さっさと
「……思った通り、混んでるな」
「完全に出遅れたね」
「……あー……」
一行はレストラン街に到着した。……のはいいが、予想通りの人の多さに涼護が腹を押さえて呻いた。
そのまま自販機と一緒に並べられている椅子に、へたり込むように座った。
「涼護、大丈夫……じゃないか」
「どんだけ腹減ってるんだお前」
「あー、でも食えないとわかると俺も腹減ってきたわー……」
へたりこんだ涼護と同じように、夏木がからからと笑いつつ腹を撫でた。
詩歩が考え込むように唇に指を当てる。
「んー……とりあえず、空いてそうなところ探す?」
「あるかどうか怪しいですが」
「フードコートもいっぱいだろうしね、これ」
汐那の言葉を聞いて、涼護がさらにがくんと気落ちしていた。
よほど空腹が堪えているらしい。
「涼護はもうここで休んでなさいよ」
「そうします……」
詩歩に肩をぽんぽんと叩かれ、涼護ははぁと溜息をついた。
そんな涼護を尻目に、深理たちは話し始める。
「適当にばらけて店探すか」
「俺フードコートの方見に行ってみるわ」
「私涼護といるね。一人にしてたら絡まれたり警備員呼ばれたりしかねないし」
「というか、一人にしてたらそれこそトラブル呼び寄せかねないしねェ」
「「「確かに」」」
「え、そこまで?」
そんなことを話しながら、四人は深理と夏木ペア、汐那と詩歩ペアに分かれてそれぞれ散っていった。
残されたのは涼護と未央だけだ。
「……おとなしくしててね、涼護」
「……腹減って何もする気起きねェから安心しろ」
○
残った二人が自販機で買った飲み物を片手に皆を待っていると、唐突に未央が顔を上げた。
「……あれ?」
「どした?」
「あの子」
空腹を少しでも紛らわそうと、ペットボトルのお茶を飲んでいた涼護が未央の指差した方を見る。
そこには、おそらく小学生くらいの女の子が不安げな様子で辺りを見回していた。
「……迷子、かな?」
「たぶんな。気になるんならお前声かけろよ」
「私?」
「俺だと泣かれるってーの」
そう自分の顔を指差しながら言う涼護。
確かに涼護の顔は、どう控え目に言っても子供に好かれる類のものではない。
ぷっと吹き出しつつ、未央は立ち上がって子供の傍に寄る。
「……どうしたの?」
「お母さん、いないの……」
「そっか。じゃあ、お姉ちゃんと一緒にお母さん探す?」
「……うん」
涙をこらえつつ、女児は未央の服の裾をぎゅっと掴んだ。
そんな女児の頭を、未央が微笑みながら撫でる。
涼護はその光景を見てお茶を一気に呷ると、とりあえず迷子センターに行くべきかと腰を上げる。
「……失礼、お嬢さん。その子を渡してくれないか?」
「え?」
涼護が腰を上げるのとほぼ同じタイミングで、何やら黒服を着た男が未央に声をかけた。
「貴方たちは……この子の?」
「ああ、関係者だ」
関係者、というわりにはあまりにも怪しいその男に涼護が不審を募らせ、足を速める。
ここからでも、女の子が怖がっているのがよくわかった。
「……っ」
「あの、この子怖がって」
「いいからさっさと渡せ!」
「きゃっ!」
男に突き飛ばされた未央は、バランスを崩して床に倒れた。
それを見た瞬間、涼護は跳んだ。
「お姉ちゃん!」
「……さあ、こっちに……ぐぶあ!?」
女の子に手を伸ばそうとした男の横っ面を、涼護の飛び蹴りが襲った。
クリーンヒットした蹴りは頬を抉り、そのまま男は床に転がるように倒れこんだ。
周囲にいた他の客たちが何事かと騒ぎ始める。
「未央、大丈夫か?」
「っ、平気……」
「なら、詩歩さんに連絡入れて逃げろ」
そう指示しながら、涼護は二人を背に庇った。
頬を押さえながら男が立ち上がり、辺りから男の仲間と思われる人間が数人沸いて出た。
「こいつらは俺が潰しとく。行け未央」
「でも」
「いいから行けって。大丈夫だから」
言いつつ、飛びかかろうとしてきた男の顔面に拳を叩きこんだ。
また吹っ飛ばされ、仲間数人がどよめいている。
「……無茶しないでよ」
「はいはい」
そう言い残し、未央は女の子と一緒に駆け出した。
なんだなんだと野次馬が集まってきているのを横目で見つつ、涼護は拳を鳴らした。
「いいか、俺は今すこぶる機嫌が悪い。腹減ってるし、未央突き飛ばしやがったし。だから加減はできねェしするつもりもねェ」
こき、と首の骨を鳴らす。
「さっさと来いよ、莫迦共が」
次章は汐那視点予定です。
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