騒動
相変わらず難産です……
書きなおすかもです。
「未央ちゃん」
「詩歩さん。それに蜜都さんも」
「何があったの、笹月さん」
汐那と詩歩は、道中で未央と合流した。
傍には、まだ幼い女の子が震えながら未央の服の裾を握っていた。
「その子は?」
「迷子……だと思います。ただ、この子の関係者っていう人達と、涼護が……」
「何かあったのねェ。それでこの騒ぎか」
騒然としている周囲を見渡し、詩歩がそう言った。
にぎやかなのは休日のショッピングモールでは珍しくないことだが、この騒ぎは毛色が違う。
まるで何かに怯えるような騒ぎ方で、明らかな異常事態だ。だというのに、詩歩も未央も周囲と比べて落ち着いている。
汐那がそれを疑問に思い聞こうとした時、がっしゃあん!という轟音が響いた。
「え、何!?」
そちらに視線を向けると、あろうことか自動販売機が倒れていた。
倒れた拍子にどこか壊れたらしく、何やらぴーびーという不協和音を立てている。
周囲の野次馬が、轟音と倒れた自動販売機に驚き後ずさっていた。
自動販売機が倒れるようなことになった原因は、すぐ近くにあった。
「おらァ!」
「がふ!」
遠目からでも、赤い髪が見えた。
子供のような楽しげな表情を浮かべ、暴れまわっている乙梨涼護の姿が。
涼護は怪しげな男を蹴り飛ばしており、周囲にも何人か分の人影がある。
おそらく、自動販売機は暴れている涼護の被害を受けたのだろう。
「……あー、と」
そんな考えに至り、汐那の思考が一瞬止まった。
さすがに事態が呑み込めない。
モデルとして数年働き、それなりに修羅場を体験してきた汐那でもこれは理解の範疇の外だった。
「……笹月さん」
「なに?」
「何があったか、詳しく聞いていい?」
気を取り直し、未央をまっすぐに見据えて汐那はそう訊く。
完全に今の事態は理解の外だが、それでも涼護が何の理由もなしに暴れているとは思えない。
さきほど詩歩が言ったように、涼護は”自分勝手”かもしれないが、同時に”お人好し”なのも間違いない。
未央はうなずくと、ゆっくりと語りだした。
「涼護と待っていた最中に、この子を見つけて。『迷子かな?』と思って声をかけたの。お母さんとはぐれたみたいで、探しに行こうとして……」
「して?」
「横から急にあの人たちが。『関係者』って言ってたけど、この子怖がってたからちょっと気になって、話を聞こうとしたら私突き飛ばされて」
「突き飛ばされて、涼護がキレて喧嘩ふっかけたってとこ?」
「はい」
詩歩の言葉に頷いた未央。
汐那は、不安げに服の裾をぎゅっと掴んでいる幼い女の子を見下ろす。
かなり怯えている様子だが、それが騒動のせいなのか、それとも別の何かのせいなのかはわからない。
「……あの人たち、何なんでしょう?」
「うーん……なァんか、おかしいわねェ」
詩歩が腕を組んで考え込み始めた。
腕を組んだ拍子に、爆乳が持ち上げられるような形になって強調され、目のやり場に少し困る。
が、そんな場合じゃないと頭を切り替え、汐那は問いかけた。
「おかしい?」
「こんなところで、あいつらは何がしたかったの?」
その言葉に、汐那は少し考え込む。
詩歩は言葉を続ける。
「GWのショッピングモールよ? 人が多いし、何か悪いことやるなら不利なシチュエーションでしょ?」
「それは、そうですね」
悪さというのは人目につかないように行うのが前提になっている。
自暴自棄になっているならともかく、人目につけばそれだけ通報されたり邪魔される可能性が高くなるからだ。
だというのに、こんな昼間から連中は何かを――おそらくはなにか悪さをやろうとした。
「まァ、別にあいつらが犯罪やろうとしたとか断言するつもりはないけどさ、いくらなんでもやり方おかしいでしょ。いきなり女の子突き飛ばすとか、荒っぽすぎる」
「……じゃあ、何をしようとしたんだと思います?」
じっと上目遣いで詩歩を見つめる汐那。
なんとなくではあるが、彼女は連中がしようとした「何か」に見当が付いているような気がする。
「んー……仮説や予測は立てられるけど、断言は無理ねェ。確証ないし」
「それより……これからどうします? この子も……」
未央が女児に目を向けながら訊く。
女の子は不安げに辺りを見回していた。
「そういえば……名前は?」
「あ、そういえばまだ聞いてなかった……ね、お名前、聞かせてくれない?」
未央が優しい口調と声音で、そう尋ねる。
女児はぎゅっと自分の服を掴み、おどおどとしながら懸命に名乗った。
「……揚羽、満です」