陽羽学園名物
久々すぎる更新
「そういえば涼護、仕事の内容って何か聞いているのか?」
「さァ? 聞いてないから知らねェ。なんだろうな」
「オイ。大丈夫なのかそれ」
「大丈夫だろ、それなりにあることだし。予想もついてる」
教室棟の階段を駆け下りた涼護たちは、今は反対に実習棟の階段を駆け上がっていた。
先頭を深理と夏木が走っていき、その後ろを涼護と汐那が走っている。
「蜜都、お前先頭行けって。お前もそれなりに脚速いし、前走ってくれてる方がいちいち着いて来れてるかとか気にしなくて済む」
涼護の言葉通り、単純な足の速さなら汐那は女子の中ではという言葉が付くが速い。そして、その汐那より陽羽学園名物三バカは速い。
それ故皆彼女に合わせて走っているのだが、それを面倒がったであろう涼護がそう言い放つ。
それに対し、汐那は半目になって涼護を睨んだ。
「……スカート、覗く気?」
「……ああ、そういう」
納得したように涼護が頷く。
汐那のスカートはある意味女子高生らしく短めに改造されている。校則違反になるほどではないが、階段という高低差のある場所で先頭を走れば、間違いなく後ろの男どもにスカートの中が見えてしまうだろう。
「まぁ、乙梨君限定でならいいけどねー」
「理性飛んで襲っちまうかもしれねェが、いいのか?」
「え、ちょ、お、襲う!?」
涼護の爆弾発言に瞬間湯沸かし器の如き速さで汐那は顔を赤く染める。動揺し、脚がもつれた。
倒れそうになる汐那を、まるであらかじめそうなることがわかっていたかのような手際の良さで涼護が支えた。
「気をつけろよ」
「お、乙梨君が爆弾発言するからでしょ!?」
「先に吹っ掛けてきたのはそっちだろうが」
「う……!」
涼護の呆れ混じりでもっともな指摘に、汐那が口を噤む。
「うー……」
「はいはい、拗ねるな行くぞ」
拗ねた様子で踊り場で脚を止める汐那を、これまた慣れた様子で涼護はなだめていた。
「今度飯作ってきてやるから。なにがいい?」
「……乙梨君の好きな食べ物でいいよ」
「となると麻婆とかの中華系になるな。辛いけどいいか?」
「フォローの準備していてくれると助かるかな」
「はいはい、わかったよ」
仕方なさそうに涼護が頷くと、汐那は嬉しそうに笑った。
一連のやり取りを見ていた夏木が、血涙を流しかねない勢いで叫ぶ。
「涼護爆発しろォォォ!」
「……さっさと行くぞバカップル」
深理が呆れ切ったように階段を駆け上がっていく。その後を夏木が歯をギリギリと食いしばりながら追いかけて行った。
涼護はくしゃりと自らの赤髪を掻き、走りながら反論する。
「待てって。つかバカップル言うな」
「まだカップルじゃないもんねー」
「いちいち反応してやんねェからな」
汐那の茶々入れにそう返し、涼護は今度こそ脇目も振らず走っていく。
その返事に不服そうにぷくりと頬を膨らませた汐那がその後を追いかけていく。
「扱いが雑!」
「いちいち取り合ってたら切りないだろうが、お前は」
「それでも!」
場所を階段から廊下に移しつつ、赤と蒼は口喧嘩を始める。
その光景は、もはや陽羽学園の数ある名物の一つとなっていた。