そんな理由
一カ月ぶりですー。
そして新年初更新です。
「もういやだあああ! 涼護と出かけるとだいたいいつもこんな目に遭う!」
「ならつるむのをやめたらどうだ?」
「うるせえこのコミュ障コンビ! 俺がいなくなったら周囲とのコミュニケーションどうするつもりだ!」
男の一人を蹴り飛ばしながら、夏木は深理に向かって指を突きつけた。
その言葉に肩をすくめた深理に向かってスキンヘッドの男が機械的な形状の棒を突き出す。
身体を逸らして避けたその腕の手首に自身の肘と膝を挟み込むように叩きつけた深理は、スキンヘッドが呻き声をあげ武器をとりこぼしたのを目の端で捉え、容赦なくその喉を蹴り抜いた。
「容赦ねえ!」
「こんなものを扱ってるような輩に容赦なんてするか」
深理がそう言って踏み砕いたのは、機械的なデザインをしている警棒だ。
手元にはスイッチがあり、先端は二つの刃のようなものが付いていた。
「警棒型スタンガン。スタンロッドと呼んだ方がわかりやすいか?」
「なんでそんなもん持ってんのこいつら!?」
「知るか」
夏木が黒服の拳をさばきつつそう叫び、深理が蹴りをいなしつつにべもなくそう言った。
そして黒服の隙を見つけた二人ともが、急所に渾身の一撃を叩きこんだ。
その場に蹲る男など気にも留めず二人は未央の安否を尋ねる。
「ところで笹月ちゃん無事!?」
「へ、平気!」
「笹月に手を出せば殺すがな、問答無用で」
未央を背に庇うように深理は闘いの場を立ち回っていた。
夏木は遊撃に近いポジションで、場の端から端まで縦横無尽に走り回って闘っている。
「お前ら、こっちも手伝えよ!」
涼護がおそらくは黒服のリーダーであろう大柄な男を相手どりながらそう叫んだ。
大男は周囲の雑魚と違って強いようだ。二人の身長はさほど変わらないが、肩幅や体つきの差もあり、膂力の違いは歴然だった。
サングラスのせいで目つきもわからない大男の拳が、涼護に襲いかかる。
「っ!」
「……チッ」
鉄拳を避けた涼護に、大男が舌打ちする。
バックステップで下がった涼護の背には、汐那が立っている。
目の端に汐那の姿を捉えた涼護が突然、その手を掴んで強引に引き寄せた。
「蜜都!」
「わっ!」
引き寄せられた汐那が先程までいた空間に、男が飛び込んで来ていた。
汐那を人質にする気だったのだろうその男の顔面に、引き寄せた勢いのまま涼護が回し蹴りを放つ。
顔面に爪先が突き刺さり、鼻血を拭いて倒れる男を尻目に、涼護はそのまま汐那を抱き寄せた。
「うえ!? ちょっと!?」
「色々危ないんでなァ!」
この体勢のほうがずっと危ないんじゃないか、と顔には出さないが内心そう思う汐那。
そんな彼女の耳に、女性の高笑いが聞こえてきた。
「あっははー!」
「ふわああ!」
「ぐげぶっ!」
見た目からはとても想像できない威力の蹴りが詩歩から放たれ、満を捕まえようとしていた男が一人吹っ飛んだ。
詩歩が剛毅に笑いながら闘っている。その姿は、まるでダンスを踊っているかのようだ。
正直なところ、涼護たちが闘い護りながらも喋っていられるほど余裕があるのは詩歩が雑魚を叩きのめしているからだろう。
満を抱えながら闘っているので、少女は悲鳴をあげっぱなしだったが。
「……邪魔をしないでもらおうか」
低い声で、リーダーがそう言い放った。
汐那を抱き寄せたままの涼護と対峙する。
「お前たちには、関係のないことだ」
「だろうな」
言い淀むこともなく、あっさりと涼護はそう言い放つ。
それに眉を釣り上げたのはリーダーと汐那だ。
そんな二人の表情の変化を知ってか知らずか、涼護は続ける。
「それでも、関わっちまった。今ここで見捨てるなんて、気分悪いどころの話じゃねェだろうが」
「大怪我をするよりはマシだろう」
「怪我なんぞどうでもいい。治るしな。けどここの不快さは、ずっと残んだよ」
自身の胸を指し、涼護は断言する。怪我なんてどうでもいい。残り続ける不快さのほうが嫌だと。
気づいたとしても、誰も気にも留めないだろう不快さすらも。
「……身体の痛みより、心の不快さのほうが耐えられないか」
「怪我は男の勲章っつーしなァ。それに……」
そこで、一度涼護は言葉を切った。
次に口を開いた時、そこにあったのは少年のような不敵な顔つき。
「なんだかんだ、俺は昼飯食い損ねてるんでな。腹減ってんだよ」
「……何?」
男は、涼護の言葉の意図を理解できないようだった。
涼護は不遜な笑みを浮かべる。
「どうせ食うなら、いい気分で食いてェんだよ。だから……あのガキも、蜜都も、未央も。皆護り切る」
今度こそ、男も汐那も言葉を失った。
「……たかだか、食事のために喧嘩を売ったのか」
「まあそうなるなァ」
不遜な笑いを消すことなく涼護はそう言う。
リーダーは不愉快そうな表情を隠すことなく歯軋りし、拳を鳴らす。
「……バカが」
「バカで結構。そういうわけだ、さっさと終わらすぞ中ボス」
涼護のその言葉を引き金に、二人は激突した。