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Solve  作者: 黒藤紫音
自分勝手なお人好し
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わかりやすい決着

*グロいほどではないですが、流血表現ありますのでご注意を。

「チィッ!」

「ふんっ!」


 大振りの巨漢の拳を、涼護がぎりぎりのところでかわした。

 女性一人を抱えたままの状態のためか、かなり動きが制限されてしまっているのが素人の汐那にもわかってしまう。


「乙梨君、離し……!」

「そんな余裕、あったらいいなァ!」


 まるで大木を振り回しているかのような巨漢の回し蹴りを、涼護が腕を盾にして受け止める。

 その威力に涼護が歯を食いしばって耐えているのが、抱き寄せられたままの汐那にはわかってしまう。

 受け止めている今のうちに汐那を離せばいいのに、背中に回っている涼護の片腕は離す様子もなく、いまだにしっかりと抱き寄せている。


「なんで……」


 と、言いかけて汐那は気づく。

 もし今逃がされたとしても、黒服たちやリーダーの男は汐那を放っておくということはまずしないだろう。弱点をつくのは兵法の常識であり、この場合弱点になるのが誰かは明確だ。

 仮に放っておかれたとしても、汐那を逃がしたその瞬間は涼護にとっても隙になってしまう。


「乙梨君……」

「護るって言ったろ。離さねェよ。少なくとも、安全地帯に着くまではなァ」


 その安全地帯とは、今闘っている涼護以外のメンバーのことだろう。

 汐那が横目を向けると、深理と夏木は未央を護りつつ沸いてくる黒服たちを相手にしている。

 詩歩のほうはいまだに笑っていながら闘っていた。

 

「一度、動き止めねェと……、……まァ、しゃーねェか。やりやすいし、わかりやすいしなァ」

「え? ……って、きゃあっ!?」


 その言葉の意味を問おうとした汐那を突然肩に担ぎ上げ、涼護は走り出した。巨漢も一拍遅れて後を追うように動き出す。

 涼護が向かう先にいるのは詩歩と、担がれている満だ。


「詩歩さん!」


 大声で涼護が名前を呼ぶ。詩歩がこちらを見たのが汐那からもわかる。

 詩歩がこちらに駆け寄ってくるのを視認した涼護は急ブレーキをかけると、その場に乱暴に汐那を降ろした。

 降ろされた意図がわからずに目を白黒させる汐那を置いて、涼護は追ってきている巨漢のほうへ向き直るとそのまま一直線に突っ込んでいく。

 巨漢は走りながら拳を弓のように引き絞り、涼護に向けて放つ。

 汐那が息を呑むより先に、ゴッという鈍い暴力的な音がした。


「……かっ」

「……何?」


 放たれた巨漢の拳に、涼護は頭突きをかましていた。拳の威力で額が割れ、血が流れている。

 男にとってもこんな受け止められ方は予想外だったらしく、完全に動きが止まっていた。

 その腕を、涼護が掴む。ぎしり、と骨が軋む音が聞こえてきそうだった。


「さァて、決着付けっか中ボス。腹減ってるっつったろが」

「……こちらとしても、早く終わらせたいのは事実だ」

「ならいいじゃねェか。わかりやすい決着の付け方だろ?」


 額から血をだらだらと流しながらも、涼護が不敵に笑っているのが汐那には見えた。その腰を、いつの間にか近づいてきていた詩歩が担ぎあげる。同じように担がれている満はすでに目を回していた。


「うきゃっ!?」

「ちょっと我慢してねェ。あと涼護、さっさと片付けること」

「言われなくても……そうします!」


 その言葉が引き金となって、涼護の拳と巨漢の拳がお互いの頬を捉えた。

 殴られた勢いで涼護は掴んでいた腕を手放してしまうが、たたらを踏みそうになる後ろ足をなんとかこらえ、男の鳩尾を狙った左拳を放った。

 鳩尾に拳が突き刺さり、下がった巨漢の顎を振り上げた涼護の右拳が射抜いた。

 顎を打ち上げられながらも、男はぎょろりとサングラス越しから涼護を見下ろし、拳を横殴りにこめかみへと振り降ろした。

 

「ぐ……!」


 体勢が大きく崩れそうになる涼護だが、だんっと床を踏みしめて耐え切った。

 そして振り上げた涼護の拳が、男の鼻っ面に突き刺さる。

 鼻血を噴きながらも、放たれた巨漢のフックが脇腹に突き刺さり、涼護が苦悶の表情を浮かべるのが汐那から見えた。

 それでも涼護は倒れず、男の顎をさらに横から殴りつける。

 ぐらり、と巨漢の身体が揺れた。


「オッラァッ!」


 それを見逃さなかった涼護の右肘が鳩尾に突き刺さり、巨漢はその場でたたらを踏んでいた。

 右肘を引き戻す勢いのまま、振り上げた涼護の左踵が男の横っ面に突き刺さる。


「ごがっ……!」

「ぶっ飛んどけ!」


 その場から蹴り飛ばされながらも、倒れずにいた巨漢が拳を構えると、涼護もそれに応えるように拳を引き絞っていた。

 ごぎんっと鈍い音を立てて、お互いの拳が頬に突き刺さっていた。


「……名前を、聞いていなかったな」

「……乙梨涼護」

「……覚えておこう」


 そう言い残すと、リーダーの男はどさりと床に倒れ込んだ。肩で息をしながらも、涼護はそれを見下ろしている。

 詩歩に担ぎあげられたままの汐那がそれを見届けた後、周囲を見渡すと黒服の男が十数人床に転がっていた。もう動けない者がほとんどのようだ。

 深理や夏木たちは息を乱しながらも立っている。


「終わったわねェ、ようやく」

「……そうですね」


 詩歩の能天気な声に、汐那はそう返すのが精いっぱいだった。



流血表現あるんですが、これってR-15入れるべきですかね。

あと一話かな?

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