いいよね
この章はこれで終わります。
涼護たちが大男や黒服たちを倒してからしばらくすると、通報された警察が店内に突入してきた。
とはいえもう事件は解決してしまっていて、彼らの仕事は事件解決から事情聴取になっていた。
詩歩が警察の相手をしている間に、汐那や涼護たちは医務室へと向かわされた。
手当てを終えた医師が席を外したのを見計らい、医務室のベッドに寝かされている涼護を見ながら汐那は口を開く。
「わかってはいたけどさ、君ってバカだよね」
「これは名誉の負傷だってェの」
ベッドに寝転がっている涼護が、唇を尖らせてそう言い返してくる。
その言葉に汐那はくすくすと笑う。
「まあ、護ってもらった立場の人間がいうことじゃないけどね」
「“護ってやった”つもりはねェぞ。俺が勝手に護りたいと思ったから護っただけで」
「あ…………、……うん」
言葉の微妙なニュアンスの違いを察し、汐那は俯く。
“もらった”“やった”だと、まるで「仕方がない」から護ったように聞こえてしまう。涼護は「仕方がない」から護ったのではなくて、「そうしたい」と思ったから護った。それだけなのだろう。
あの巨漢に見栄を切った時のように、ただそうしたいと思ったから。
「…………やっぱり、違うなぁ」
「あん?」
誰に聞かせるつもりでもなく呟いた汐那の独り言は、涼護の耳に届いていたらしい。
寝転がったまま、顔だけが汐那のほうを向く。
「何がだ?」
「あ、聞こえてたの?」
「この距離で、二人きりなのに聞こえないわけないだろが」
「……ああ、たしかに」
その通りだった。自身の不手際に、知らず汐那の内心に苛立ちが募っていく。
涼護のほうは、続きを話せと言わんばかりに汐那をまっすぐに見つめている。
「……で、なにがだ?」
「あはは、大したことないよー。それに乙女の秘密は聞いちゃだめだよ?」
「茶化しても引いてやらねェぞ」
「…………」
涼護の目は真剣だった。そんな目に射抜かれ、汐那は竦んでしまう。
それを敏感に感じ取ったのか、涼護は身体を起き上がらせると、汐那の頭に手を置いた。
「…………ふぇ?」
「怯えんな。落ち着いて話せ」
ゆっくりと涼護の手が汐那を撫で始める。
撫でられる心地よさからか竦みが解け、汐那は口を開いた。
「……君と、私が違うなって」
「なんだそりゃ。当たり前だろ」
「……うん」
「男と女だし、違ってるだろうよそりゃ。けど、それが何か悪いってことじゃない」
「……そう、いうことじゃ、ないよ」
言葉の意図がわからないようで、涼護は片眉を釣り上げた。
汐那は撫でられながらも、涼護のその仕草に失望を感じた。
「私は、君みたいに、“そうしたいから”なんて理由で、動けないから」
「……はァ?」
そんな声をあげ、涼護は撫でるのをやめて怪訝そうな顔をした。
その表情が、仕草が、声が、汐那の琴線に触れた。
「……君はいいよね」
「あ?」
「…………支えてくれる友達がいるのが。したいことができるのが。したいと思えることがあるのが!」
悲痛な声でそう叫び、汐那は荒っぽく立ち上がるとそのまま医務室から飛び出ていく。
無理やりだったかな、展開……