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Solve  作者: 黒藤紫音
仕事風景
43/77

「勘違いするぞ」「いいよ?」

挙げ直しです。

そしてもう一話続きますこの章。

「しかしお前、出かけるなら最初の時みたいに変装くらいしとけや」

「あれはストーカーへの対策込み。折角のフリーなんだからいいでしょ、羽目外しても」

「それでナンパされてちゃ世話ないだろが」


 呆れる涼護に汐那はむっと頬を膨らませていた。

 詩歩に連絡を入れ、告げられた目的地に向かって二人は歩いている。


「買い物か何かか?」

「んー、どちらかといえば街の地理の把握かな? あんまりわかってないから」

「なるほど。時間があったら案内くらいしてもいいんだけどな」

「いいよー、気を遣わなくて」


 言いながらひらひらと手を振る汐那。

 涼護は所在無げに首の後ろを掻きつつ、口を開く。


「未央は? あいつそういうの買って出そうだけど」

「申し出てはくれたよ? ちょっと私の予定が合わなかったけど」

「……そういや今日あいつ部活の助っ人だっけか」


 話の流れでそんなことを聞いたような気がする。

 未央は運動神経が良く、お人好しなので部活の助っ人を頼まれやすい。


「うん。で、日曜日はこっちが無理」

「さよか」

「うん。まあ街の把握とは別にもう一個目的あるけどね」

「なんだ?」


 当然の流れとして涼護が訊くと、汐那はにっこりと蠱惑的な笑みを浮かべた。

 薄い桃色の唇を開く。


「君を探してた、って言ったらどうする?」

「……はいはい」


 一瞬くらりと来たのを誤魔化すように、涼護は目を逸らし、適当にあしらう。

 ぞんざいにあしらわれても、汐那はくすくすと微笑んでいるだけだ。


「勘違いするぞ」

「君ならいいよ?」

「どこまで本気で言ってる?」

「さあ、どこまでだろうねー?」


 チッと涼護は軽く舌打ちした。

 からかわれているのがわかっているのに、上手い反撃の手が思いつかない。

 微笑んだままの汐那が少々腹立たしい。


「てか、着いてくるのはいいがつまんねェぞたぶん」

「君と少しでも話せるのならそれで充分だよ」

「だからそういうこと言うな本気にするだろが」

「だから本気にしてもいいんだってば」


 心底面白そうに笑いながら言われても本気にできるか、と言いかけて涼護は口を噤む。

 そんなことを言ったらどんな反撃が来るかわからない。


「お前、性格悪い」

「今更何言ってるの? そんなのあの時わかってたでしょ」

「改めてそう思ったから口にしたんだよ阿呆」


 猫かぶりをやめろとは言ったが、ここまで素を出されると対応に困る。

 チッと涼護がまた舌打ちをすると、汐那はにやにやと笑い始めた。


「んだよ」

「君の困ってる姿が面白いなって」

「どつくぞ」

「あ、君ってそういう趣味なの? 受け入れられるように頑張るね」

「おい本当にどついたろかこのアマ」


 ビシ、と軽く汐那の額にデコピンを入れる。

 汐那は額を押さえてその場に立ち止まるが、涼護は無視して先に進んだ。


「ちょ、そこは止まってよ」

「お前が悪いんだろが」

「ちょっと調子に乗ってたごめんって」

「誠意がこもってないぞ」

「いや頭下げろっていうなら下げるけど」

「そこまでしろとは言わんが少しは控えろ」

「はーい……」


 残念そうに頷く汐那の姿に、涼護は三度目の舌打ちをした。

 そのまま、汐那の手を掴む。


「……うぇ?」

「これくらいにまけとけ。いいから行くぞ」

「あ……」


 細い手を潰さないよう、なるべく軽く掴みながら歩く。

 しばらく歩き、何も言わなくなった汐那を怪訝に思った涼護が振り返る。

 そこには、頬を薄く染めた汐那がいた。


「……おい、なんでそんな反応してんだお前」

「え、あ、いやー……こんな反撃されるとは思ってなくて」

「それで赤くなってんのかよ。身体測定の時は俺に乳押し付けてきた癖に」

「あ、あれはその場の勢いで……ってわかってたのならなんでリアクションしないかな!?」

「師匠で慣れてるし、リアクションしたらからかい倒すだろお前」


 そう言うと涼護は前に向き直った。

 そのまま歩き始めると、汐那もおとなしく着いてくる。

 きゅっと手を握り返された。



「アンタナンパとかするキャラだっけ?」

「断じて違う!」


 詩歩と合流すると、開口一番そんなことを言われた。

 ひどい濡れ衣だ。


「初めまして、詩堂さん。蜜都汐那です」

「正確には初めましてじゃないけどね。詩堂詩歩よ、よろしく」


 汐那の言葉に返事しながらも、詩歩の視線は下に向いている。

 先ほどからずっと繋がれている、涼護と汐那の手に。


「仲良くなったわねェ。まあ涼護なら不思議じゃないけど」

「どういうことですか」

「自分で考えなさいな」


 睨みつける涼護だが、詩歩はまったく意に介さずに笑っていた。

 詩歩に話すつもりがないことを長年の付き合いから悟り、涼護は一呼吸入れて頭を切り替えた。


「で、対象は?」

「あれ」


 詩歩が指差したほうを見る。

 そこには調査対象の男とその連れの女性。そしてもう一人女性がいた。


「どういうことなの!?」

「ねえ!」

「あー、いやその……」


 修羅場だ。

 女性二人がものすごい剣幕で男に詰め寄っている。


「……三股?」

「みたいね」

「ちなみに蜜都さん、お前的にああいう男は?」

「最低」


 一刀両断の評価である。涼護も同感だが。

 パァンッと張りの良い音が響いたと思うと、男がその場にぶっ倒れていた。

 どうやら女性二人に張り倒されたらしく、怒りも顕わに二人は男を放置して歩き去って行った。


「自業自得だな」

「女の敵だね」


 涼護と汐那は揃って虫けらを見るような目で伸びている男を見た。

 詩歩はくつくつと喉で笑いつつ、涼護を指でつついた。


「何です?」

「私、依頼主に連絡してくるわ。中間報告と調査継続で」

「継続する必要あります?」

「三股だけだと思う?」


 詩歩にそう問われ、涼護は一考し……げんなりとした表情を浮かべた。

 当初二股だと思っていたのが三股だったのだ。四股、五股も可能性としては充分ありえる。


「……確かに可能性としては捨てきれませんか」

「そういうこと」


 詩歩はそう言って指をくるりと回して立てた。

 ウインクするように片目を閉じ、詩歩は口を開く。


「だから、それまであの子をちゃんとエスコートしてなさい、おバカ弟子」

「……了解しました、阿呆師匠」


 涼護の返事を聞き、詩歩は楽しそうに笑ってその場から離れて行った。



汐那は攻められると弱いので常に先制攻撃です。

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