれないな」
「だなァ」
頷きあいつつ、三人は立ち上がる。そして涼護が文字を打ち終わり、深理が欠伸を噛み殺したタイミングで、夏木が口を開く。
「なあ、ところでさ」
「どうした?」
「うちにあんなやついたっけ」
「は?」
「……あァ?」
*
「絶対撮ったでしょアンタ!」
「と、撮ってない」
「この……!」
「だめだって」
男に食ってかかる明るい茶髪の少女をオレンジのショートヘアの少女が羽交い締めしているところに、屋上から降りてきた三人が声をかけた。
「……どうした?」
「あ、枝崎くーんっ! あのねー」
「あぁ、乙梨。このおっさんが盗撮してたっぽいんだよ」
深理の姿を認め、駆け出そうとした和泉を制して初見がそう説明する。
それを聞き、涼護は不審者らしき男を睨みつけるように見た。
「ひぃっ、ちが、撮ってない」
「……ずっとこの調子で」
「……だいたいわかった」
自らの顔つきに怯える男の姿を横目で見ながら、涼護ははあと溜息を吐くと周囲を見渡し始める。
「……蜜都と未央はどうしたァ?」
「笹月は蜜都連れて保健室。真っ先に気付いたのあの子なんだけど、ちょっと様子おかしかったから笹月連れ添いで保健室まで。ちなみに先生も一緒だった」
「あァ」
こういう状況ならまず間違いなく誰より怒っているだろうお節介の虫がいない理由に頷きつつ納得し、涼護は男へと向き直った。
「で、おっさん。さっさとカメラ見せてくんねェか?」
「見せなきゃならない、権利とかないだろ……」
女性相手ならともかく、長身で不良面の涼護には強くでられないようで、男はもごもごと言葉にならない抗議を繰り返している。
そんな男の様子を眺めつつ、深理は呆れている様子を隠そうともせず口を開いた。
「どっちにしてもここ学園の敷地内なんだが?」
「う……と、とにかく俺はもう……」
「待てっての」
深理の正論に何の反論もできず、逃げようとした男の肩を涼護が掴む。
「だ、だから……ぼ、暴力を奮う気か?」
「いえいえ、まさか。これは、お願いです。どうか、見せていただけないでしょうか?」
そう丁寧な口調で言いながら、涼護は肩を掴む手に力を込め、深理に目配せをした。
それに頷き、深理もまた全力で肩をつかむ。みしみしと、男の肩から骨の軋む音がし始める。
「い、いぎ……!」
「暴力ではありません。どうか、お願いします」
「ええ、どうかなにとぞ」
笑顔のまま、二人は力をさらに込める。みしみしという骨が軋む音から、めきめきという骨が罅割れていく音に変わった。
「……肩砕かれたる前に素直に見せたほうがいいぜ、おっさん」
「オイオイやめろよ夏木。脅してるみてェじゃねェか」
「ああ、その通り。心外だ。俺たちはお願いしているだけだ。なあ?」
「ぴぃぃぃぃ……」