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Solve  作者: 黒藤紫音
バカ
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難しいことを考えるな

更新。新章です。実は一番書きたい章だったり

 涼護はバカだ。彼に難しいことを考えられる頭はない。汐那が医務室を飛び出して行ったその理由に気づくこともなければ、何故と考える選択肢も思い浮かびはしなかった。

 けれど、汐那が言い残したあの悲痛な声を聞いてしまっては、涼護の中に彼女を放っておくという選択肢など存在しなかった。後を追いかけようと、脱いでいた上着を手に取って医務室から出ようとする。


「ちょ、ちょっと!?」


 涼護が医務室のドアを蹴り開けようとしたところで、向こうから扉が突然開いた。

 向こう側から現れたのは、涼護の手当てをしたこの医務室の女医だ。

 涼護がベッドから起き上がり、あまつさえ上着を手にして外に出ようとしている姿を見て狼狽している。それでも職務を全うしようと口を開く。


「何してるの、休んでなさい!」

「だが断る。そこどいてください」

「何言ってるの、貴方怪我人!」

「治ったんで」


 涼護をベッドに戻そうとする女医を押しのけ、医務室から出ようとするが、無理やり止められる。

 チッと隠すこともなく涼護は舌打ちをすると、女医を睨みつけた。


「舌打ち!?」

「いいから離せ。蹴り飛ばすぞコラ」


 威嚇するように睨みつけながら、低い声でそう言い放つ。

 涼護の声色と表情に、びくりと面白いほど女医が怯えているのがわかった。


「こーらこら、何怯えさせてんの?」

「詩歩さん」


 押し問答、というより捕食者と被捕食者の構図になっていた涼護と女医の間に、詩歩が割り込む。

 涼護の視線がそれたことで、女医があからさまにほっとしていた。


「あ、ところで涼護。蜜都ちゃんが走り去って行ってたわよ。アンタ何した?」

「さァ? それがわかんねェんで、追いかけようと思いまして」

「あっそォ。んじゃ、さっさと行ってこい!」


 そう言って涼護を医務室の外に押し出すと、詩歩はその背中を蹴り飛ばした。

 蹴りの威力に思わずつんのめり転びそうになりながらも、そのまま涼護は廊下を走りだした。



「涼護?」

「未央か。って、あん?」

「……あ」


 廊下を抜けると、休憩所で未央と赤に近い髪色をした少女がベンチに座って話をしていた。

 見覚えのあるその少女は、涼護の姿を見ると怯えたように未央にしがみついていた。


「未央、こいつは?」

「満ちゃん。迎えに来るまで、話し相手になってるの」

「あっそォ」


 未央はぎゅっと自分にしがみついている満を撫でている。

 怯えている様子から、よほど誘拐されかけたのが怖かったんだろう、と涼護は満の様子から当たりをつける。自分の容姿が怖がられやすいのは自覚しているが。


「あ、未央。蜜都見なかったか?」

「何したの?」

「知らねェ。だからフォローしにいくんだ」

「……あっち」


 未央が指差したほうを見る。いまだにさっきの事件のごたごたのせいか、人ごみだらけだ。

 姿は見えないが、とにかく脚で見つけようと涼護は走り出した。


「サンキュな、未央」

「うん。涼護、後で事情聞かせてね」

「へいへい」



「涼護」

「どうした?」

「蜜都探し」


 人ごみを抜けた涼護は、今度は深理と夏木の二人と出会った。

 涼護より先に手当を終えたこの二人は、自販機で飲み物を買ってくつろいでいた。


「何したんだ、お前」

「……お前らさァ、俺が何かしたこと前提かコラ」

「正確には前提ではなく与件だがな」

「議論の余地もないってか」


 夏木の決めつけに涼護が食ってかかると、深理が余計な補足をしてくる。

 口の端がひきつり、思わず叫びそうになるのをなんとか抑えて尋ねる。


「……で、どこだ?」

「向こうじゃないか」

「天気悪そうだったべ?」

「……急ぐ」


 出口を指差した夏木の言葉に、涼護は先ほどよりも速く走りだした。

 そんな涼護の背中に、深理が呼びかける。


「涼護、無駄に頭使うなよ。どうせお前には難しいこと考える頭はない。そんなことを考えても失敗するだけだ」

「わかってる」


 そんなことは誰に言われるまでもなく、涼護本人が一番わかっていることだった。


ファイトー

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