強引な
「服屋だけで一時間潰れたか」
「皮肉?」
「違ェよ、んな穿った見方すんな」
そんなことを話しつつ、涼護たちはレストラン街へ移動していた。
その道中にも数え切れないほどの店舗が並んでいて、詩歩や夏木辺りがふらっと立ち寄りそうになっていた。
「俺腹減った」
「急いだほうがいいかもな。GWだし間違いなく混んでる。座れるかどうか怪しいぞ」
「だね。お弁当作ってきたらよかったかな」
「そういえば、なんだかんだで私笹月さんの手料理食べれてないんだよね」
だからちょっと食べてみたかったなと言外に言う汐那に、未央が少し申し訳なさそうな顔になる。
そして何か言おうとした未央を、涼護がこつんと小突いた。
「また何か作って持っていけばいいだろ。次の機会をご期待ってことで」
「あ……そうね。蜜都さん、よかったら今度何か作って持っていこうか?」
「いいの?」
「うん」
未央がそう頷き微笑みを返すと、汐那も微笑みを返した。
その光景を見た涼護が歩く足を速めようとすると、上着の裾をくんと引かれる。
歩く速さはそのままで涼護が肩越しに後ろを見ると、裾を持っていたのは未央だった。
未央は涼護にしか聞こえないような小声で言う。
「ありがと、涼護」
「何が?」
感謝の言葉に涼護が愛想のない口調で返しても、未央はくすりと微笑んでいるだけだ。
何やら負けた気がして、涼護は舌打ちとともに前を向いた。
「あ、雑貨屋」
「はい?」
涼護が振り向くと、詩歩が店先に並べられているアクセサリーなどの雑貨を手に取っていた。
思わず足を止めると、いつの間にか汐那や未央もそちらに移動していた。
「結構可愛いのもあるね」
「だね」
各々アクセサリーを手に取り、女性陣は何やら楽しみ始めてしまっていた。
はぁと涼護が溜息をつくと、深理や夏木も少し苦笑していた。
「興味あるんですか?」
「うん。こういうの可愛いと思わない?」
「可愛いかもしれませんけども、俺腹減ってるんですが」
腹を押さえつつ涼護がそう訴えるが、詩歩含む女性陣はそんな訴えどこ吹く風だ。
あまつさえ未央や汐那は店先から店内にまで入って行ってしまった。
深理や夏木もそれを追って中に入って行く。
「こういうのもいいなぁ」
「こっちも可愛いよ」
「買おうか、お二人さん?」
「え、いいよそんな」
「二人のを合わせてもたかだか千円程度のものだろう」
深理と夏木がそう申し出るが、未央も汐那も遠慮からかはたまた別の理由からか、頷こうとはしなかった。
涼護はそんな二人と詩歩を見て、チッとまた舌打ちする。
「だから腹減ってるっつってんだろが」
言うが早いか、涼護は足早に三人が手に取っていた雑貨をすべて奪った。
そしてそのまま、三人に口を挟む隙も与えずレジに直行する。
「これ全部。あと袋分けてください」
「はい」
レジの店員は涼護の言葉を笑みとともに聞き入れ、丁寧にアクセサリーを梱包した。
代金を払い、涼護は梱包された三つの袋をそのまま三人に手渡した。
「ほら、これでいいだろ。行くぞ」
「あ、うん」
涼護から押しつけるように袋を手渡され、汐那は反射的に受け取った。
未央や詩歩も同様だ。
「……強引」
そう呟いた汐那だが、その言葉に涼護を咎めるような響きはない。
未央も苦笑いを浮かべているが、その表情に非難の色はない。
「いい男でしょ?」
詩歩がそう言って、汐那に向かってウィンクをした。
そして、詩歩は店外に出て行った涼護を追いかけるとそのままの勢いで背中に抱きついた。
「ありがと、涼護!」
「っだあ、何がですか。俺は腹減ってただけです」
「うんうん。そういうことにしておいてあげる」
「だから……つか離れてください。邪魔です」
「えー?」
「……ったく」
はぁと一つ息を吐き、涼護は詩歩を背中にくっつけたまま歩きだした。
未央は苦笑、深理と夏木はどこか悔しそうな表情を浮かべて、そんな二人の後を追って歩き始めた。
汐那も置いていかれないように歩きだした。
「……いいなぁ」
ぽつりとそう呟かれた汐那の声は、モールの喧騒の中に紛れて消えた。
こういう強引さ、どうなんでしょうね実際。