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Solve  作者: 黒藤紫音
六人で
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で、なんで

「……なんかあったの?」

「さあ?」


 詩歩の問いに、涼護はとぼけたようにそう答える。

 その答えに半目になって涼護を見る詩歩だが、すぐにやめた。


「まあいいわ。早いところ行きましょう?」

「了解」

「はい」


 涼護は助手席に、汐那は後部座席に乗り込んだ。

 汐那の隣に座っているのは、未央だ。


「笹月さん」

「こんにちは、蜜都さん」

「ええ、こんにちは」


 和やかに挨拶を交わす二人。

 そんな女子二人の間に、口を挟んだ者がいた。


「蜜都ちゃん、お久ー! 俺のことわかる?」

「えっと……勇谷君だったっけ?」

「そう、勇谷夏木! で、この美形野郎が枝崎深理な」

「夏木、うるさい」


 妙にハイテンションな夏木と、何やら機嫌の悪そうな深理の姿が対照的だった。

 汐那は笑顔で二人に接する。


「うん、覚えてるよ。枝崎君も勇谷君も」

「今日はよろしくな、蜜都ちゃんも笹月ちゃんも!」

「……すまないな、笹月。やかましくて」

「気にしてないよ。元気なのはいいことでしょ?」

「さすが笹月ちゃん優しー!」

「黙れ夏木」

「あはは、本当元気だね」


 テンションの高い夏木とそれを諌める深理、笑っている未央と汐那という構図ができあがっていた。

 バックミラーでそれを眺めつつ、涼護は苦笑を浮かべた。


「何やってんだか」

「いいじゃない、仲良さそうで。じゃ、出発するわよー」


 そう宣言するのとほぼ同時に、六人を乗せた車が発進した。



 「CITY 澪都みおと」。陽羽市から二つ隣の街、澪都市にある巨大ショッピングモールである。

 去年正式オープンし、現在でも盛況を誇っている。

 涼護ら六人の本日の目的地である。


揚羽あげは時嶺ときみね成海なるみが関わってるとか豪勢だよね」

「出資とホテル系が時嶺、娯楽系が揚羽、成海は宝飾関係だけどな」

「それにしたって相当だろう」


 深理がそう言うと、確かにと涼護が頷いた。

 今名前が出た企業は、どれも有名な企業ばかりだ。

 時嶺はホテル業界では一二を争うレベルの大企業、揚羽はレジャーやアミューズメント関係では業界トップの企業であり、成海は世界にも出店している宝飾企業である。


「そういやプールとかもあったっけ?」

「あったかもしれんが、さすがに今の時期は開いてないだろ」

「というか、開いてたとしても水着とか持ってきてないよ私」

「レンタルとかあるだろうし、探せば販売してるお店もあるんじゃないかな。この規模のモールなら」

「待て、プールに入るという方向に話が向かってないか。嫌だぞ俺は」


 深理がそう言って顔をしかめると、夏木が目敏く反応する。

 けらけらと笑いながら口を開いた。


「あれー、深理君泳げないんだー……あだだだギブギブ」

「去年水泳の授業で泳いでたのを見てるはずだがなお前は。脳の記憶野に障害が出てるんじゃないか?」

「やめてくれその脳みそが出てきそうだギブ」


 夏木の顔面にアイアンクローを極めつつ、深理は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 その様子に汐那が何かを察したような顔になり、未央はきょとんと首を傾げていた。


「じゃあどうして? 泳ぐの嫌い?」

「嫌いではないんだが……肌を出すのが少しな。あまり強いほうじゃないんだ」

「日差しなら今の時期そこまで強くないんじゃ……」

「そうかもしれないが、やはり少し抵抗があるんだ」

「そっか」


 なら仕方ないねと未央が納得したのを見てから、深理は一つ息を吐いて夏木を解放した。

 そんな深理に、汐那が声を潜めて言った。


「……それに、異性の視線も惹くから?」

「……わかるのか」

「わかるよ、私もそうだし」

「……まあ、そういうことだ」


 美男美女特有の悩みもあるらしい。

 変なところで親近感を覚えている二人に気付いた夏木が口を開く。


「どした?」

「何でもないから黙ってろ」

「何にもなくないだろ、仲良くしちゃってさ」

「え、どうしたの?」

「気にしなくていいよ、笹月さん。ちょっとね」

「そのちょっとを知りたいんだけど」

「黙れ」


 仲が良いのか悪いのかわからない会話である。

 そんな後部座席の四人に聞こえないよう、涼護は声を潜めた。


「……で、なんで蜜都連れだしたんですか?」

「んー? 涼護と同じようにお節介の虫が騒いじゃって」

「……詩歩さん」

「別に嘘じゃないわよ。それに面白そうじゃない、あの子。張り詰めてて、今にも弾けそうでさ」

「正直、趣味悪いです」

「楽しければオールオッケーなのよ、私は」


 そうだった。

 詩堂詩歩という人間は、自分が楽しむためならば周囲の事情お構いなしの台風のような女性なのだった。

 そんな当たり前のことを失念していた自分に、涼護は溜息をついた。


「何溜息ついてるの、幸せ逃げるわよ?」

「誰のせいですか、誰の」

「ふふっ」


 楽しげに笑っている詩歩を見て、涼護からまた溜息が漏れた。

 目的地に着くまで英気を養っておくことに決めた涼護は、目を閉じて眠る体勢に入った。



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