どうした?
9章終了です。
ようやくです……
「素行調査か何か?」
「ノーコメントだ。つかお前マナーはどうした」
詩歩が離れて行った後、汐那が声をかけてきた。
そのくせ返答は期待していなかったらしく、汐那は涼護の言葉を聞いてもにこにこ笑っているだけだ。
「……で、お前この後どうするんだ?」
「うん?」
「まだ仕事残ってるから、詩歩さん戻ってきたら俺らまた移動するぞ?」
車を取りに行かないといけないので一度戻る必要はあるが。
涼護がそう言うと、汐那は唇に指を当てて考えるような素振りを見せた。
「ん、それなら私もそろそろ家帰るよ。ありがとうね、付き合ってくれて」
「気にすんな。またなんかあったら言えよ」
「うん、ありがとう」
そうしているうちに詩歩が戻ってくるのが見えた。
涼護が詩歩のほうに足を向けると、汐那は別の方向に足を向けていた。
「それじゃあ、私ここで」
「おう」
そう言って汐那と別れると、涼護は歩き出した。
すぐに詩歩と合流し、二人並んで歩く。
「綺麗だったわねェ、さっきの子」
「そりゃ現役モデルですからね」
「あら意外。涼護が素直に認めるなんて」
「うっせェ」
何かを誤魔化すように早足になる涼護。
そんな涼護を見て詩歩はくすくすと微笑い、追いかけるために駆け足になろうとして。
「きゃあ!?」
悲鳴が聞こえ、涼護と詩歩が振り返った。
汐那が自転車に乗った男に突き飛ばされていた。
男の手には明らかに女物のバッグ。見間違えでなければ、あのバッグは汐那のものだったはずだ。
「ひったくりかよ!」
「みたいね!」
涼護が舌打ちと共に走りだし、詩歩もそれを追うように走りだした。
自転車はスピードを増して向かってくる。
「どけえ!」
「どかねえよ」
涼護は臆することなく自転車の前に躍り出て、叫んでいる男の顔面に拳を叩きこんだ。
空中に投げ出された男の身体が地面に叩きつけられると同時に、乗り手を失った自転車が倒れる。
「うぐ……」
「逃げられるわけないでしょ?」
鼻血を噴きつつも逃げようとしていた男の腕を詩歩が極めた。
その腕から、ゴギンと何かが外れる音がした。
「わざわざ肩外さんでも」
「後ではめるわよ」
言いつつ、詩歩は激痛に悶えている男の手からバッグを奪い取った。
それを認めつつ、涼護はこちらに向かっている汐那に声をかけた。
「蜜都、怪我は?」
「平気。ありがと」
「はい、これどうぞ。蜜都さん」
「ありがとうございます」
詩歩からバッグを受け取りつつ、汐那はじっと涼護を見た。
涼護は身じろぎしながらも、その視線を受け止めた。
「なんだよ?」
「捕まえてくれたのはありがとう。でも自転車をパンチで止めるとか……バカ?」
「バカ言うな。正面から衝突するわけにもいかないだろうが」
「そういう問題?」
「こいつにとってはそういう問題なのよ」
けらけらと笑いながら、詩歩は涼護の頭に手を置いた。
ぐっと押さえつけながら、その頭を撫でまわした。
「なんにせよよくやったわ愛弟子!」
「ちょ、褒めるにしてもやり方考えてください痛いんですけど」
口では憎まれ口を叩く涼護だが、決して嫌がってはいないことがその口調と様子から見て取れた。
それを詩歩もわかっているのか、にこにこと笑いながらぐしゃぐしゃと頭を撫でまわしていた。
二人のその姿は、まるで母親が息子を褒めているような光景で。
「……っ」
二人を見る汐那の顔が、一瞬悲しそうな顔をしたのが涼護には見えた。
詩歩の手を頭からどけて、涼護は口を開く。
「蜜都、どうした?」
「なにが?」
汐那は笑顔だった。先ほどの悲しげな顔は、涼護の気のせいだと言わんばかりに。
一瞬気のせいだったのかとも思いそうになったが、絶対に気のせいじゃないという妙な確信が涼護の中にあった。
それは詩歩も同じだったようで、じっと汐那を見つめていた。
そして、唐突に口を開いた。
「んー……ねえ、蜜都さん」
「はい?」
「GW、暇?」
「え?」
誰かが呼んだのか、パトカーのサイレンの音が聞こえた。
次章はいつになるかわかりませんが、早めにしたいと思います。