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Solve  作者: 黒藤紫音
これも日常
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自作の義務感

定期的に更新したい

 チャイムが鳴りひびく中、陽羽学園2年2組の教室では授業が始まっていた。

 涼護は自分の机に頬杖をついたまま黒板を見ており、汐那はそれを横目で眺めている。

 

「乙梨君、耳真っ赤」

「うっせェ、未央にやられたんだよ。つーかお前らさっさと逃走しやがって」


 深理、夏木、汐那、遥に見捨てられた涼護は、音楽室から教室に戻る道中未央に延々と注意されながら耳を掴まれ引きずられていた。

 そのせいで涼護の片耳は真っ赤になっており、まだ痛む。


「なんで俺にだけ異様に厳しいんだあいつ。お前らも注意されてたけど無傷だったろ」

「日頃の行いじゃない? 顔怖いし」

「それは生まれつきだボケ」


 ぶっ、と誰かが噴き出す音が教室に響いた。

 涼護はその方向に視線を飛ばし、地を這うような低い声で呟く。


「……後でぜってェ夏木だけは沈める」

「また笹月さんに怒られるよ?」

「へいへい、わかってるっての」


 無愛想にそう返答し顔をしかめた涼護の様子に、汐那は表情を陰らせた。


「……えっと、怒ってる?」

「あん? ……いや、別にお前に怒ってるわけじゃねェ」

「顔しかめてるけど」

「そりゃ遥からの依頼のこと考えてたからだ」

「……ああ……」


 汐那は言われて遥のことを思い出したようで、苦笑いを浮かべる。

 その苦笑の意味を正確に察した涼護も、つられるように苦笑した。


「……キャラ濃かったねあの子。面白いけど」

「くどいの間違いだろ」

「まあ、うん。ねぇ、どういう経緯で知り合ったか聞いていい?」

「仕事。まァその辺り話し始めたら長くなるから今度な」


 そう言って多少強引に話を切った涼護は、一拍間をおいてから汐那に向き直る。


「てか蜜都、お前この依頼本当に手伝うのか?」

「え、だめ?」

「そうじゃなくて、盗撮とかストーカーの件で過敏になってんだろお前」

「……、あ、ん……」


 二人の脳裏に、瞳を濁らせた男の姿が浮かぶ。

 頭を振ってその姿をかき消してから、涼護は言葉を続けた。


「俺は、お前を手伝うって言った。味方になるって。けどな、だからって無理にお前が俺を手伝うことも俺の味方になることもねェんだ」

「……でも」

「でもじゃねェ。ありもしない義務を勝手に作って自分を追い込むな」


 言われ、悲痛な様子で目を伏せた汐那は、震える声で言う。


「……迷惑?」

「違う。手伝ってくれるのはありがたい。でもそれが自作の義務感からくるものならやめとけ。すぐに折れんぞ」


 それを聞き、汐那は少し息を吸って、それから吐いた。

 涼護はただ自然体のままで、次の言葉を待つ。


「……私も、無償で手伝うわけじゃないよ」

「…………」


 ぽつりとつぶやれた汐那の言葉に、涼護は無言で続きを促した。


「手伝ったお礼が欲しい。欲しいから手伝う。自作の義務感なんかじゃない」

「……礼、なァ」

「たぶん私はさ、君と違って、メリットがないと動かないタイプ。だから、明確なメリットがあれば動くよ」

「礼がメリットか」

「君なら不義理なことはしないでしょ? モールの後、枝崎君と勇谷君にラーメンおごってたの知ってるよ」

「……あァ」


 大勢を相手に乱闘をした時のことを思いだし、ついでに二人に財布を空にされたことを思い出して舌打ちした涼護は一度頭をかくと、改めて汐那を見つめる。


「わかった。じゃ、改めて手伝ってくれ蜜都」

「うん」

「ありがとな」

「え、あ……う、うん」


 涼護が少し微笑みをこぼしながらそうストレートに礼を言うと、汐那は面白いほど顔を真っ赤にしてあわて始めた。


「お、お礼は、そうだな……デ、デートとか」

「ん、ならまた澪都いくか? 二人っきりで」

「へ!? え、あ……そ、そうだね!」


 熟したリンゴのように顔を真っ赤にする汐那に、思わず涼護は噴き出してしまう。


「あっははは、無理すんなって。ゆっくり考えろ。マジでデートしたいならするけどなァ」

「う、うぐう……」

「男に耐性ないのに見栄はんな。そういうの好きだけど」

「す、好き!?」

「いじり甲斐あるから」

「なにそのドS発言!」

「よく言われる」


 そう言って涼護はからからと楽しげに笑い、汐那は呻きながら真っ赤になった顔を冷ますかのように机に突っ伏していた。


「こらそこ。いちゃつくならよそでやりなさい」


 そんな二人の間に声が割って入ってくる。そのまま声の主は豊満な胸とウェーブのかかった綺麗な金髪をわずかに揺らしながら歩を進めている。

 風間かざま莉香りか。2年の数学担当であると同時に生活指導担当の教師だ。


「あ、ごめんなさい」

「ドウモスミマセンデシタ」

「蜜都はともかく、乙梨は反省の色がないな。後で生徒指導室わたしのへやに来なさい」

「アンタ生徒指導室を私物化してんのか。つか何の用ですか、説教か」

「内緒だ」


 言葉と同時に、に教科書で涼護はすこんと頭を軽く叩かれる。

 叩いた張本人である風間は踵を返して教卓へと戻るその途中で口を開いてこう言った。


「あぁ、蜜都連れでも私は一向に構わないぞ」


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