服装事情
「まずどこに行く?」
「計画とか練ってないんですか、詩歩さん」
「その辺は涼護にお任せ!」
「アンタなァ……」
呆れて涼護が溜息をついた。
そもそも今日の発端は詩歩だというのに、この無計画ぶりはいかがなものだろうか。
「……ボーリング、映画館。有名書店……」
「おいスパもあるぞ」
「巨大にもほどがあるでしょ……」
他にもカラオケや身体を動かすためのスポーツ場、アパレル系の店舗など様々だ。
いくつもの大企業が関わっているだけあり、モールとしてかなり充実している。
「どうするの?」
「あー、そうだな。今10時半だし……一通り店見て回ってたらいい時間になるだろ。その後は昼食いながら決めりゃあいい」
涼護がとりあえずの予定を決める。
確かにモールはかなりの広さだし、まず見て回ってからのほうが予定を立てるのにいいだろう。
皆異論はないらしく、涼護の言葉に頷いていた。
「じゃ、どこから行く? 希望あるか?」
「私服見に行きたいんだけど、いい?」
「あ、いいねそれ。私も賛成」
「蜜都ちゃんたちがいいなら、俺異論ないぜー」
夏木の言葉に深理が頷いた。
涼護としても特に見たい店があるわけではないので、汐那の案に異論はない。
ちらっと詩歩を見るが、異論があるようには見えない。
「んじゃ、行くか」
○
「あ、これ可愛い」
「どっちにしよう……」
訪れた服屋は汐那や未央たちの行きつけのブランドだった。
汐那は仕事でこのブランドの服を着たことがあるらしいが、服なんて着られればいいと思っている涼護からすればこういうブランド志向の店には興味が沸かない。
「お前らよくやるな」
「女の子だもん」
「涼護はもう少し見た目に気を遣ったら?」
呆れたようにぼやいた涼護に、女の子二人がからかうように言う。
というか、と汐那は上から下まで涼護を舐めるように見て、口を開いた。
「乙梨君センス良いのになんでそこまで無関心?」
「俺が選んでるわけじゃねェぞ、服」
「ほうっておいたらぼろぼろになってる服でも普通に着るから、私が見繕ってるの」
「着れればいいだろ」
「少しは勇谷君とか見習ったら?」
そう言って未央が指差したほうを見ると、夏木が服を選んでいた。
このブランドは男物も扱っており、その上クオリティも高い。そのためか、心なし服を選んでいる夏木は楽しそうに見える。
「夏木は目的がはっきりしてるからなァ」
「目的?」
「女にモテたいんだと。わかりやすいだろ?」
「聞こえてんぞ涼護」
笑いながら言った涼護の言葉が聞こえていたらしく、夏木が近づいてきていた。
夏木は涼護の腹に軽く拳を入れつつまくし立てた。
「女性にモテたいと思うのがいけないことかね!?」
「落ち着け、悪いとは言ってねェ」
なんてことをしていると、深理が呆れ顔で店の奥から出てきた。
呆れた様子を隠そうともせず、深理は呆れ口調で言う。
「何やってるんだお前ら」
「爆ぜろ美形!」
「無視していいからな。てかお前、もう買ったのか?」
涼護は深理の手元を見つつそう言った。
黒い大きめの袋が二つ、深理の手にあった。袋にはこの店のロゴがある。
「即断即決の何が悪い?」
「それにしたって早いと思う。もっとゆっくり選んでもいいと思うよ?」
「あらかじめ買う服の検討はつけていたからな。笹月の言うようにゆっくり選ぶのも悪くないとは思うが」
「検討?」
「あのモデルが着ている服を一式買っただけだからな」
深理が、壁に貼られているポスターを指差しながら言った。
そのポスターには、二十代と思われる男性が服を着こなしている姿が写っている。
「……一式そのままかよ。普通はある程度自分に合わせて崩すもんだろ」
「なんか枝崎君の服に見覚えあるなって思ったらそういうこと……」
深理の服装事情を知り、涼護と汐那が揃ってなんとも言えない表情を浮かべた。
ちなみに夏木はなぜか撃沈していた。思うところがあったのかもしれない。
「んで、未央は相変わらずパンツ系か。スカートとかにしねェの?」
「スカート動きにくいでしょ?」
「蜜都みたいなワンピースとか着ようとか思わねェのか?」
言いつつ涼護が汐那を指差す。
微笑みつつ汐那がくるりと回り、白いワンピースの裾がふわりと舞う。
「着たいと思わないわけじゃないけどね。パンツ系のほうが好き」
「私も嫌いじゃないけどね。でも笹月さんも似合うと思うよ?」
「ありがとう、蜜都さん」
ここで”も”を付けている辺り、さすがというかなんというか。
そんな的外れなことを思いつつ二人を見ていた涼護に、後ろから声がかかった。
「涼護ー」
「詩歩さん?」
詩歩が服を持ちながら歩いてきていた。
後ろを振り返った涼護に、詩歩が持っていた服を見せ付ける。
「ね、これどう思う?」
「どうって……」
そう言って詩歩が見せたのは、やたら布面積が少ないというか、露出の高そうな服だった。
涼護はげんなりとした顔になる。
「……相変わらず露出多いというか、乳丸出しですね」
「何よ、問題?」
「というか、それの良し悪しなんて俺に聞かないでください」
はぁとため息をつき、涼護は髪をかきあげた。
そのまま赤い髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「うわ。すごく露出高そうな服ですね」
「こういう系統の服のほうが動きやすいからね。変にひっかかったりするし」
「理屈はわからなくもないんだけど、詩歩さんの身体でそれ着たら……」
詩歩のスタイルは、間違いなくこの場にいる女性陣の中で一番豊満だ。
そんな身体で露出の高い服なんて着たら、教育上非常によろしくないことになるだろう。
「なんでもいいので、買うなら買うで早くしてください」
「えー、意見言ってよ」
「どうせ俺の意見なんて聞くまでもなく決まってんでしょうが」
「まあねー」
「だったら早く買ってこい。未央たちも買うならさっさとしてくれ」
はーいと笑いながら汐那と詩歩が答え、未央も苦笑いしながら服選びに戻った。
まだまだかかりそうなことがわかり、涼護はまたため息をついた。
涼護はカジュアル系、夏木はラフなのが好きだと思います。深理は派手すぎなければ特にこだわりないかと。