週明けの朝
この章で、ようやくメインヒロインが登場です。
涼護の朝は遅い。
携帯に設定しているアラームで目が覚めても、すぐに切って二度寝をして次に起きた時、ようやくベッドから這い出た。
欠伸を噛み殺しながら朝の準備をし、買い置きのパンで朝食を済ませる。
「いってきまー……」
くぁ、と欠伸をしてアパートの敷地から出て、涼護は登校を始めた。
自転車を使う距離でもないし、基本的には徒歩だ。
「……だりィ」
涼護がこの陽羽で一人暮らしを始めてから、今年で五年目だった。
○
登校路に陽羽学園の生徒がちらほらと見える。
その生徒たちは涼護に気付くと、足早に距離をとった。そのくせ遠巻きに様子をうかがっている。
普段の所業と不良面もあり、涼護は一般の生徒には怖がられている。
とはいえ、涼護はそれに別段不満を感じたことはない。
見た目で人を判断するような人間は所詮その程度でしかないし、中には普通に接してくる物好きもいるからだ。
「おはよう、涼護。……眠そうだな」
「深理か。おはようさん」
枝崎深理。
物好きな生徒の一人である。
自然と二人は隣に並んで歩き始めた。
「眠そうだな」
「これでも二度寝してるんだがな」
欠伸を噛み殺しながらそう答えると、深理はくっくっと笑った。
そうして歩いていると、今度は涼護を見る視線とは違う視線を感じた。
視線の元を辿ると、数人の女子生徒が頬を赤くしてこちらを見ていた。
……正確には、涼護の隣にいる深理を見ていた。
はあ、と息を吐いた。
「……相変わらず、おモテになることで」
「……何のことだ、いきなり?」
「あー、はいはい」
適当に流した。
枝崎深理。
この男は陽羽学園において、間違いなく5本の指に入るほどの美形である。
要はめちゃくちゃモテるのだ。
あの熱のこもった視線で深理を見ている女子生徒たちはおそらく、深理のファンだろう。
「そうだ、深理。悪いけど、英語の宿題見せてくれねぇ?」
「別に構わないが……お前、出たの知ってるのならやってこい」
「面倒くさい。いいだろ、別に」
雑談しつつ、視線を全力で見なかったことにする。
恋愛事には正直あまり関わりたくない。
「……というか、あのババアの授業をさぼるのはやめたらどうだ」
「あんなババアの授業、最低限しか受けたくねえよ」
「気持ちはわかるが……」
などと話していると、陽羽学園の校門が見えてきた。