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Solve  作者: 黒藤紫音
Boy Meets Girl
6/77

朝の光景

「あ、涼護。おはよう」

「おはよ」


 陽羽学園2年2組。

 教室に涼護が入ると、気付いた未央が挨拶をしてきた。


「おはよう、笹月」

「あ、枝崎君。おはよう」


 深理と未央の二人は涼護を通じて知り合った。

 共通の友人を持つ者同士、それなりに仲が良い。


「ああ、そうだ。涼護、宿題、今写すか?」

「ん、ああ」

 

 教室の窓際の一番後ろ。そこが涼護の席だ。

 涼護は鞄を机にかけた後、机に突っ伏した。


「どうせ今日中だろ? 昼休みにでも写すわ。今は寝る」

「お前、昼休みは昼飯食べたら寝てるだろ……」

「というか、写さないで自分でやりなさい」


 深理ははぁと息を吐き、未央は腰に手を当てて、呆れた目で寝る体勢に入っている涼護を見た。

 当の涼護はそんな二人の視線もどこ吹く風で瞼を閉じようとしていた。

 そうしていると、唐突にドタドタと廊下を走るような音が聞こえた。

 近づいてくるその音を聞いて、涼護は身体を起こして教室の扉を見た。

 深理と未央もそちらに目をやる。

 教室の扉がバン、と壊れそうほどの勢いで開いた。


「っしゃあ! セーフ!」


 そう叫んで教室に入ってきたのは短い茶髪の男子生徒だった。

 肩で息をしている。


「夏木、うるせえよ」

「お、涼護。おはようさん」

「あァ、おはよう」


 勇谷夏木(ゆうや なつき)

 サッカー部に所属しているこの2年2組の生徒だ。

 涼護の友人である。


「おはよう夏木」

「勇谷君おはよう。今日も朝練?」

「おはよう、深理に笹月ちゃん。そ、朝練。疲れたわー」


 そう言った夏木が深呼吸で息を整え終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴った。


「うおお、マジでギリギリ……危ねぇ」

「そうだな。いいから早く教室入れ」


 そう夏木に声をかけたのは、この2組の担任である斑目斎(まだらめ いつき)教諭だ。

 斑目は夏木を教室に押し込むと、自分も教室に入り教卓に立つ。

 夏木や他の生徒たちも皆、自分の席に戻っていく。


「さて、おはようお前ら。乙梨は……ちゃんと来てるな」

「なんで俺だけ名指しなんすか」

「遅刻、さぼりの常習犯が何を言う」

「……ういーっす」


 実際その通り過ぎて何も言い返せないので、涼護は目を逸らしつつそう言った。

 斑目はそんな涼護の反応を気にもせず、教室の生徒全員に呼びかけた。


「じゃ、ホームルームを始める。号令」

「はい」


 そう言って、未央が立ち上がった。

 委員長を決める会議の時、2組の全員一致で未央は委員長に抜擢されたのだ。


「起立、礼。――着席」

「ご苦労さん。……さて、と。別段、長々と話すようなこともないし、さっさとホームルーム終わらせるぞー。出欠ー」


 適当である。

 とはいえ生徒たちはそんな斑目の性格に慣れているので文句が出ることもなく、順調に出欠の確認が進んでいく。


「枝崎深理」

「はい」

「乙梨涼護」

「……いまふ」

「寝かけだな。まあいい、次」


 自分の出欠確認が済むと、涼護は寝る体勢に入った。

 瞼を閉じる。


「はい、終わり。あ、言い忘れてたけど、金曜に体力測定と身体測定やるからな。体操着忘れんなー」

「先生、そういうのは出席取る前に言ってください」

「悪い悪い。じゃあ、次の授業頑張れよー」


 そう言って、手を振りつつ教室を出ていく斑目。

 案外、こういう適当さが生徒たちに受けているのかもしれない。

 そして斑目が教室を出ると、途端に教室がざわめき始めた。


「……涼護、起きる」

「無理。眠い」


 涼護のところにまでわざわざ来てそう言う未央。

 そんな未央の言葉に涼護はくぁ、と欠伸をしながらそう答えた。


「あのねぇ、涼護……」

「まあ、いいんじゃないか。寝かせても」

「枝崎君?」


 比較的涼護の席に近い深理は、椅子に座ったままそう言った。

 未央は咎めるような視線を深理に送る。


「どうせ寝てて後で苦労するのは涼護だろう?」

「苦労するのがわかってるから、起こしてるんだけどね」

「ホント世話好きだな、笹月は」


 そう言って深理はくすくすと微笑を浮かべた。

 そんな深理の仕草に、教室の数人の女生徒が見惚れていた。

 美形は罪である。


「でも結局、勉強見るのは私や枝崎君よ?」

「その辺りはフォローすればいいさ。どうせ普段の態度の問題で休み中に補習受けるんだし。罰としては充分だ」

「……でも、ね……」

「そうだぜー、未央。今はほっとけ」


 夢の世界から一時帰還した涼護は、未央にそう言った。

 未央は眉を寄せて涼護を睨んだ。


「涼護ー……」

「いいだろー、別に。というわけでおやすみ……」


 なんて話している間に、チャイムが鳴った。

 未央ははぁ、と溜息を吐いて自分の席に戻った。

 一時間目の授業担当の教諭が教室に入ってきたのを確認して、涼護は腕を枕にして、夢の世界に再び旅立った。




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