四人
久しぶりの! 本編更新!
遅れてすみませんでしたああああああああああああああ!!!!
五月も終盤に差し掛かろうとしている時期のとある朝。
陽羽学園二年二組の教室では、この一カ月足らずでもはや定番となってしまった光景が繰り広げられていた。
「乙梨君、おはよー」
「おはよう蜜都。あとくっつくな」
「えー」
赤髪と赤い瞳をした悪人面の少年の背に、蒼い髪の長身の美少女が抱きついていた。
赤い少年のほうは人呼んで“陽羽のトラブルバスター”乙梨涼護。蒼い少女は現役モデルを務めている蜜都汐那。
「今日も仲いいなあ涼護と蜜都ちゃん」
「GW以来ずっとこの調子だな。喜ばしいことなんだろうが」
一見軽薄そうな印象を受ける茶髪の少年は勇谷夏木。冷静そうな印象の黒髪眼鏡の少年は枝崎深理。二人とも涼護の悪友だ。
二人の視線は立ったまま携帯電話を操作している赤髪の少年と、彼に更に強く抱きついている蒼色の美少女に向いていた。
「だめ?」
「だめとは言わんが、暑苦しいし動きづらいから離れろ」
「じゃあ動く必要がなくて、暑くない場所ならいいの?」
「邪魔にならねェんなら好きにすりゃいい」
「わかった」
まるでマーキングでもしているかのように、汐那は全身を涼護に擦り寄せていた。
しかし当の涼護はそれを気に留めることもなく、携帯電話でメールを打つ作業に集中していた。
「詩歩さん?」
「あァ。仕事のことでな」
「何か手伝おうか?」
「その時は俺から頼むから、お前はあんま気にしなくていい」
そう言いつつ、いい加減離れろと涼護は自分の胸辺りに回されている汐那の腕を軽く叩いた。
叩かれた汐那は、むしろ更に強く抱きついた。
「オイ」
「やー、もう少し」
「お前なァ……」
呆れた様子でため息をついた後、涼護は好きにしろと言わんばかりに肩をすくめた。
その了承の仕草に、汐那は嬉しそうに笑って頬ずりした。
「あ、そういや仕事ってどんなの?」
「ん? この辺りに変質者でるからその対策」
「…………ん、そっか」
聞いてしまった単語に、汐那が不安げに身体を震わせた。
涼護が安心させるように、腕を後ろに回して汐那の頭を撫でる。
「大丈夫だ。まだ陽羽学園には被害出てないし、何かあったとしても護る」
「……うん」
汐那は撫でられながら、その背中に顔を埋める。涼護の目が優しく細められた。
どことなく醸し出されそうになった甘い雰囲気を、夏木の悲痛な声が壊した。
「お前らいい加減いちゃつくのやめろよ泣くぞちくしょう涼護末永く爆発しちまえ」
「やかましいわ、なんの話だ」
「蜜都を背中に侍らせておいて何をぬかすか」
涼護は気付いていなかったようだが、二人を見る一部の男子生徒の視線に殺気が含まれていた。
なぜ一部の男子生徒だけなのかというと、”まあ乙梨だし”という共通認識の下、大多数の生徒はこの光景に慣れてしまったからだ。
「ところで、笹月ちゃんどうした?」
「先生の手伝いだろ。あと部活の助っ人と委員会の手伝いと」
「……倒れないだろうな、笹月」
「そうなったら介抱する」
涼護がそう深理に言い切った時、二年二組の教室の扉が勢いよく開かれた。
男子生徒が、転がり込みように教室に入ってくる。
「乙梨ー!」
「あん?」
「仕事の依頼! ちょっと来てくれ!」
「はいよ」
「頼んだぞ! 俺先行くから」
依頼と聞き、涼護の足が自然と慌ただしく出て行った依頼者を追って教室の外へと向かう。
その後ろを汐那と深理、夏木が至極自然な様子で着いてきていた。
「……オイ?」
「私も行くー!」
「一時間目はババアの授業だったな。ちょうどいいから俺もさぼりついでに手伝うか」
「この流れ、俺も行かなきゃじゃね?」
しれっととんでもないことを言っている友人たちに、涼護は一瞬だけ苦笑を浮かべる。
バカばっかりだなと内心で呟きながら笑うと、そのまま歩きだし教室を出た。
「みんなで笹月さんに怒られよっか」
「あァ」
「そうだな」
「ってか、まだ笹月さん呼びなんだ」
「ファーストネームの呼び捨てはまだ慣れてないの」
そんな軽口をたたき合いながら、四人は駆け出した。
「おい、お前らホームルームは!」
走っている涼護たち四人の背中に、教室の扉に手をかけていた斑目が大声で呼びかけた。
それに涼護たちもまた大声で答えた。
「仕事です!」
「その手伝い!」
「同じく」
「右に同じく!」
「……そうか、行って来い。頑張れよー」
はいと声を揃え、涼護と汐那、深理と夏木たちは階段を駆け下りていった。
新章開始。これから学園物ならではのイベントをこなせていけたらと思います。