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Solve  作者: 黒藤紫音
自分勝手なお人好し
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揚羽財閥

 揚羽財閥。

 アミューズメントやレジャーなど娯楽事業を中心とする国内有数の大企業で、「四大企業」の一つに数えられている。

 海外にも事業展開しており、将来的には国内どころか世界有数の大企業になると目されているほどだ。

 そして、「CITY澪都」にも関わっている。


揚羽(あげは)……?」


 まさかとは思いつつも、汐那は満と名乗った少女をじっと見つめる。

 彼女が身につけている服や靴は、汐那もよく知る高級ブランドだった。

 少なくとも、一般の年端もいかない少女が身につけているものではない。 


「……揚羽の親族かな。あそこ親類多いし……ありえそうだから嫌ね。ね、ひょっとして親戚に『揚羽(あげは)謳歌(おうか)』って女の子いない?」

「……お姉さん、謳歌お姉ちゃん知ってるの?」

「はいビンゴー」


 その名前には汐那も聞き覚えがあった。揚羽謳歌は、揚羽財閥の最有力後継者候補だ。

 年若い女性ながらもその才覚は確かなもので、すでに本社でいくつかの事業を任されているらしい。


「揚羽の身内の子供をどうするつもりかは知らないけど、アホじゃないのあいつら」

「ね、あのおじさんたち知ってる人?」

「ううん、知らない」


 未央の問いに首を振る満。

 汐那の中で、黒服連中の評価が「怪しい」から「危険」に変わる。

 そう思った次の瞬間、悲鳴と怒号が響く。


「はーい、野次馬はどけェ!」


 そんな大声と共に、赤がこちらに走ってくる。

 後ろには二人の黒服が涼護を追いかけている。

 その手には鈍く光る刃がある。


「涼護、叩きのめしなさいよそれくらい」

「いや、意外と強かったんで。あと被害拡大しそうでしたし。つーか逃げてくださいよ未央と蜜都とガキ連れて」

「私の辞書に逃げるの文字はないわ」

「不良品ですよその辞書」


 詩歩と軽口を叩きあいながら、おもむろに涼護が未央を抱きあげ、肩に担いだ。

 行動の意味がわからず目を見開いた汐那は、視点が突然上がったことで自身も詩歩に抱きあげられたことに気付く。

 

「……え?」

「舌噛まないようにねー」

「未央もな」


 詩歩の脇には満も抱えられている。

 言いつつ涼護も詩歩も柵に足をかけており、三人はこの師弟が何をしようとしているのかを察して叫んだ。


「ちょっ、待っ……!?」

「きゃあああああ!?」

「ふわあああああ!?」


 制止の声など気にも留めず、師弟は揃って三階の高さから飛び降りた。

 三人の叫び声が消える頃には、ドン!という重い音と共に一階に着地していた。


「着地成功、と」

「涼護、連中は追ってきてる?」

「階段のほう行きましたね。さすがに飛び降りたりはしないみたいです」


 三階では黒服が下を見下ろしながら何かを叫んでおり、すぐに姿を消した。

 追いかけてくるだろうことは、容易に想像がついた。


「……未央、蜜都ー。大丈夫か?」

「大丈夫に見えるなら眼科医通り越して脳外科いったほうがいいよ乙梨君。絶対障害あるから」

「大丈夫に見えなくてもお医者さん行ってバカ涼護」

「断固拒否する」

「大丈夫っぽいわねー」


 そう詩歩が笑い、汐那と満は降ろされた。

 未央も涼護から降ろされていた。


「うぐ……ひぐ」


 泣き声が聞こえて来て、汐那はさっとそちらを見る。

 満が泣くのを必死にこらえようとして、けれどこらえきれずに涙を零していた。


「あー、ごめんね。泣かないでー」

「よしよし」


 詩歩は苦笑しつつ、満を胸元に抱きよせた。未央も駆け寄り、一緒に慰めている。

 そのまま二人が撫でてあやしているのを汐那が見ていると、二階から声がした。


「おーい、何があったんだー?」

「……」


 二階の向かいから夏木と深理がこちらを覗き込んでいた。

 遅れて、周囲がざわめいているのに気付く。三階から人が跳び下りて来たのだから当然だ。


「……あ」


 普段とは感じを変えているので一見してくらいではわからないだろうし、それよりも人が跳び下りたということのインパクトのほうが強いから自分の素姓がばれることはないだろうが、思わず汐那は俯いた。


「色々あってな。とりあえず降りてこい」

「はいよ」

「……まったく」

「え?」


 汐那が呆然と呟くよりも早く、深理と夏木は柵を跳び越えて一階へと降りる。

 着地と同時に、床を踏み抜きそうな大きな音がした。


「で、何があったん? その子誰?」

「さァ?」

「オイ」


 涼護がとぼけたように肩をすくめると、深理が胸倉つかみかねない勢いで詰め寄った。

 まあまあと夏木が二人をなだめているのを見ていた汐那の視界の端に、黒服が映った。


「っ!」


 汐那がそれに気付いた時には、既に黒服たちは野次馬をかき分けながら向かってきていた。

 先ほどよりも数を増やし、手には鈍く光る刃を持って。


「危な――!」

「「邪魔!」」


 怒声とともに涼護の蹴りが顔面に、深理の蹴りが腹を蹴り飛ばしていた。

 吐瀉物と鼻血を撒き散らしながら、黒服は吹っ飛ばされる。


「……涼護、駅前のドカ盛りチャーシューラーメン奢りな」

「なら俺は味噌ラーメン特盛りで」

「お前ら上手い具合に千円以内にしやがって」


 言いながら、三人は汐那たちを護るように立ち位置を変えていく。

 深理は未央を護るように、夏木は満と詩歩を護るように、涼護は汐那を護るように。


「……っ」


 そのような立ち位置になったのはただの偶然なのだろうが、汐那は、まるで「護る」と言ってくれているような気になった。その背中が、これ以上ないほど頼もしく見える。


「その子を渡せ」


 慎重に距離を取りながら、黒服たちは七人を囲むように広がっていく。野次馬たちは刃物やそれ以外の物騒な武器に怖れをなしたのか、すでに姿は消えていた。

 そして、黒服連中の中から一際大柄な男が出てくる。

 集団のリーダーらしきその男は、言葉を続ける。


「そうすれば、危害は加えな」

「うるせェ」


 問答無用で涼護が跳ぶ。

 顔面狙いの蹴りを放ち、男はそれを防いだ。

 それを合図に、一気に場が動いた。


次話はアクション要素入ると思います。

さて、あと何話で終わるかな。

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